第6話 【SIDE:クラフト家】破滅の予兆
「どうした、ルギウスよ。えらくご機嫌だな」
「目の上の瘤を追い出せたことでせいせいしてましてね」
「そうか。それは何よりだ」
俺は父上の執務室で、各地から届いた救援依頼書を物色している。
兄上――リジルを追い出して数日。
実にすがすがしい毎日を送ることができていた。
王都で名を馳せる名家にいながら妙に良い子ぶっていたアイツは、元々気に食わなかったんだ。
勇者一族としての威厳を保つなら勇者紋を持つ自分だけで十分、という進言を父上に通したのは間違いではなかった。
聞けばリジルはあの後、王都を去っていったらしい。
今頃どこをさまよっているやら。
欠落紋にあの平凡以下のスキルだ。
既にどこかでモンスターにやられているかもしれない。
そう考えると、笑いがふつふつとこみ上げてくるのを抑えられなかった。
「父上、これは?」
俺は一枚の救援依頼書を手に取る。
そこにはファーリス村という場所からの救援依頼である旨が記されていた。
「ああ。王都との関わりも薄い田舎の村さ。村の周りで大型モンスターの足跡が見つかったらしい」
「ふぅん」
「村の規模も小さいが、大型モンスターがこんな村に現れるのも珍しい。行ってみるか?」
「冗談でしょ? こんな大して実績にもならなそうな案件」
「フフ。いや何、腕試しになるかと思ってな」
それにしても、だ。
こんなちっぽけな村の案件を勧めるとは、父上もどうかしている。
もうじき名実ともに勇者として王命を受ける俺にとって、安い案件を受けている暇など無いのだ。
そうさ。
勇者になれば王家からの依頼を直接受けることができる。
リジルは何か思うことがあって王家と近づこうとしていたようだが、まあいなくなった奴のことなどどうでもいい。
王家とのパイプも築き上げれば、俺の明るい未来は約束されているんだ。
「ところで父上。この大型モンスターってどういうモンスターなんです?」
「さあな。そこまでは記載されておらん」
「フェンリルとか?」
「バカな。仮にそうだとしたらお手上げだよ。ルギウス、例えお前だとしてもな」
悔しいが、父上の言う通りだろう。
いかに勇者紋を手に入れた俺とはいえ、伝説級のモンスターを単独で討伐するのは無理だ。
もしそんな相手に一対一で打ち勝てる奴がいるとしたら、初代勇者の再来といってもいい。
「第一、伝説級のモンスターがこんな村に現れるはずもなし。大方、ジャイアントオークが関の山だろう。そうだとしても討伐するには大人数のパーティーを組む必要がある」
「ただこれ、結構前の日付でしょ。大型モンスターってのが事実なら、こんな村、もう滅ぼされちゃってたりしてません?」
「まあ、小さな村だ。捨て置いても問題ないだろう。それに、近く王都で行われる大狩猟祭もあるのだ。お前にはそこで優勝してクラフト家の名を示してもらわねば。代が変わってもなお、クラフト家は変わらず安泰だ、とな」
「ククク、お任せを」
いずれにせよ、こんなちっぽけな村の救援依頼などに構ってはいられない。
俺は父上と二人で笑い合い、ファーリス村からの救援依頼書を破り捨てた。
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