第13話 獣人の里と、ボルケーノドラゴンの脅威
助けた獣人の女の子は、驚くことにナルの妹だった。
「いやー、まさかモンスターに襲われてたのがミアだったとは。無事でよかったよー」
「リジルさん、でしたね。本当にありがとうございます」
「助けられてよかった。それにしてもナルに妹がいるなんてびっくりしたな……」
ミアと呼ばれた少女が可愛らしくお辞儀をした。
ワイバーンの攻撃を受けてか、ミアは怪我こそしていたものの軽症だったので安堵する。
ミアの体格は小柄でナルと同じくらい。
顔立ちも姉妹だけあってナルによく似ている、のだが……。
「それに、貴重な高級傷薬を使っていただいて。今は差し上げられるものが無いのですが、里に戻ったら必ずお礼を……」
「い、いや。君が無事ならそれが何よりだよ。それに傷ついた人を助けるのは当たり前だから」
「それでも、ありがとうございます。ルアさんもご丁寧に手当てまでしていただいて。改めてお二人に感謝申し上げます」
ルアと顔を見合わせたところ、僕と同じで呆気にとられた表情を浮かべていた。
何だろう。
振る舞いからして、どう見てもミアの方が姉っぽい気がする……。
僕はそんなことを考えながら隣で尻尾を振っているナルを見る。
「リジル、今失礼なこと考えてたでしょ」
「い、いや別に……」
「むー、ホントかなぁ。……あれ? リジルの右手、なんか文字が増えてない?」
ふくれっ面になりかけたナルが、僕の右手を指差す。
つられて見ると、確かに右手の欠落紋の下には3つ目のスキルが追加されていた。
===========
・命中率上昇(範囲中)
・スキルブレイク
・物質破壊
===========
【物質破壊】か……。
――そういえば、アンバスさんが言っていたな。クリティカルマスターの紋章にはこれからまだまだ発現するスキルがあるって。
今後習得していくであろうスキルのおおよそについては賢者アンバスから聞いてはいたが、実際に使って確かめろと言われている。
何にせよ、スキルの名前からして今回も使い勝手は良さそうだ。
試して確認してみたい気持ちもあるが、今はミアを送るためにも獣人の里に急ごう。
そうして、僕たちはミアの手当てを終えると、ナルの故郷、獣人の里へと向かうことにした。
***
「おお、ミアが戻ってきたぞ!」
ナルとミアの案内で里に着くと、そこにはミアの帰りを心配していたであろう獣人たちの出迎えがあった。
「皆さん。ご心配おかけしてすいませんでした」
ミアが里の獣人たちの前に出て、律儀に頭を下げていた。
「あ、あれはナルじゃないか! 戻ってきたのか!」
「おっす、ただいまー。いやー、色々あってねぇ」
ナルも人型に戻り、獣人たちの輪の中へと入っていく。
と、群集を掻き分け、そこに一際大柄の獣人が現れた。
「ナ、ナル。おめぇ……」
「あ、リーダー……」
里のリーダーらしいその獣人は、故郷に帰ってきたナルを見て感慨深くなったのか、小刻みに震えていた。
そう思ったのだが……、
「ナル! おめぇ一体どこをほっつき歩いてやがったあ!!」
リーダーの獣人は叫ぶと、ナルの頭をぐわんぐわんと揺すり始めた。
どうやら怒りで震えていただけだったらしい。
「あででででっ! 悪かった! 悪かったってばぁ!」
「ったく、おめぇという奴は……。ん? アイツら、誰だ?」
リーダーの獣人は僕とルアに気付き、ナルを揺すっていた手を止める。
「この方たちはナルお姉ちゃんのお知り合いの方々です。そして、私を助けてくださいました」
「……どういうことだ?」
ミアはリーダーの獣人に事情を説明してくれた。
そして、リーダーの獣人が説明を聞き終えると、こちらにドカドカと歩いてくる。
一瞬、食べられでもするんじゃないかと緊張したが、
「ミアを救ってくれたそうだな。感謝する!」
勢いよく頭を下げられた。
「俺はこの里の長を務めてる、バグーってもんだ。改めて礼を言うぜ! ガッハッハッハ!」
バグーは豪快な笑いっぷりで力強く握手してきた。
なるほど、だいたいどういう人物か分かった気がする。
「それにしても、あのワイバーンを一撃で、ねぇ。こりゃとんでもねえお客さんが来ちまったもんだ」
「それでさ、リーダー。ヒールストーンって石があると思うんだけど、あれちょーだい」
「ヒールストーン? どういうことだ?」
ナルの直球な質問にバグ―は疑問符を浮かべている。
「実は……」
僕は、ファーリス村の人たちの治療のためにヒールストーンが必要であること、ヒールストーンが北の大地にあるという情報を得てここまでやって来たことをバグーに話した。
「そうか……。ミアを救ってもらった恩はあるが、残念ながらそいつはちと難しいかもな」
「難しい、ですか?」
「ああ。事情があって今、この辺りではヒールストーンが採れなくなっちまったんだよ」
「え……、そうなんですか?」
それはマズい。
アンバスはヒールストーンで無ければ呪いの治療は難しいと言っていた。
ファーリス村の人たちのために持ち帰る必要があったのだが……。
「元々、ここは薬草も育たねえ寒冷地だからな。薬草や、薬草を原料とした傷薬も無くて、ヒールストーンも採れないときたもんだ。怪我人や病人なんかの治療手段が少ねえから、俺たちも心底困っちまってるんだよ……」
薬草や傷薬、か。
それなら――。
僕はルアに言って【収納魔法】から大量の薬草や傷薬を取り出してもらう。
ジャイアントオークの魔石を換金して得た資金で購入していたものだ。
「あの、バグーさん。もしお困りだったらこれ、使ってください」
「お、お前、これ……!」
「里の方たちのために使ってあげてください。僕たちはまた村に戻ったら補充しますから」
確かにモンスターとの戦闘などを考えれば余分に持っておきたい代物だが、困っている里の人たちは見過ごせない。
「……なんてこった。ミアを助けてもらったばかりか、こんなことまで……。こりゃあ里の救世主だな。ガッハッハッハ!」
「それで、何故ヒールストーンが採れなくなってしまったんですか? 村の人たちのためにも、何とか手に入れたいのですが……」
「ああ、それは――」
――グルォアアアアアアアア!
バグ―が言いかけたその時、凄まじいまでの咆哮が響き渡った。
――この咆哮は、ドラゴンか!?
距離は遠いようだが、空気を切り裂くほどの圧倒感だ。
事情の説明を求める僕にバグーは向き直り、
「この里の近くにボルケーノドラゴンが住み着いちまってな。コイツのせいでヒールストーンが採れなくなっちまったんだよ」
そう告げたのだった――。
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