第37話 ディアからの問いかけ

教会の前でサンジュリアン、エドモンと別れ、俺とディアは迎えに来た馬車に乗り込んだ。


司教の家を出てから一言も言葉を発していなかったため、なんとなく気まずかったが馬車に乗り込んだ後もシンとしていた。


“気まずい”


そんなことを思っていたら、ディアが小さくため息をついた。


俺は話しかけるチャンスとばかりに話しかけた。

「疲れたか?」


「いえ、疲れていませんわ」

ディアは明らかに疲労が見える顔に笑顔を貼りつけて答えた。


「無理をしなくてよい。疲労が顔に出てるぞ」

俺は不自然な笑みをしているディアの隣に行き、並んで座った。


不思議そうに見ていたディアだったが、俺は手でディアの肩を引き寄せ、俺の肩にディアの頭をのせた。


「え、な、なんですか、レイ様!?」

ディアは慌てて頭を起こそうとしていたが、俺はダメだ、という意味を込めて頭を撫でながら問いかけた。


「何故そんな不自然な笑顔を貼り付けている?」


ディアは逃げる事はしなかったが、体に力が入りこわばっていた。

だけれども、しばらく撫で続けると強張っていたディアの体も少しづつ力が抜け、俺の肩に適度な心地よい重みを感じるようになった。

そのとき、


「レイ様」


とディアが呟いた。


俺は


「ディア?」


と頭を撫で続けながら先を促した。


「今日一日一緒に行動させて頂きましたが、レイ様がなさりたいことを私は半分も理解できていないことに気づきました」

ディアの声は小さく、どこかため息混じりのような話ぶりだった。


「今日は色々あったからな。理解できないこともあって当然だ」

俺はディアを慰めるようそう言ってやったが、ディアはなお続けた。


「妖精さんとのやりとりが、とても理解できなかったのです。何故、前王妃様がレイ様に毒薬を使うなどという嘘をつく必要があったのでしょう」


俺は、あぁなんだ、ディアも皆が気にしていることが気になるんだな、と思い、フッっと笑ってしまった。


ディアも言ってから気づいたのか、俺の肩から頭を離し、

「聞くなと言われていたのに申し訳ありません」と謝ってきた。


俺は笑いながらも困った顔をしつつ、だがこう続けた。

「まぁ、ディアには話しておくか、共犯者だからな。なんてことはない、事実だから妖精にそう言わせただけだ。俺が、母上は毒薬を作るはずがない、確かめろ、と言って確かめさせても良かったが、司教に疑問が残るはずだ。薬を誰かがすりかえたのでは、と。答えを教えてから行動に出させる事は簡単だが、司教の猜疑心が強くなるだろう。だから事実を混ぜて嘘の真実に司教自らたどり着いてもらうよう導くことにした」


「そうなのですね………でも、それでは………前王妃様が本当に毒薬を作られていたのですか?」


「あぁ」


「そして、それをレイ様に?」

ディアは言いにくそうに、だけれども心配げな顔を向けながら聞いてきた。


“あぁ、ディアは俺を心配してくれているんだな。母上の暴挙と言える行動で俺が傷ついてきたのではないかと”


俺はそんなディアを嬉しく思いながら続けた。


「いずれ司教が調べ上げることだからディアにも伝わるはずだ。聞いた時、さも初めて聞いたかのように演技できるか?」


俺は、覚悟があるか、と暗に問いかけた。


「ええ。表情のコントロールならお任せください。これでも公爵家の娘ですから」


「先程は取り繕えてなかったがな」

俺はそう揶揄いながらディアの頭をまた撫でた。


「それはレイ様に対してだからです。レイ様には何故だかうまく表情を隠しきれないのですわ」

ディアは顔を赤くしながら、プンスカという言葉が似合いそうな感じで可愛く怒っていた。


俺は可愛いなと思いながら、

「そうだな。ディアは良くやっているよ」と言い、またディアの頭を俺の肩に乗せ俺は話し始めた。


「俺の母上、前王妃の姿を覚えているか?」


「ええ。とても病気には見えず、いつも凛とした佇まいと厳かなオーラを持ち合わせた素敵なお方でした。さすがアルストロメリア帝国のお姫様という方で、私の目標とする方ですわ」


ディアが嬉しそうに笑顔で話しているであろうことが肩越しからでも伝わってきた。


そんな様子を嬉しく思いながら、そんな母上のイメージを壊すのは申し訳ないと思いつつ、俺は一層ディアの頭を撫でながら続けた。


「俺の母上は………立っているのもやっとな状態だった」

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