第16話 ファーリス村への帰還と、温泉

「おお、戻ってきたぞ!」

「皆さん、大丈夫でしたか!?」


 獣人の里に戻ると、ナルの妹のミアやリーダーであるバグーを始めとして、大勢の獣人たちが出迎えてくれた。


「ふふーん、これ見てよ!」


 ナルが得意げに、ルアの【収納魔法】で大量に持ち帰ったヒールストーンを取り出す。


「おお、ヒールストーンだ!」

「ということは……!」

「やったぞ、ボルケーノドラゴンを倒したんだ!」


 ヒールストーンを見て、ボルケーノドラゴンが討伐されたことを知った獣人たちは思い思いに歓喜の声をあげている。


 ヒールストーンの問題は、里の死活問題だったのだろう。

 みんなの笑顔になっているところを見ると、こっちまで嬉しくなってくる。


「おめぇ、ほんとに強かったんだな」


 里のリーダーであるバグーがこちらに歩いてきた。


「いえ、ルアやナルに助けられました。僕一人では勝てませんでしたよ」

「くくく、謙虚なこった。ま、それでこそ里の英雄に相応しいかもしれねぇがな」

「英雄だなんて、そんな……」


 バグーは僕の反応が気に入ったのか、大口を開けて笑っている。


 ――英雄、か。


 そういえばファーリス村でもそんなことを言われていた。


 その呼び方は過大評価だと思うが、実家を追い出される要因になった欠落紋の力で大勢の人が救えたことは素直に嬉しかった。


「で? もう行っちまうのか?」

「はい。なるべく早くファーリス村の人たちにヒールストーンを届けてあげたいと思いますので」


「そうか。ヒールストーンはまた採れるようになるから好きなだけ持っていけ。あと、また落ち着いたらこの里にも寄ってくれや。しっかりとした礼もしてぇしな」

「はい。ありがとうございます、バグ―さん」


「ああ、それから一つ。ナルは随分とおめぇに懐いてるみたいだ。できれば連れて行ってくれねぇか?」

「え?」


 確かにナルには今回の件で世話になったし、付いてきてくれるのは心強いが……。


「実はな、アイツは里を出ていく時にもボルケーノドラゴンはいたんだよ」

「え?」


 そうなのか?

 だとしたら獣人の里でヒールストーンが採れない状況にあることを、ナルは事前に知っていたはずだ。

 なのに、どうしてナルは僕たちをこの里に連れてきたのだろう?


 僕の疑問を察したのか、バグ―は答える。


「ああ見えてお人好しだからな、アイツは。大方、村の問題を解決するための方法を探してたんだろう。回復アイテムを持ってくるとか、ボルケーノドラゴンを倒す方法を見つけるとか、な。ナルは隠すだろうが」


 意外だった。

 普段は冗談めいた言動が多いナルだが、そんなことを考えていたなんて。


 そうか、だからバグーは帰ってきたナルを見た時にわざとらしく振る舞っていたのか。

 ナルの思いを汲んでのことだったんだろう。


 それに、何故ナルが僕を初めて見た時に戦闘を仕掛けてきたのかも分かった気がする。

おそらく力量を測ることで、ボルケーノドラゴンと戦える人間を探していたという考えがあったのだろう。


 ……当然、ただの気まぐれだった可能性もあるが。


「後はもちろん、ナル自身に付いていく気があるか、なんだが……」


「よーし、それじゃあ早くファーリス村に戻らないとね! リジル、何してんの? 早く行こーよ!」

「くっくっく。まあ、そういうことらしい。ナルを頼んだぜ、英雄さん」


 そう言ってバグーは僕の背中を叩くと、気持ちのいい笑いっぷりで送り出してくれる。


 こうして、無事ヒールストーンを手に入れた僕たちは、獣人の里を後にするのだった。


   ***


「アンバスさん! ヒールストーンを持ってきました」

「おお、お前ら! 良くやった!」


 ファーリス村に着いて早々、僕たちは賢者アンバスを発見する。

 ルアが【収納魔法】から大量のヒールストーンを取り出して見せた。


「よし、これだけあれば十分だ。本当によく帰ってきてくれた」

「いやー、でも今回は大変だったなー。ボルケーノドラゴンも強かったし」


 人型に戻って服を着たナルが、やれやれと言った様子で頭の後ろに腕を組んでいる。


「ボルケーノドラゴンだと? アイツは災害級に指定されるモンスターだったはず……。お前ら、そんなモンスターと戦ってきたのか?」

「そーだよー。またリジルがやっつけたんだから!」

「ま、まあ、今更驚くことじゃないのかもしれねぇが……」


 アンバスはため息まじりに僕の顔を見てきた。


「それはそうとアンバスさんは何をしてたんです? こんな村の外れで」


 アンバスはファーリス村の中心地から離れた場所で、地面をじっと見つめていたのだ。

 特に何も無いの場所のように感じるが。


「ヒールストーンを使うために穴を開けたいんだよ」

「穴を?」

「ああ。ただ、ここのところに硬い岩盤があってな。どうしたもんか……」

「岩盤ですか? ああ、それなら」


 僕は【物質破壊】のスキルを使用して、地面に向けてショートソードを突き刺す。

 ショートソードは地面を穿ち、そこに大きな穴を開けた。


 ヒールストーンを使うためになぜ穴が必要なのか疑問だったが、【物質破壊】のスキルであればこうして地面を掘っていくのも簡単にできるだろう。


「こ、これは……。フッ、どうやらまた強くなったみてぇだな」

「それで、穴を開けてどうするんです?」

「ああ、実はここに温泉を引きたいんだよ」

「温泉を?」


 僕は予想外の単語を返されて思わず首をかしげる。


「ヒールストーンってのはそのままの状態じゃ使えねえ。方法は色々あるが、できれば体に染み込ませるためにも、熱めの液体に溶かして浸かるのが良いとされているんだ」

「なるほど、それで温泉ですか」

「村の近くで泉脈を突き止めたまでは良かったんだが、おかげで何とかなりそうだ」


 そう言った後、アンバスはこちらに向き直って付け加えた。


「村の奴らが入ったらお前らも入れよ。長旅で疲れてるだろ?」

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