第39話 司教の動向(サンジュリアン視点)
サンジュリアンは教会の前で皆と別れた後、密かに司教の家に戻った。
司教の家に静かに入ると、司教が先程と同じように玄関に背を向けた席に座っており、手には何かを持っていじっていた。
「何を持ってるんだ?」
俺が背中越しに覗き込みながら話しかけると、司教は一人だと思っていたのだろう、肩をビクリとさせ、持っていたものを隠すように両手で何かを包み込んで振り向いた。
「なんだ。帰ったんじゃなかったのか?」
司教はサンジュリアンだとわかると、睨みつけながら抗議して来た。
「帰ろうと思ったが、やっぱり今後のことを話しておきたいと思って戻ってきた」
「そうか」
司教はそう答えると、俺を前の椅子へ座るよう促し、手の中の物を俺に渡してきた。
見るとそれは、王家の紋章が透かしで入っている古びた手紙だった。
「これは………先ほど話してたやつか?」
司教は無言で頷いた。俺は開けてみると匂い袋のような綺麗な袋に黒い玉2つが入っているのと殴り書きのような一文の手紙が目に入った。
"娘に使ってやれ"
確かにそう書かれていた。
だが、違和感を感じた。まず毒薬にしては随分可愛らしい袋に入っていること、そして、わざわざ王家の紋章が入っている封筒で送られてきていることだ。
俺は疑問をそのまま口にした。
「わざわざ毒薬を送るのに、この封筒、使いますかね?」
「私もその違和感はあった。毒薬を王家が贈りました、と宣言しているような物だからな。だが、こうも思った。王もお前がしたことを知っている、という意味なのではないかと………」
俺はギョッとした。
"今、お前がしたこと、と言ったか??"
「父さん。何をしたんだ?」
俺は父さんの目をしっかりと見つめながら聞いた。
父さんは気まずそうに目を逸らし、手のひらを擦り合わせたりしていた。
「司教が伝染病にかかっていることを知りながらも孤児を受け入れ、あろうことか王妃様に会わせた、という噂があるのは知っている。だが、俺は今の今まで、あくまで噂だと信じていた。だって、あの当時、王妃様だけじゃない。孤児院にいた多くの子供も犠牲になった。必死に看病もしていたじゃないか!」
俺は青筋を立てながら、大きな声を出していた。
「わかっている。わかっているんだ。私は過ちを犯したと」
司教は苦悩の顔を浮かべながらも、続けた。
「だが、あの時はあれしか方法がないと思ったんだ。宰相がお前の素性をばらし、騎士団長も地位から引きずり落とすと言われて………」
「なっ!俺のせいにするのかよっ!俺が騎士団長の息子になったから!俺が騎士団長の息子でいるために、他の者を犠牲にしたのかっ!」
俺は怒りで目眩がしてきて、頭を抱えた。目には気付かないうちに涙が溜まっていた。
「そんなことで、リナやダーニャを犠牲にしたっていうのかよ………」
俺は6歳で騎士団長に引き取られるまで仲良くしていた子供の名前を口にしていた。
「私ももっと考える時間があれば断ったり、何処かに相談したりできたんだ。だが、王妃が来る前日に話が来て、言われた通りにしないとと思考が停止してしまった。そうしなければ何もかも破滅すると思い込んでしまったんだ」
俺はぼんやりした頭で父さんが言うことを聞いていた。頭に霧がかかったように、話が入ってこなかった。それほど衝撃だった。
「とりあえず、父さんの懺悔は後で聞く。この黒い玉、取り出してきてどうするつもりだったんだ?」
「これは毒薬だと思い込んでいたからしまい込んでいたが、もし良薬だと言うのなら………回復魔法を使う瞬間までの延命には使えるのではないだろうか?」
「俺は、先程の話を聞いて、レイモンドに頼む勇気がない」
父さんは、憐んでいるような、そして残念な子を見るような顔で俺に言った。
「レイモンド殿下は、全てご存知だろう」
「何!?」
「レイモンド殿下がこの教会にわざわざ足を運んだのは何故だと思ったんだ?お前に頼まれたから?エドモンくんの手助けをしたいから?まぁ、それもあるだろう。だが全ては王妃を陥れた者の痕跡を探すためだろう。お前から連れてくると聞いた時、痕跡などもう探せないと思う一方で、何かあるかもしれないと断りたくなった。実際、ディアナ嬢からの視察依頼はのらりくらりとはぐらかしていたからな。だが………治癒魔法は魅力的だった」
俺は嫌味のように口の端をつりあげながら、
「父さんは最低だな」
「親というのは、最低になってでも子供を守りたいんだよ」
少しの沈黙の後、
「この話をしていても埒があかない。とりあえず、これが毒薬か良薬か、調べればいんだろ?」
「あまり聞き回るのも良くない。どこか確実な薬屋を知っているか?」
俺は少し考えた後、
「騎士たちが贔屓にしている医師がいる。その医師が使っている薬師に聞いてみることにする。この黒い玉1つ預かっていいか?」
「あぁ、頼む」
俺は父さんと同じ空間にいると色々言ってしまいそうだったため、黒い玉を一粒取ると玄関からサッと出た。
先程まで星空が輝いていたのに、外にでたときは土砂降りだった。
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