第40話 最終決戦へ

「ハッハッハ! この姿で暴れんのも久々だなぁ!」

「リーダー、あんまり調子乗って怪我しないでよ!」

「ナルお姉ちゃんも気をつけて!」


 水に浸されていない平地に降り立つと、獣の姿に変身したナルやバグー、ミアがモンスターの群れを相手に暴れまわっていた。


 アンバスやリラ、ドゥーベもそれに加わり、モンスターの数は確実に減ってきている。


 ここまで来たら総力戦だ。

 ルアのスキルのおかげでかなりのモンスターを削れている。


 あとは残ったモンスターを各個撃破していければ……!

 そう考え、僕が魔石剣エルブリンガーを抜いたその時だった。


 ――グォルアアアアア!


 聞いたことのある咆哮が響き渡る。


 棍棒を持つ緑の巨体、僕が王都を出て初めて戦ったモンスター、ジャイアントオークだった。

 【索敵】スキルで察知したところ、その数は10体。


「うひゃー、来たー!」


 素早い動きでこちらとの距離を詰めてくるジャイアントオークにナルが驚きの声をあげる。


 通常のオーク種には無い疾さ。

 やはり黒い石を扱う呪術師クロが裏で手を引いているんだろう。


「ルア、僕の後ろに!」


 僕は魔石剣エルブリンガーを眼前に構え、ちらりとルアを見やる。

 思えば、初めて欠落紋の力を使ったのはルアを救おうとした時だった。


 【命中率上昇】のスキルを使用、加えてアンバスが多数の敵に有効だと言っていた新スキル【スキルチェイン】を併用する。


「ハァアアア! ソードバッシュ!」


 突進しながら繰り出したその技は、以前の剣技とは段違いのスピードでジャイアントオークの右胸部を貫く。

 と同時に周囲に凄まじい衝撃波が巻き起こる。

 そして、一体のジャイアントオークが倒れるのと同じくして、全てのジャイアントオークが倒れ込んだ。


「す、すげぇ。あの数のジャイアントオークをいっぺんに倒しちまうなんて、リジルさん半端じゃないッス!」

「リジル、ちょーすごい! また強くなった!」


 今のは……。【命中率上昇】のスキルでクリティカルヒットした攻撃が他のジャイアントオークにも波及したのか。


「な? だから言ったろ。今のお前は多数の敵だって余裕だと」


 アンバスが自慢げな笑みを浮かべていた。


 これならいける……!


 僕は続けざまに【スキルチェイン】を使って周囲のモンスターを討ち倒していく。

 少しすると、核である魔石を砕かれたモンスターの屍体が辺り一帯に積み上がっていた。


「フッ。まったく君には驚きだなリジル」

「リラさん。これでモンスターの群れは……。いや、まだみたいです」


 周辺の状況を確認するため【索敵】スキルを使用すると、一際強大なモンスターの反応を探知する。


 遠い上空から現れたモンスターは、体が黒い鱗に覆われた邪竜。

 その出で立ちは以前ナルの獣人の里で戦ったボルケーノドラゴンとよく似ていたが、それとは比べ物にならないほどの大きさだった。


 そして、その背に乗っていたのは……。


「ルギウス! クロ!」

「ククク。先日の借りを返しに来たぞ、リジル!」


 僕がその姿を認めると、ルギウスは憎悪に満ちた目で見下ろしている。

 その隣で不敵な笑いを浮かべているのは黒いローブを身にまとったクロだ。


 やはり、ルギウスはクロと繋がっていたのか……。


「よせ、ルギウス! 王都を襲撃して何になる! そのクロという男は魔王を復活させようとしているんだぞ!」

「知っているさ、リジル。だが、そんなことはどうでも良い。今や俺が求めるのは強さのみ!」

「ルギウス……!」

「問答は終わりか? ならばこちらからいくぞ! ゆけっ、ティアマットよ!」


 ――ギャァアアアアアアス!!


 ルギウスの声を攻撃の合図とするかのように、邪竜は口から黒い光弾を続けざまに吐き出す。


「そらそら! 仲間を守りながら戦えるか!」


 黒い光弾は凄まじい圧を放ちながら接近してきた。

 それは僕だけにではなく、仲間たちに向かっても放たれている。


 王都での決闘の際はルギウスが無差別に放った黒い影によって防戦一方になってしまっていた。


 でも、今なら……!


 今度は【スキルブレイク】と【スキルチェイン】を併用し、魔石剣エルブリンガーで黒い光弾を迎撃する。

 それにより邪竜から放たれた黒い光弾は一つ残らず消滅した。


「な、何っ!?」


「ルアっ!」


 そして、すぐさま僕はルアから投擲用のジャベリンを受け取り、【命中率上昇】のスキルを乗せてティアマットに投げつけた。


 ――グギャァアアアアア!


 クリティカルの一撃を受けた邪竜は空中で大きくのたうち回った後、霧散して夜の空に溶けていった。


「くっ、またそんな技を……」

「だから言ったでしょう、ルギウス君。彼の持つ紋章、欠落紋の力は常識では測れないんですよ。まったく、忌々しいものです」


 ティアマットの背から地上に降り立ったルギウスとクロはそんな言葉を交わしている。


「やはり、俺自身の手で決着をつけるしかないようだな……。呪術師、貴様は手を出すなよ」

「存分にどぉーうぞ、ワタシはここで見物させていただきますから。クケクケクケッ」


 クロを制して僕の方に歩いてくるルギウス。


 その体は王都で決闘した時と同じ、ルギウスの体は所々が黒い影に侵されている。

 しかも、侵食されている部分は以前にも増して広がっていて、人間と言うよりもモンスターの姿に近かった。


「やめろルギウス! そんな姿になってまで勝ちたいのか!?」

「勝ちたい? ああ、勝ちたいねぇ。俺が今守りたいものは自分自身のプライドだけだ!」


 ……守りたいもの。


 僕は後ろを見る。

 そこには、かつて王都を追い出された僕を受け入れ信じてくれた仲間たちがいる。


 そして、


「リジル様……」


 僕が一番苦しかった時に支えてくれたルアがいた。


 そうだ。

 僕の守りたいものはここにある。


 僕は意を決して剣を構え、ルギウスと対峙した。

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