第26話 大狩猟祭の覇者

「リジル様!」


 デュラハンを倒した後、ルアが僕の元へがやってくる。


「ルア、無事だったか! 良かった……」


 ナルやドゥーベも無事だということをルアから聞いてほっとする。

 二人はルアから傷薬を受け取り、怪我人の救護に当たってくれているとのことだ。


「君は……、あの時の」


 リラがルアを見てぼそりと呟く。


 あの時?

 どこかで面識があっただろうか。


「リラ様ぁ! ご無事で良かったですぅ!」


 唐突に女の人がリラへと駆け寄ってきた。

 確か、大狩猟祭の司会をしていた女性だ。


「こ、こらコレット」


 コレットと呼ばれた女性は顔をくしゃくしゃにしてリラに抱きついている。

 余程リラのことを心配していたようだ。


「コレット。私の身を案じてくれたことは嬉しいが、助けてくれた人がここにいるんだ。まずは取るべき行動があるだろう?」


「あ……、これは失礼を! 我が商会の主様を救ってくださって本当にありがとうございます」

「い、いえ。リラさんにも散々お礼を言われましたし。何とか助けになれて良かったです」


 僕は慌てて手を振って応じる。


「そもそも、リラさんが始めにデュラハンと戦っていてくれていなければ怪我人が出るだけでは済まなかったと思います。だから僕だけの力ってわけじゃ……」

「ふふ。君は本当に謙虚なんだな、リジル。私の想像していた通りの人だったよ」

「え?」

「いや、単なる独り言だ。気にしないでくれ」


 リラは意味深に言ってかすかに笑っていた。


「それにしても、なぜあんなモンスターが現れたんでしょうか?」


 ルアがリラの手当てをしながらデュラハンが現れた場所を見ている。


 確かに、なぜデュラハンなどというモンスターが現れたのかは気になった。

 集敵魔法を使っていたからといって、あんな危険なモンスターを呼び寄せてしまうとは思えないが……。


 リラにも聞いてみたが理由は分からないとのことだ。


 どこか腑に落ちないものを感じたが、あれから【索敵】のスキルで周囲を探知しても怪しい気配は無かったので、現状ではひとまず安心していいだろう。



 その後、ルアが【収納魔法】に大量の回復アイテムを保管してくれていたおかげで、怪我をしていた人全員の治療を無事に終える。


 城壁のところへ戻ってきた参加者は事情を知り、それぞれが驚きの表情を浮かべていた。


「さて。混乱はあったが、一応大狩猟祭としての締めは行わないとな」


 そう言い残したリラの横顔は、かすかに笑っていた。


   ***


「それではこれより大狩猟祭の閉会式を行います!」


 しばらくして、司会のコレットが集まった参加者や観客に向けて宣言をした。

 城壁の一部が崩れてしまったため、今は観客も参加者たちも同じ開けた場所に立っている。


「その前に、私から少しいいか?」


 コレットの言葉を切って、リラが皆の前へと立つ。


「此度の件、申し訳ありませんでした。これは大狩猟祭を管理していた私の責任です」


「そんな、リラ様のせいでは……」

「いや、いいんだ。……とにかく、私から申し上げたいのは、そこにいるリジル・クラフトさんのおかげで窮地を乗り切ることができたということです。皆さま、どうか彼に、私たちを救ってくれた英雄に拍手をお送りください」


 ――ワァアアア!


 周りにいる冒険者を始め、観客の人たちや貴族までもが拍手と共に歓声を送ってくれた。


「そ、そんな皆さん。デュラハンを倒せたのはリラさんが食い止めてくれていたからですし、僕の仲間たちも避難や救護に当たってくれていました。だから、みんなのおかげですよ」


「それでも、だ。今日より以降、王都で君のことを勇者一族の落ちこぼれなどと呼ぶ者はいなくなるだろう。君はそれだけのことをしたんだ。これくらいの賛辞は送らせてくれ」


「あ……」


 僕は目頭が熱くなるのを感じて、歓声を送ってくれた皆に一礼する。

 逆に感謝したいのは僕の方だった。


 そんな中、ルギウスだけが面白くないものを見る目で苦い顔をしている。

 そして、苛立たしさを乗せた声がルギウスから飛んだ。


「おい! そんなことはいいから早く結果を発表しろよ!」

「は、はい。……えー、それでは大狩猟祭の優勝者を発表します!」


 ルギウスに促されるようにして、司会のコレットが言葉を繋げる。


 そうか。

 デュラハンの一件があってそれどころではなかったが、途中から僕はモンスターを倒せていなかったんだった。


 優勝は厳しいだろうが、それよりも多くの人を助けることができたことをまずは喜ぼう。


 このために剣を作ってくれたアンバスやファーリス村の人たちには申し訳ないが、きっと分かってくれるはずだ。

 そう考えて、僕はみんなの想いが込められた魔石剣をそっとなぞる。


 が、次にコレットから発せられた言葉は僕にとって予想外のものだった。


「栄えある優勝者は、リジル・クラフトさんです!」

「――え?」


 再び周りの人たちから歓声が沸き起こる。


 えっと……、僕が一位、なのか?

 信じられない結果だったが、とにかく僕は送られた喝采に頭を下げながら応じた。


 と、そこでルギウスから抗議の声が割り込む。


「ちょっと待て! どうせリジルがトラブルを解決したってことで評価されてるんだろうが、そんなことは納得できん! 討伐数のトップは俺だろうが!」


「あ、あのぅ。実は、――なんです……」

「あ?」

「ですから、討伐数のトップもリジルさんなんです!」

「な、に……? そんなハズがあるか! コイツは途中からモンスターを倒してなかっただろうが!」


 ルギウスがコレットに向かって叫ぶ。

 僕も途中で他の参加者やルギウスに抜かれたものと思っていたが……。


「はい。その上で、です。ルギウスさんの討伐数は38体なのに対し、リジルさんの討伐数は254体です。ダントツでリジルさんがトップです!」

「ば、馬鹿……な……」


 ルギウスは信じられないといった様子でガクガクと体を震わせていた。


「おいおい。すげぇなリジルさんは」

「それだけのモンスターを倒しただけじゃなく、あのデュラハンまで倒しちまったんだろ?」

「ああ。それに引き換え、勇者様はその騒動に気付きもしなかったらしいぜ」


「ぐ……ぐ、ぐ」


 周りの参加者からそんな言葉が囁かれる。

 そして、


「クソがっ……。このままでは終わらんぞ! 覚えておけリジル!」


 吐き捨てると、ルギウスはその場から去っていった。



 その後、コレットから「大狩猟祭の覇者からひと言を!」と促されて慌ててしまったり、ルアやナル、ドゥーベを始めとして、多くの参加者や観客たちから何度も感謝と祝福の言葉を投げかけられたりして、時間は過ぎていった。



 そうして、波乱の巻き起こった大狩猟祭は幕を閉じたのだった。


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