第3章 大狩猟祭へ
第20話 【SIDE:クラフト家】動き始めた崩壊への道
――くそ! くそっ! くそっっっ!
俺はあまりの苛立たしさから、長く続く廊下の壁を叩く。
先程、ファーリス村の状況を探るために送っていた情報屋から連絡があった。
その内容によれば、先日の昇級に関わるリジルの功績は真実だった。
ファーリス村にジャイアントオークの魔石を持ち込んだといい、フェンリルと1対1で勝利した他、呪いに侵された村民全員を救助するという出来事もあったらしい。
そして、だ。
つい先日、リジルが村に呪いをかけていた元魔王軍の幹部を討ち倒したという。
これは単なる田舎村で起きた事件という枠には収まらないだろう。
恐らく、近日中に王都にいる人間にも広く知れ渡ることになる。
そうなれば……。
俺は先日、父上と話していた内容を思い出す。
――もし今後もリジルが活躍し、周囲に広まることになれば、勇者一族としての我々の判断が疑問視されることにもなろう。
そのようなことを言っていたのだ。
このままではマズい。
何とか、何とかしなくては……。
「ルギウス様、お顔が優れないようですが、どうかなさいましたか?」
「うるさい! 侍女の分際で俺に気安く話しかけるな!」
「は、はい。失礼いたしました……」
思わず声を荒げると、俺に話しかけた侍女は慌てて去っていった。
くそ、侍女といえばリジルに付いていったルアのことを思い出す。
あの女が去り際に残していった言葉。
――私はリジル様に仕えます。クラフト家がこれまで、どれだけ勇者一族として名を馳せてきた家系であったとしても、私は目の前の人たちを大切にする人の元へ参ります。
そんなことを言っていた。
目の前の人を大切にするだと?
綺麗事すぎて反吐が出る。
そんなことをしなくても、武功を示せば自ずと人は付いてくるのだ
現に今までのクラフト家はそうして成り上がってきたはず。
第一、人を助けるためには強さがいるではないか。
ルアはあの時点で……、俺も父上もリジルを追い出そうとしている時点で、リジルにその強さがあると確信していたとでもいうのか?
馬鹿馬鹿しい。
本当に馬鹿馬鹿しいことだった。
「父上、失礼します」
俺はそう言って父上の執務室を訪れる。
父上はというと、予想通り不機嫌極まりない様子だった。
「ルギウス。何のことか分かっていると思うが……」
分かっているに決まっている。
あの欠落紋を持つクソ野郎のことだ。
「もはや状況を観察している場合ではない。至急、何かしらの対応を考えねば」
「はい……」
くそっ。
何でこうも奴に振り回されなければならない。
この勇者紋を発現させた俺に敵うやつなどいるはずがないというのに。
俺とリジルの実力を競い、証明する場があれば……。
俺はそこでふと、あることに思い当たる。
そうだ。良いことを思いついたぞ。
「父上、提案があります」
「む。言ってみろ」
「……此度、王都で行われる大狩猟祭にリジルを呼び寄せるのです。そうなれば、これまでのように幸運で解決するというわけにはいきません。なぜなら最強の紋章を持った自分が出場するのですから」
そう――。
今度、王都では大狩猟祭が開かれる。
この大狩猟祭というのはモンスターの討伐数を競うものだが、それは単なる催し物にあらず。
優勝したものは王との謁見が叶うのだ。
これは勇者として売り出したい俺にとっても重要なことと言える。
「おお、なるほど! それは名案だ」
「はい。奴がどのような功績を残してきたとしても、自分の勇者紋に敵うはずがありません。そうなれば、リジルに恥をかかせることになりますし、やはり勇者一族の判断は間違っていなかったという証明を他の貴族にもすることができます」
そうさ。
この俺の持つ勇者紋こそが最強なのだ。
対決できる場さえあれば、俺がリジルなどに負けるはずがない。
大狩猟祭でそのことを証明してやる。
「では、そのように取り計らいます。安心なさってください、父上。必ず自分が優勝を手に入れて勇者一族の栄光を世に知らしめてやりますから」
「ふむ。期待しておるぞ、ルギウスよ」
俺は父上に自信満々で応じ、早速リジルを大狩猟祭に引きずり出す計画を進めることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます