第33話 司教との対話

俺は孤児院の事務所の隣にある相談室、という部屋に通された。


「すみません、こんな部屋で。応接室がないものですから」

司教は気まずそうに部屋のドアを開けながら謝ってきた。


「いえ。俺も個室のほうがいいと思ってたんで、この部屋の方がいいです」

俺は笑って答え、部屋に入り進められるまま奥のソファへと腰かけた。


「レイ様、でしたか」

司教も向かいのソファに座るとさっそく話し始めた。


「はい。平民なので名字はありません」


「そうですか。私はこの教会と孤児院を取りまとめている司教のアーノルドです」


「ずいぶんお若いですね」


「若作りですよ」

司教は笑って誤魔化し話を続けた。


「お声をかけさせて貰ったのは、ロイを助けて貰ったお礼に何かさせて貰いたいと思いまして。秘伝の石鹸レシピまで教えて貰ったので………何か私どもでご支援できることはありますか?」


「特にありません。今日はエドモンに頼まれて石鹸作りを行っただけですし。ロイのことは、騎士候補生として当たり前のことをしただけです」


俺はエドモンを売り込みつつ、当たり障りなく返答しておいた。


"この司教、笑顔が怖いな……意味もなく笑ってるやつって、なんか怖いよな………"


「そうですか。実は、あなたにもう1つお願いしたいことがありまして」


"お、きたな。娘のことだよな"


「なんでしょう?」


「助けて貰ったロイは孤児院におりますが私の息子として引き取っています。そして私には娘もおりまして」


そこで言葉を区切った司教は、急に俺の手を両手で握ってきた。


"うぉー。男に手を握られるとか嫌だなぁ…"


顔には出さないようにし、俺は真剣な表情で司教を見つめるようにし、同じ言葉を繰り返した。


「なんでしょう?」


「不治の病なのです」


「ほぉ」

あたかもはじめて知ったていで答えた。


「あなたがロイの怪我を一瞬で治していたと、市場にいた司祭から聞きました。ロイをあなたから引き取って介抱した女性が、我々の司祭でした」


「そうでしたか」


「………あなた様は不治の病を治せるほどの治癒魔法を使えるでしょうか?」


「………使えない、と言ったら諦めてもらえますか?」


「!?」


「まぁそんなことは言いませんけど。どうせサンジュリアンから聞いているのでしょう?というか、先程もサンジュリアンが教会に入っていくのを見ましたし」


「ハハ。バレていましたか」


「ええ。そしてあなたの態度から俺が誰かも知っているようですね」

俺は司教というトップが平民にここまで丁寧に接するのを見たことがないため、薄々勘づいていたことに確信を得たいと思い聞いてみた。


「はい。サンジュリアンは私に隠し事は出来ないですから」


「はぁー。第二王子の側近として大丈夫ですかね、あいつ」


「さぁ。そのときはまた、第一王子に引き取って貰えればと」


俺は苦笑しながら

「いらないですよ」

と答えておいた。



「まぁ、この件は秘密とサンジュリアンから聞いていると思うが。教会としてエドモンを領主に推すことを確約してくれるなら娘を診てやろう」


俺は王子とバレたんなら王子バージョンで対応したほうがいいか、と思い直し、急に尊大な態度で言い放った。


"まぁ、確約しなくても診てあげるけどね、本当は"


「ありがとうございます。仰せの通りに」


「では、今日診てしまおう」


「はい、では、サンジュリアンをつれてきますので、少々お待ちください」


「わかった。あと部屋から出た後は平民に接する態度に戻すように」


「承知しました」

頭を下げて部屋を退席した司教をみやりながら、俺は思った。


"あの司教、敵か味方か。あいつに治癒魔法バレたのは痛手かもな"


何を考えているか読めない司教を薄気味悪く感じながら、俺はサンジュリアンを待った。

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