第25話 決戦、デュラハン戦
「これは……、またスキルが増えてるな」
大狩猟祭がまもなく折返しに近づこうかという頃、僕は一度右手の甲に浮かぶスキルを確認する。
今までは3つのスキルだけだったが、大狩猟祭でモンスターを多く討伐したせいか新たに2つのスキルを習得していたのだ。
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・命中率上昇(範囲中)
・スキルブレイク
・物質破壊
・索敵(範囲中)
・縮地
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賢者アンバスから事前に聞いていた話によれば、【索敵】は文字通り周囲の敵を探り詳細を知ることができるスキルで、【縮地】は走力を極限まで高めて目の届く範囲に高速移動するスキル、ということだ。
――クリティカルマスターの紋章の持ち主は剣士として攻撃以外にも使い勝手の良いスキルを習得していくからな。楽しみにしてろ。
アンバスはそう言っていたが、確かにどちらも戦闘の補助的な効果をもたらすスキルとして役立ってくれそうだ。
試しにと思い【索敵(範囲中)】のスキルを使用すると、確かに周囲にいるモンスターの位置や詳細が頭に流れ込んでくる。
「あの木の陰にスライム種が3匹、丘を超えたところにゴブリン種が10匹か。これは確かにモンスターを狩るのに便利かもしれないな」
そうして【索敵】のスキルで探っていると、僕は凶悪なモンスターの情報を察知する。
――これは……、デュラハンだって!?
城壁の付近で発生したようだが、デュラハンと言えば都市を壊滅させるほどのモンスターだったはずだ。
――!? 悲鳴っ!
やはりそうだ。
モンスターを集敵する魔法を使っているとはいえ、デュラハンほどの危険なモンスターを呼び寄せようとしたとは考えられない。
何か問題が発生しているのは明らかだった。
――くそっ、とにかく助けに向かわないと!
そして、僕は城壁の方へと駆け出す途中である人物を発見する。
モンスターと交戦している弟のルギウスだった。
「ククク、何だリジル。こんな時間に城壁の方へ向かうなんて。怖気づいて逃げ出すのか?」
「ルギウス、お前も来てくれ! 城壁の方でデュラハンが現れたんだ!」
「ハハハッ! なんだそれは、俺にモンスターを討伐させないための罠を張っているつもりか? 第一、この位置から城壁付近の様子が分かるわけないだろうが」
僕はスキルで探知したことを説明したが、ルギウスは聞く耳持たない。
――くっ、言い争っている時間が惜しい。今は早く城壁の方へ向かうしかない!
僕はモンスターに剣を向けているルギウスに構わず、城壁の方へと走り出した。
「見えたっ!」
デュラハンを肉眼で捉えられる位置まで来ると、商会の長リラ・ミダスが襲われている光景が目に飛び込んできた。
リラが膝をつき、デュラハンが今まさに追撃しようとしている。
――間に合えっ!
僕は【縮地】のスキルを使って、離れた場所から一気にリラとデュラハンの間に割って入る。
そして、
「【スキルブレイク】!!」
デュラハンから放たれた黒い衝撃波を打ち消した。
「き、君は……」
「良かった。間に合いましたね」
間一髪でリラへの攻撃を防ぐことができたようだ。
リラは何故か僕を驚くような目で見上げていたが、急に苦悶の表情を浮かべる。
「ぐぅっ……!」
そうか、デュラハンは猛毒付与の特殊攻撃を使用すると聞いたことがある。
リラはデュラハンとの戦闘中にその攻撃を受けたのだろう。
待てよ、モンスターの特殊攻撃によるものなら……。
「ちょっと失礼します」
「な、何を。君はヒーラーではないだろう。この毒は消せな……、っ!?」
僕は【スキルブレイク】を使用し、ファーリス村の人たちを解呪した時のように解毒を試みる。
無事解毒に成功したようで、リラの顔には生気が戻った。
リラは背中に傷を負っているが、幸いにも致命傷ではないようだ。
「き、君は。一体……」
「僕はリジル・クラフトです。すいませんがもう少し我慢してください」
「いや、それは知ってるが……、おい、危険だぞ!」
僕はリラの声を無視して、魔石剣エルブリンガーを鞘から抜いた。
後ろには逃げ遅れた大狩猟祭の観客が大勢いるんだ。
僕がここで食い止めなくては。
――フシュルル。
デュラハンは僕を敵と定めたのか、黒馬の上で広刃の剣を構え直した。
デュラハンの纏う黒鎧は相当な強度を誇るという。
だからこそ、僕は全力の一撃を放つことに決める。
――上級剣技、バーストストライク。
僕が使う剣技の中で最もパワーに特化した技だ。
僕は足を引いて構え、魔石剣エルブリンガーの切っ先をデュラハンへと向ける。
「ハァアアア!」
【命中率上昇】を発動。
更に【縮地】のスキルを重ねて使用。
そして、僕は速度を乗せた一撃をデュラハンの胸元へと叩き込む。
――ゴァアアアアア!
魔石剣エルブリンガーがクリティカルヒットして黒鎧を貫き、デュラハンの体は黒馬と共に霧散した。
――よし。
僕がデュラハンの消滅を確認して剣を収めると、
――ワァッ!
背後から歓声が上がる。
逃げ遅れた観客たちだった。
良かった。無事に脅威は排除できたようだ。
とはいえ怪我人も出ているようだし、まずは救護にあたらないと。
そう考えて、僕は膝をついたままのリラに手を差し出す。
すると、
「王子様……」
「え?」
「い、いや……」
「……?」
リラは僕に何かよく分からないことを呟き、顔を伏せてしまったのだった。
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