第35話 妖精と駆け引き
「部屋に入るね」
俺は部屋の外から声をかけた後、静かに部屋にはいった。
「こちらはディアだ。さきほど君のお父さんが説明しに来たと思うけど、君が寝ている間にディアと私で妖精さんとお話するから。いいね?」
「はい。お願いします」
少女は少し緊張していた。
ディアは安心させるように
「私も近くにいるから、リラックスして寝てね。男性に寝顔を見られるのは嫌だと思うけど、婚約者の私がちゃんと見張ってるから!」
ディアは茶目っ気たっぷりにそう言った後、少女に横になるよう促した。
「それじゃ、おやすみ、ローザちゃん」
ディアがそう言ったと同時に少女はスーっと目をつむり、寝息をたて始めた。
「寝たな」
「そうですね、同い年くらいなのにこんなにやつれて……何の病気なのかしら」
「さて。だが病気は本来治癒魔法で治せる範囲だと思う。妖精が悪ささえしなければ」
"乙女ゲームでは治ってたしな"
俺は先程見えた妖精が今は姿が見えなかったため、部屋の中を見回した。
「おい。近くにいるんだろ。お茶にしないか?」
返事はないが、お茶と一緒に持ってきた菓子が1つ動いた。
「そんなところにいたか」
俺は積み上がったマカロンの後ろで、さりげなく1つ摘まみ食いしている妖精を見つけた。
「やはり妖精は菓子に弱いな」
「本当なら見つからずにいつも取れるんだ。お前なんで俺が見えるんだ?」
「あいにく俺はアルストロメリア帝国の王族の血筋だ」
「ふーん」
「あまり興味なさそうだな」
「見えようが見えまいが俺には関係ない。だが、菓子を貰ってるからな。食べてる間は話し相手になってやってもいいぞ」
少年の姿をした妖精は、マカロンを両手に持ちながら必死に食べつつ答えてくれた。
「ディアにも見せたい愛らしさだな、君は」
俺は本心そう思い、笑いながら妖精をツンツンした。
「俺様をツンツンするな。どうせなら女の子に撫でられたい」
そう言いながら、ディアに目を向けた。
するとディアが
「まぁあ!なんて可愛らしいのかしら」
と声を挙げた。
「お!ディアにも姿見せてくれるのか」
「綺麗な人は好きだからな。大サービスだ」
「それは光栄ですわ」
ディアはそう言い、妖精の頭を撫でた。
「こら、ディア。男にむやみに触るな」
と言っている最中、被せるように妖精が
「俺が好きか?」とディアに向けて聞いてきた。
「ええ。素敵な羽根。妖精さんをみられるなんて夢のようだわ」
「そうだろう。俺のこと飼ってみたいと思うか?」
「飼うなんてそんな自由を奪うことはしないわ。妖精さんはペットじゃないもの」
「ほぅ。いいな」
妖精は回答が気に入ったのか、ディアの周りをクルクル飛び始めた。
俺は本題に入ることにした。
「俺はレイモンドだ。君の名前をよかったら教えてくれるかい?」
「言うわけないだろ、契約するわけじゃなし」
「ということは、名前はあるってことか」
妖精はしまったっという顔をした後、不貞腐れた。
「名前を貰ったのは誰からだい?」
"妖精は普通名前がない。だが、契約を結んでもいいと思った人物に、契約する際、名前を与えてもらうのだ"
「なんで、そんなこと教えないといけない?」
「別に教えてもらっても知らない人物だろうから教えてくれなくてもいいけど」
俺が興味なさそうに言うと、
「お前ほんとムカつくな。聞いといて興味ないとかあるか?名前はあるが今は契約してない。契約してやろーか?」
「お、してくれるのか?」
俺は嬉しそうな顔で言った。
「するわけないだろ」
「だよな」
俺が分かりやすくシュンとすると
「わかってんならそんなシュンとすんな」
妖精は何やら拗ねる顔をした。
俺は妖精にもう一つマカロンをあげながら
「なんでお前が拗ねるんだ?断られた俺が拗ねるならまだしも」
「お前の顔、前の契約主に似てるからシュンとされるの嫌なんだよ」
「そうなのか?前の契約主はずいぶんハンサムだったんだな」
俺が茶化して言うと
「ハンサムじゃない。美人だったんだ」
「あぁ、女性だったのか」
「………」
何やら急に黙り込んだ。
「お前と話すとなんか情報聞き出されそうだからもう話さない」
今度は少し怒っていた。
「拗ねたり怒ったり忙しいな。さりげなく聞き出されるのが嫌なら質問に変えよう。何故ローザに悪さしてるんだ?」
「悪さなんてしてない。あの子の側にいるのは楽しいからいるだけさ」
「何がそんなに楽しいんだ?あの子はほとんどこの家から出ないだろ?」
「物語が楽しいんだ」
「物語?」
「あぁ。物語を口ずさんでる。家族の話がメインだが時には大冒険とかしてるんだぜ」
「ほぉ。お前は物語が好きなのか」
「うん」
「なら、俺がもっと面白いことしてやろうか?」
俺はニヤッと笑った。
「なんだ?」
妖精は俺の方に飛んできて肩に乗ってきた。
"よし、話し合えそうだな"
「こんな物語はどうだ?」
俺はベッド脇の椅子に腰をかけて語り始めた。
「かつてその昔、ある小国の王は友好の証として王太子と大帝国の王女との婚姻を望んだ。だが、王太子には昔から婚約していた幼馴染みがおりその事が問題となった。大帝国は言った。嫁ぐ王女を大切に扱い、王女が生んだ子を次期国王とすること。王女だけを妻とすること。国王は約束を守ることを条件に自国の安寧を手に入れた。その後嫁いですぐ、王女は第一王子を生んだため大帝国も安心した。だが、良いことは続かない」
俺はここで一息ついて、持ってきた紅茶を飲んだ。
妖精はまた、俺の周りを一回りし聞いてきた。
「それで?続きは?」
"気になってるな"
「王太子妃が出産して暫くしたのち、宰相の娘である王太子の元婚約者が妊娠したと知らせが入った。小国の王族は第3夫人まで娶ることが許されていたが、大帝国との約束があるため大事となった」
「ふむふむ。それでそれで?」
目をキラキラさせながら頷いていた。
ディアは微妙な顔をしていたが………。
俺は続けた。
「王太子は王太子妃となった姫に相談した。聡明な姫ならば受け入れてくれることを期待して………。姫は、産後のひだちが思わしくなく2人目は望めないかもしれないと感じていたため、自分の子供として育てることを提案した。王太子もそのことを王達に告げ、その通りにしようとした矢先、宰相が王に囁いた。「王子が一人ではお世継ぎ断絶の危機になりかねません。子供を生めない王太子妃の代わりにお世継ぎを生むため、我が娘を第2夫人にすべきです」と」
「なんだとー?話が違うじゃないか!妻は一人だけって約束だろ!」
約束が絶対である妖精の世界で、約束を反故にする行為は許せないのだろう、プンプン怒っていた。
その様子は愛らしかったため、俺はにこやかに妖精に微笑みかけ続けた。
「王は王太子妃がもう子供をもうけられないことを理由に元婚約者を第2夫人とした。大帝国は勿論猛反対したが、嫁いだ王女がいる国を攻めるわけにもいかず、抗議だけに留まった」
「友好の証というより、王女は人質みたいな感じになってないか?」
"妖精は意外と勘がいい"
「そうだ。結局、大切な王女とその子供がいる国を滅ぼしたくないという優しい大帝国の王につけこんだんだ、小国の王は」
「滅ぼしちゃえば王女も帰ってくるのにな」
「まぁな」
「だが王女は王太子を少なからず愛していた。だから、大帝国の王に頼めなかったのだろう。王女は産後のひだちが悪くても公務を行いひたすらに努力した。それがまた第2夫人には気にくわなかったのだろう。王妃が伝染病にわざとかかるよう計り殺した」
「ひっでー奴だな、第2夫人!そもそも王太子も何浮気してんだよ!!俺ならそんなことしない!」
「俺もだ」
俺はディアを見ながら相づちを打った。
「そんで?死んで終わりか?俺はハッピーエンドが好きなんだよ。ハッピーエンドにしろよ!」
「んー。これは史実だからな。変えられない。だが、まだ第一王子がいる」
「ん?物語じゃないのか?」
「あぁ。俺の母上の話だ」
「うげー。お前悲しい奴じゃん」
「そう面と向かって言われると悲しいな」
「お前よく大人しくしてるな」
「いや、大人しくしてるつもりはないよ。これから第2夫人だった現王妃と現宰相にはたっぷりお仕置きしようと思ってるよ」
俺は悪どい顔になり言い放った。
「おっ、いーね!俺も手伝ってやろーか?」
"期待通りの反応をしてくれて助かるよ"
「あぁよろしく頼む。さしあたって、お前がローザの側にいた理由をこう変えてくれないか?」
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