第41話 騎士団長からの命令(サンジュリアン視点)
「俺の気持ちは昔から変わっていません」
俺は第一王子のレイモンドに仕えたいけれども、お家の為に仕方なく第二王子の側近をやっている、という言えない気持ちを押し殺し、どうとでも取れる言い方で返した。
「………。というと、第二王子が主でいいんだな?」
父上は何故か落胆したように溜息混じりに問い返してきた。
「はい」
「そうか………」
父上はまたオットマンにドカッと足を投げ出し
「お前は騎士団長にはなれんな」
とぞんざいに言い放った。
「なっ!なんでですか!?」
俺は伯爵家に引き取られた理由が騎士団長の後継者の素質を感じたから、という理由だったため目の前が真っ暗になった。
「剣術で俺に敵うものはいません!魔法だって、攻撃魔法ではかなりの腕前です。今更俺を切り捨てるのですか!?」
騎士団長である父上は自分の血筋に拘らない代わりに、優秀な後継者を求めていることは知っていた。可能な限り血の滲む努力をし、求められることは全てやってきたつもりだ。今更孤児院に戻る場所もない。
何も答えない父上に、俺は悲痛な思いで叫んだ。
「何故ですか!?」
「そう大きい声を出すな」
呆れたように手を振りながら父上は面倒そうに答えた。
「俺が何故お前を引き取ったか分かるか?」
「俺の体躯や剣術を見て見込みを感じたから………?」
「お前は本当にバカだな」
「喧嘩売ってるのか?」
俺は父上といえども口調が乱れ、言い返していた。
「6歳のお前を見て、体躯や剣術もないだろう。まぁ素質があるかは見たが…………一番の決め手は、曲がったことが大嫌いで己に自信をもった者だけがする太陽のような笑顔で俺に笑いかけたからだ」
俺は思っても見なかったことを言われ驚愕した。
「なっ!」
「最近はその一番の決め手が欠けてしまったがな」
父上は茶化すように肩をすくめながら言った。
「まぁ、お前が6歳からの付き合いだから、我が子同然のお前を後継者から外すのも惜しい。………それに代えもいないしな」
俺は後継者から外すという言葉に体から血の気がスーッと引いた。
父上はさらにこう言った。
「チャンスをやろう。お前は勘違いしているようだが、お前が誰を主に選ぼうと我が家に関係ない。現王妃の企みなど俺には効かん………が、あの時お前に教えてやらなかったのは、お前が一度、主君として定めたレイモンド殿下にどのくらい自身を犠牲にして尽くせるか見定めたかったからだ。だが、お前は主君を捨てた」
俺は驚愕の事実により言葉を発することができなかった。俺が宰相の言う通り第二王子の側近になりさえすればいいと思っていたのに、そんなことはどうでも良いと言われ、さらにその事実を当時から知っていたなんて。
「お前はレイモンド殿下を捨てたと思っているだろう。だが、本当はお前がレイモンド殿下に切り捨てられた。お前が側近候補を辞退した時のレイモンド殿下のお顔、あれは諦めだった。すぐ手放して良いと思われるなど、切り捨てられたも同然だろう」
俺は二度目の衝撃で、空いた口が塞がらなかった。
「お前のうだつの上がらん顔は見飽きた。側近の座を取り戻せ。切り捨てられたお前が戻れるかはわからんが、お前が教会から手にした毒か薬かわからん代物を主のために使え。曲がったことが大嫌いでも主のために時には曲げる必要もある。だが、それは自分の心に従っているからこそ意味がある。他人に動かされるなど、騎士団長の後継者として認めん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます