第44話 薬は良薬?毒薬?調査(1)(サンジュリアン視点)

"騎士団の薬師に相談しようと思ってたけどダメだな。父上に筒抜けになる。薬師と系統は違うが魔法薬学者をあたるか。学者経由で薬師を紹介してもらおう"


俺はそんなことを繰り返し考えていたため、ろくに眠ることが出来ず夜を明かした。


"魔法薬学者なら魔法師団所属のヒューリスティに頼むか。魔法師団は中立派だから父上に告げ口されることもないだろう"


俺はそう考えをまとめたらすぐ学園に行きたくなり、まだヒューリスティは学園にいないだろう早朝の時間に学園へと向かった。

朝父上に会いたくなかったという気持ちもあった。



早朝の学園は誰もおらず、空気が澄んでいる気がした。俺はヒューリスティのクラスが何処か覚えていなかったため、正門から少し離れたところにある中庭の椅子に腰掛け正門からやってくるヒューリスティを捕まえることにした。



"ここなら正門がよく見えるし、少し体を休められるし、一石二鳥だな。あーいい天気"


俺は学園に逃げてこれたという気持ちもあったため、少し気が緩み眠気が急に襲ってきた。

正門を見つめていても、霞んで見え始めたその時、ヒューリスティが門をくぐってきた。


俺は慌てて立ち上がりヒューリスティに話しかけた。


「ヒュー。久しぶりだな。ちょっといいか?」


「サンジュリアン。どうしたのですか?すごい疲れた顔していますよ」

ヒューリスティは相変わらず同年代とは思えない落ち着きと穏やかな口調で返事を返してきた。


「ちょっと寝不足なんだ。それより俺と一緒に来てくれ亅

言うや否や、たった今ヒューリスティが通ってきた正門へと腕をとって向かおうとした。



「私はこれから授業なので、放課後にして貰えませんか?亅


穏やかに笑ってはいるが、頑として動かないという感じで足は一向に動かなかった。


「ヒュー、頼む。急ぎなんだ」


俺はなるべく他者にわからないようヒューにだけ伝わるよう掴んでいる手に力を込め、小さな声で必死さが滲み出る声で頼んだ。


ヒューは意外そうな、心配げな顔をしつつも、どこか面白がるような雰囲気で

「これは貸しですよ」

と言い一緒に正門の方へ歩いてくれた。



俺は手近に隠れて話せる場所を考えていなかったが、丁度ヒューリスティの馬車がまだいたためそれに勝手に乗り込んだ。


「どこかに行きますか?」


「悪いが適当に周辺を走らせてくれないか?」


馬車の中であればやり取りを聞かれる心配はないだろう。

馬車が静かに走り出し、学園の外に出た所で俺は話し始めた。


「実はある薬について調べたいんだが、魔法薬学者か出来たら薬師を紹介してもらえないだろうか?」


ヒューリスティは一応という感じで、当然疑問に思うことを質問してきた。


「何故騎士団の薬師じゃだめなのか聞いても?」


俺はそう問われてつい唾を飲んでしまった。

聞かれるだろうとは思っていたが、実際聞かれたことで体が勝手に反応してしまった。


"この状況で嘘を突き通す自信ないな……"


ヒューの表情は嘘をつくようなら協力しないよ?とでも言うように微笑んでいた。


"ヒューだし、大丈夫。中立派だし、大丈夫………甘い考えか?………くそっ。なんて言うかもっと考えておくべきだった。でも、ここで断られたら父上をかわす手立てがなくなる。なんとしても、ヒューを味方につけないと"




「………父上には知られたくないんだ。俺の大切な人が作ったものなんだが、父上はその人のことをよく思っていない。薬も毒薬だと思って碌に調べもしないと思う」


ヒューリスティは、ほーぅ、というように目を細めこちらを見たまま何も言葉を発しなかった。


「俺は毒薬だと思っていない。だけど、もし毒薬だったとしたら………」


"これ言って頷いてもらえなかったらどうする?"


そんなことが頭をよぎったが、言うしかなかった。


「隠滅したいと思ってる」


その言葉を聞いたヒューリスティは、顔に手を当て、はぁーっとため息をついた。

そしてこう言った。


「隠滅する者が、信じられるかどうかもわからない者にその事実を伝えてどうするのですか」


呆れ口調でそう言い、呆れたように俺を見ていた。


「ですが、その実直なところが好きなところでもあるので」

そうヒューリスティは言った後、笑ってこう言い放った。


「サンジュの頼みだから少しだけ妥協しましょう。もし毒薬だったとき、隠滅に加担は出来ません。ただ、作った者に極力不利益にならないようにする手助けはしてあげましょう」


俺はとりあえず父上に薬を奪われない道へと繋ぐことができ安堵した。

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