第40話 騎士団長からの問いかけ(サンジュリアン視点)

濡れた体で馬車を降り、伯爵邸の自室を目指して歩いていたところ、後ろから父上に声をかけられた。


「サンジュ。随分濡れているな」


「只今戻りました」

俺は仕方なく振り返り挨拶したが、不機嫌さを隠さず答え、早く自室に向かいたいという感じで踵を返しまた歩き出した。


「今日は一段と機嫌が悪いな……体を温めた後私のところに来なさい」


「………本日は体調が思わしくなく……後日にしていただけないでしょうか」


俺は無駄だとわかりながらも一応抵抗してみた。


「お前に今日話しておきたいことが出来た。私の部屋で待っている。何時でもいいから来なさい」


今日の朝は特に話したいことがあるそぶりがなかったため、今会った瞬間何か思うことがあったのだろう。俺は仕方なく頷いた後、自室へと向かった。


"孤児院にまだ通っていることがバレたか……いや、そもそも知っているか。それじゃあ、なんだ?今日は父さんとのやり取りで頭がいっぱいだからこれ以上何か言われたくないが……"


俺はうだうだと父上から言われそうなことを考えつつ、湯浴みを済ませ父上の自室へと向かった。


「はぁー。行きたくない」


俺はノックする前にそんなことを口に出して言ってしまったが、真後ろから声がした。


「そうか。それは悪かったな。だが、今日話しておかないとタイミングってものがあるからな」


俺は心臓が飛び跳ねる勢いだったがなんとか堪えた。


「気配を消して近づかないで下さい、父上」


「これぐらいで気付かないようじゃ訓練が足らんぞ」


そう言うなり俺の横を通り抜け、父上は部屋へ入っていってしまったため、俺も仕方なく後に続いた。


父上はドカッと椅子に腰掛け、オットマンに無造作に足を投げ出した。


「その格好はどうかと思いますが……」


俺は意味がないこととわかりながらも一応口にする。


「家くらい寛ぎたいんでな」


わかりきった答えを聞きつつ、俺は向かいの長椅子へと腰掛けた。


「………………」


「………………」


俺は座ったら本題に入るだろうと待っていたが、一向に話しが始まらなかった。父上は目を閉じたまま肘掛け椅子に肩肘をつき目を瞑ったままの体勢で動かない。


「……………父上?」


俺は沈黙に耐えきれず、問いかけてみた。

数秒ののち、父上は目を開きこちらを真摯に見つめてきた。


「そんなに話しにくい事柄ですか?」


俺は先を促すようそう問いかけると、父上は身を起こし椅子に座り直した後、口を開いた。


「今日までお前の主君選びに口出ししてこなかった………それはひとえに、お前の気持ちを優先したからというよりは、私自身が現国王を選んだようにお前にも自分の主君を選んで欲しかったからだ………だが、最近お前は第二王子の側近候補でありながら第一王子とも再び親しくしていると情報が入ってな」


俺は内心ドキッとしながらも平静を装いながら聞いていた。


「お前はどちらを主君と定めるつもりだ?」

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