第45話 薬は良薬?毒薬?調査(2)(サンジュリアン視点)

ヒューリスティが御者に子爵家へ戻るよう伝えた。


「ヒュー、自宅に招いてくれるのは有難いが急いでいるんだ。できたらすぐにでも薬師のところに連れて行ってもらいたいんだ」


「わかっていますよ。だから私の家に行くんです」


「………言いにくいけど、できたら子爵家の薬師ではなく魔法師団の薬師がいいんだ。………そこに入団できる者は実力者揃いだろ?だから」


ヒューリスティは俺がまだ話しているのを遮って口を開いた。


「私は魔法師団長の息子ですよ。魔法学ならばあらゆることに精通しています。そう、魔法薬学も」


「え。まさかお前が見るって言ってるのか?」

俺はまさか同い年のヒューリスティが薬の成分を確認できるとは思っておらず、そう口にした。


「そうです。父上には敵いませんが、私も嫡男として小さい頃から薬学研究もしています。魔法薬を作るにも基礎の薬学の知識は必要ですから」


「そ、そうか」


「それに私が見た方が一番秘匿性が高いと思いますよ」


「そうだな。ではとりあえず、宜しく頼む」


「全く。その回答では、全然私の力を頼りにしてませんね」

ヒューリスティに苦笑いされた後すぐ馬車が停車した。そのため、急いでヒューリスティの自室へと向かった。




自室に招いてもらった後も、俺はヒューリスティの後ろをただついて行った。

何故か自室の中に地下へと続く部屋があり、薄暗い階段を降りる羽目になっていたからである。


「まだか?」


「もうすぐです」


やっと地下へ着いたようで、ヒューリスティは扉に鍵を入れてあけていた。


「なんか厳重なんだな」


「薬は毒薬にもなるから、管理は重要なんですよ」


「お前の部屋の中に薬剤室があるのか?」


「いえ。薬剤室ではなく実験室ですね。魔法薬や魔法陣などを生み出すための部屋、という感じでしょうか」


「へぇー」


俺は感心しながら、部屋の中を見回した。

壁一面に本や小瓶を詰めた戸棚が並んでいた。


「さて、見せてもらえますか?」


俺は少し躊躇ったものの、内ポケットに隠していた薬を取り出し机の上に置いた。


「これですか」


「見かけは黒いし大きいし飲む気しないよな」


「見かけで判断しませんが、まぁ、黒い薬は大概怪しい物でしょう」


「まぁ………そうだよな」

俺はガッカリしながらも先を促した。


「見かけよりも成分を調べてくれ」


「わかってますよ」


ヒューリスティは戸棚からフラスコを取り出し、そこに透明な液体を注いだ。


「それは?」


「とりあえず、毒物かそうでないかを簡単に見分ける薬品です。毒物なら青に色が変わります」


「そんな簡単なものがあんのか!?」


「ええ。私が作りました」


「へ、へぇ。すごいなお前」


「王宮では毒物事件が多いですからね。私が勤務したときはそんなことで手間取りたくないんです」


「お、おぅ。お前、すごいな」


「言い方変えてるだけで、すごいなしか言ってませんよ」

何故か眉間に皺を作ったヒューリスティにそう言われたが俺は早くやってほしくて仕方なかった。


「おい。早くやってくれ」


「いいんですか?もし毒薬だったら大変なことになるのでしょう?このまま確かめない、という選択もあります」


俺はその言葉に少し躊躇う気持ちが湧いたが、自分に言い聞かせるようこう言った。

「確かめないと、いけないんだ」


「わかりました。では、薬の一部を少し切り取りますね」


俺は手際よく薬を少し削り取って粉状にしていくヒューリスティを見ていた。


ヒューリスティはある程度溜まった粉をフラスコにサッと注いだ。


フラスコ内の色に変化はなかった。


「なっ!毒薬じゃないだろ?」

俺は笑顔で勢いよくヒューリスティに言った。


「いえ。まだ攪拌していません」


言うや否や、フラスコ内の水が渦を巻いた。


「魔法で攪拌すんのかよ」


俺はビックリしつつも渦を見つめた。

渦で色が判別できない。だが………明らかに透明ではないように思えた。そんなとき、


「青、ですね」

ヒューリスティがポツリと言った。


「な、そんなわけ………」

そう言いかけたが、俺の目にもわかるくらい渦が止まり、フラスコ内は薄い青色に濁っていた。

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