第4章 変わる評価
第27話 王との面会、そして最高位ランクの授与
「リジル様、本当に私たちまで同行してよろしいのでしょうか?」
王都の街中を歩きながら、ルアは少し不安そうな顔をしている。
「大丈夫だって、ルアお姉ちゃん。だって王様がみんなで会いに来ていいって言ってるんでしょ? へーきへーき」
「そうは言っても、緊張するッス……」
大狩猟祭を終えて数日が経ち、僕たちはまだ王都に留まっていた。
本来であれば、大狩猟祭の閉会式で王から優勝者に覇者の冠を授ける儀を行う、という流れらしいのだが、デュラハンの一件で王の避難を優先したために授与の儀は後日行うことになっていたのだ。
「心配はいらないさ。リジルはもちろん、君たちが大狩猟祭で起きた一件で多大な活躍をしてくれたことは伝えてあるからな。王も感謝しておられたよ」
「リラさんは王にもよく会われるんですか?」
「ああ。私たちミダス商会は王宮御用達の商会だから、それなりの面識はあるんだ」
僕は感嘆してリラの横顔を見る。
美麗な顔立ちで、僕やルアとそう変わらない年に見えるのに王都でも一番と言える商会の長を務めているリラ。
リラの話を聞いたところでは、幼い頃に商会を大きくしようと決心するきっかけになった出来事があったようだが、その詳細までは教えてくれなかった。
何にせよ、そんな凄い人が僕たちを何かと推してくれているのは何というか、少し恐れ多い気もする。
「安心してくれ。シリング王は心の広いお方だからな」
言って、リラは少し遠くを見るような目で付け足した。
「まあ、ちょっと変わったお方だが……」
***
シリング王――。
数年前に先代から王の座を継承し、若くしてこの王都の改革を進めてきた人物だ。
以前は街中で奴隷商を見かけたり窃盗や暴行の事件が起こるなど、何かと治安が良くない王都だった。
それが、ここ数年でそういった類のことは起きなくなるほどに改善していて、人々の間ではそれがシリング王の手腕によるものだとされていた。
その印象からどことなく知的で落ち着いた人だろうと予想していたのだが……。
「おお、リラ嬢! 相変わらず見目麗しい! 今度夕食でも一緒にどうかな?」
優美な衣装に身を包んだ長身の人物が、大手を広げていた。
「ん? どうしたんだい、ため息なんてついて。ああ、リラ嬢は遠慮しているのかな? 心配には及ばない。私はただ美しいレディに対して最高のもてなしを――」
「あの、シリング王。例の者と仲間たちを連れてきたのです。お戯れはそこまでにしていただけると……」
たぶん、シリング王と面識のあるリラ以外は全員呆気にとられていたと思う。
若くして数々の功績を残してきた賢王、という印象と大きくかけ離れていた。
「おっと、これは失礼。……ふむ、では彼が例の?」
「はい。大狩猟祭の最中に現れたデュラハンを一撃で退けた少年です」
シリング王は玉座から立ち上がり、僕の方に向かって歩いてきた。
近くまで来ると、じっと観察するような目を向けられる。
そして、
「マァーベラスッ!」
「え?」
いきなり両肩を掴まれた。
「リラ嬢から話は聞いているよ。王都を救った英雄だとね。しかも大狩猟祭では圧倒的な成績で優勝を収めたそうじゃないか。ううむ、この若さで大したものだ」
「い、いえ。あれはリラさんや仲間たちのおかげで……」
「ふむ、謙虚なところも実に良い。リジル君、だったか? 君の父君とは大違いだな」
「父上と?」
シリング王が頷き、僕はそれもそうかと思い当たる。
父上は今でこそ年のせいで弟のルギウスにその座を譲っているが、昔は勇者として王家とも繋がりがあったはずだ。
「と、今日はリジル君の大狩猟祭優勝を祝する日だった。勇者一族のことを話すのも無粋というものか」
そうして、僕はシリング王から大狩猟祭の覇者の冠を授かる。
ファーリス村の人たちに良い報告ができそうで良かった。
「それと、私からもお礼を言っておかないとね。王都を救ってくれてありがとう、リジル君」
「そんな……、勿体ないお言葉です」
「ハハハ、そう形式張らなくていいよ。……それとね、今日は僕からもリジル君にお願いがあるんだ」
そう言って、シリング王は少しだけ真面目な顔になる。
「お願い、ですか?」
「実は、リジル君のことはリラ嬢から報告を受ける以前より知っていてね。ほら、賢者アンバスからと言えば君も分かるだろう。それで今後、私から何か依頼がある際は君に引き受けて欲しいと思っているんだ」
ああ、なるほど。
初代勇者の仲間として活躍したアンバスなら、シリング王と繋がりがあってもおかしくないな。
……って、今何て言った?
シリング王の依頼を僕が受ける?
「あ、あのシリング王。王からの依頼を受けることができるのは勇者の称号を持つ者か、最高位であるブラックランクの冒険者に限定されるはずです。シリング王から信頼していただけるのは嬉しく思いますが、ゴールドランクの僕では……」
「ああ、それね。ほんと、昔の人は面倒くさい慣習を作ったもんだよねぇ。だから、はい」
シリング王は何かを僕に手渡してくる。
見ると、それは漆黒の腕輪だった。
「冒険者でもブラックランクならいいんでしょ? だからリジル君は今日からブラックランクだ」
「ええ!? そんな、突然……」
「ああ、別に私の独断というわけじゃないんだ。ちゃんと冒険者協会にも話は通っている。そもそも昇級の推薦人はそこにいるリラ君だからね。私は格好つけて渡す係なだけさ」
僕がブラックランク?
ブラックランクとして認定された者は、例外無く歴史に名を刻むと言われている。
そんな地位に自分が選ばれるとは……。
あまりに事が大きすぎて、実感が湧いてこなかった。
ルアやナル、ドゥーベも祝福の言葉を送ってくれたが、気の利いた返しをすることもできず、ただ笑うことしかできない。
リラは少し離れた場所からかすかに微笑んでくれていた。
「さて、リジル君。早速だが君にお願いしたいことがある」
「は、はい」
シリング王からの依頼、どのようなものだろうか?
少しだけ緊張しながら言葉を待っていると、シリング王は懐からあるものを取り出す。
「この石を、知っているかな?」
「これは……!?」
シリング王が手に持っていたのは、以前ファーリス村を襲った魔王軍幹部のクロが使っていた、黒い石だった。
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