第32話 孤児院へ寄付
作戦会議の3日後、エドモンは早速孤児院へ寄付に行く約束を取り付け、皆で行くことにした。
"まぁ寄付を断る孤児院はないわな"
もちろん俺も行く。ついでに隣にある教会に寄って、司教の娘を治してやろうと思っている。サンジュリアンに頼まれているしな。
エドモンはロデルナグループの何人か集めて行く手筈にしており、皆が孤児院前に降り立ったときには孤児院に寄付できる古着やおもちゃを手にしていた。
もちろん、今日は孤児院に寄付だけでなく、子供たちと遊んでやることも伝えていた。
「エドモン様、ようこそお越しくださいました」
孤児の親代わりをしている人だろうか、男性が一人でてきた。てっきり司祭とか教会関係者が出てくると思っていたため予想外であった。
「本日は一日お邪魔します。早速子供たちに会いたいのですが……」
エドモンはそう言い辺りを見回した。
「はい、大きい子は市場に働きに行っていますが、小さい子は孤児院の中ほどにある広場で遊んでいます。そちらに集まるように言ってありますので、どうぞ」
男に続いて広場に来ると、小さい子たちが鬼ごっこをしているのが見えた。
「たーっち!」
「ダメ~、今タイムって言ったもん!」
すごい勢いで駆けずり回っていたため、これは収拾つくのか?と思って見ていたが俺たちを目にするなり、
「わー!綺麗な人がいるー」
「カッコいいー」
と、ディアや俺の周りに集まってきてしまった。
俺は前回同様、平民の服装をしていたが子供にとったら貴族だろうが平民だろうがお構いなしだ。むしろ、平民のほうが取っつきやすいのだろう。ロデルナグループの他の貴族もなかなか乙女ゲームなのでカッコいい者が揃っているのだが、俺の周りにばかり集まってきた。
「俺は貴族様じゃないから洋服とか持ってきてないぞ。さぁ、あっちの兄ちゃんたちに貰いに行け」
俺は周りにいる子供たちにそう話しかけた。
「じゃあ、何しに来たのー?遊びに来たのー?」
「石鹸の作り方を教えにきた」
俺はぶっきらぼうに答えつつ、質問してきた4歳くらいの女の子の頭を撫でた。
女の子は可愛く顔を傾げながら、
「石鹸?」
と言った。
「体を綺麗にしたり、洗濯したりするときに使う」
「知ってるよ!たまーに使わせてもらえるもん。痒いのがなおるんだ、使うと」
「そうだな。これからはもう少し使えるようになるよ」
「そうなの!?」
「ああ、君が作り方を覚えたらな」
女の子は満面の笑みを浮かべながら
「うん!私作れる!」
と嬉しそうに答えた。
そのやり取りをディアは見ていたようで後ろから声をかけてきた。
「レイは女の子に人気ですね」
確かに周りを見渡すと俺の周りはいつの間にか女児ばかりだったが、ディアを振り返った瞬間俺は少し不満だった。
「そういうディアは男の子に抱きつかれて何してるのかな?」
少し怒った声色を出してみた。
「歓迎の気持ちを込めてもてなしてもらってます」
そんな声色もお構いなしに可笑しそうにディアは微笑んでいた。
俺はディアの方へ大股で近づき、抱きついている男の子をひっぺがした。
「貴族令嬢にそんなことしてはだめだよ」
振り向いた男の子は見覚えのある男の子で
「あっ!この間のっ」
と、勢いよく言い今度は俺に抱きついてきた。
俺は勢い良く抱きつかれたのでよろけつつもなんとか耐えたが、心の中は動揺の嵐だった。
"やば。意外に顔覚えていたか"
俺は動揺を悟られないように
「やぁ、元気そうだな」
「にぃちゃん!あのときめっちゃ壁に激突して痛かったんだぜ!ひどいよ」
"おーい。まさかの抗議"
「まぁお知り合いですか?」
ディアはビックリしたように俺に聞いてきた。
「知り合いというか、馬車にひかれそうになったところを助けてやったんだよな」
「えー、兄ちゃんに押されて怪我したかわいそうな少年です」
「はぁー?どの口がいってんだ?」
俺は少年の口をムニっと掴みながら、睨んでみた。
「おおコワっ。俺押されなくても馬車にひかれなかったよ!」
「はいはい」
"どうやら、少年は治癒魔法に気づいてないみたいだな。じゃあ、司教が治癒魔法に気づいたのは何故だ?"
俺はそう思いつつ、周りが古着やおもちゃを配り終えてきていたため、今日の俺の任務を果たすことにした。
「石鹸作りたいやつ、ここに集まってきてくれ」
この世界で石鹸は貴重で高価だ。そのため頻繁に使うことができない。大抵は水だけで体を清め、風呂は終わりっ!という生活をしている。
だが、旧日本人の俺からしたら、石鹸て簡単に作れるよなってこと。
「屋台で出た廃油や貝殻、灰を貯めといてくれたか?」
俺は少し年長の子が何か箱で運んできたので話しかけた。その子は無言で頷いた。
屋台を運営している孤児達は廃油や貝の殻などは腐るほどもっている。そのため、廃油石鹸なら、灰と廃油、貝の殻で無料で作れるのだ。
廃油石鹸は体を洗うには適していないが、洗濯や手洗いに使い放題の石鹸があれば格段によくなるだろう。体用には未使用の油をたまに使って作ればいい。
俺は先程の少年と、ある程度大きい子供に手伝ってもらうことにした。
「少年、まず、灰を水に入れて混ぜて、上澄みだけすくってこちらの容器に入れてくれ」
「少年じゃない。ロイだ」
「わかった、ロイ。よろしくな!」
「おう、任せろ!」
「さて、火の魔法が使える司教様がいると聞いてきたのだが、どこだろう」
「私だ」
広場の端で見ていた男が手を挙げた。
想像していたよりもずっと若かったため驚いた。
"え。サンジュリアンの育ての親ってことだから、親世代だよな………どうみても20代前半にしか見えないのだが………"
俺はそんなことを考えつつも、
「普通に高温で貝を焼いてもいいのだが、火の魔法が使えれば一瞬だからな。この貝が灰になるように焼いてくれ」
「わかった…………これでいいか?」
「完璧だ」
「あとは、簡単だ。上澄みと貝灰を混ぜて、その後廃油と混ぜれば、固まってくる。それを型に流して一日待てばいいさ」
「わぁー!」
子供達は自分の好きな型を持ち寄って集まっていたため、我先に入れてもらおうと集まってこようとした。
「この液体は危ないから一人ずつゆっくりな」
俺は後はエドモンに引き継ぎ、先程の司教に話しかけた。
「先程はありがとうございました」
人の良さそうな顔をした司教がにこやかに笑って答えてくれた。
「いえいえ。こちらこそ、秘伝の石鹸の作り方を教えてもらってありがたい」
俺は実家が石鹸メーカーだったことにしていた。何故かこの世界、石鹸は高価だし作り方も秘密なのだ。
「ところで………あなたが」
司教がおそらくロイを助けたときの話をしようとしているのだろう。
俺は
「部屋の中で話しましょうか」
と声をかけた。
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