第31話 作戦会議

王宮に戻ろうかとも思ったが、学園側が用意した執務室に向かうことにした。


執務室に入り、ディアとエドモンにはソファに座るよう促し、俺はソファ近くの肘掛け椅子に座った。


学園にこのような場所があることは内密にされているため、二人ともキョロキョロ部屋を見渡していた。


「まるで王宮の一室のようですね」

ディアが部屋を見渡しながらそう感想をもらした。


「学園に王族が入学した場合、使用できることになっている部屋だ。王族が気楽に過ごせる場所を提供するために作ったんじゃないかな」

俺は笑いながらそう答えた。


本当は、学園内でも特秘事項の公務をスムーズに行えるよう準備されているのだが、俺は学園にあまり来ていないため公務を持ち込んでいない。持て余していた部屋だ。


まぁ、セキュリティも一番高い部屋なため、寝るには最高の環境だが。


「さて、エドモン。運良く私の側近候補になったのだから、これから宜しくね」


「はい!誠心誠意お仕え致します、殿下!」


「殿下って呼ぶのもやめようか。側近になるんだしレイモンドと呼んでくれ。しかも学園では後輩だしね」


「い、いえ、そういうわけには」

エドモンは慌ててそう言い、額の汗を拭った。緊張しているのか、傍から見ても汗をびっしりかいているのがわかる。


「そんなに緊張されると困っちゃうな。最初の威勢はどこにいったんだろうね」


「最初は殿下が孤児院の子供を助けるとおっしゃったので、あまりにもビックリしてつい……。口を出したくなってしまったのです」


「貴族として言いたくなったから言った、じゃやっていけないぞ。というか、孤児を助けることがそんなに驚くことか?」


「はい。一国の王子が一人の孤児を助けるために動くなんて、どこの夢物語ですかっ!」

エドモンはまた興奮したようで、俺に向かって声を張り上げた。


「はっはっはっ、そうかそうか」

俺はその様子を見て面白くなり笑った。呆れるくらい素直な反応に呆れながらも、エドモンのそのような態度は嫌いじゃなかった。


"なーんか親近感湧くなぁと思ったら、日本人的なんだろうな、雰囲気が"


エドモンは貴族教育をあまり受けていないため貴族らしくない態度だが、一定水準の生活は保証されて育っているため平民とも違うゆとりのある雰囲気を纏っていた。日本の高校生的な雰囲気があるのだ。


"高校生の弟ができた感じだな、現世では俺の方が若いけど"


エドモンは俺に笑われたため、苦笑いを浮かべばつが悪そうにしていた。

そんなときディアが話に入ってきた。


「エドモン様。レイ様の側近候補となられたのですから私もできる限り協力させていただきますわ。高位貴族の領主教育に長けている家庭教師もご紹介できます」


「ありがとうございます。ただ、私には自由に人を雇う権限もなければお金もありません」


それを聞いた俺は

「私が出そう」


ディアは俺の回答に首をふり

「我が公爵家が支援致しますわ。お父様にお願いしてみます」


"ディアの父親に頼るのはカッコ悪いよな。俺は金ならある!なにせ王子だしな"


「いや、公爵家は良い家庭教師を教えてくれれば良い。後は私の方で手配する」


カッコつけた感じでそう答えたのたが、ディアはどうも納得せず、

「公爵家は兄様が第二王子の側近候補ですが、王太子にと推しているのはレイ様です。我が家門をもっと信頼してくださいませ」

ディアが珍しく早口でそうまくしたてた。良く見るとドレスの端をギュッと掴んでいる。



「どうした、ディア。今、公爵に頼らなければならないほど切羽詰まっていない。ディアが私の味方だとちゃんとわかっているよ」

俺は安心させるようにできるだけ優しい口調になるよう心がけて、そう言った。



だが、口調だけでは伝わらなかったようで

「私一人では教会にアポすら取れないので、結局レイ様のお手を煩わせてしまいました。私にできることでしたら、父の力でもなんでも使ってレイ様のお役に立ちたいです」


ディアは下を向いたまま、そう言った。


「急にどうしたのだ?」


「ディアナ嬢に孤児のことを先に相談されていたのですか?」

エドモンは空気を読まず質問してきた。


「ディアはロデルナグループだからな。ロデルナの肝は、教会だよ、と教えただけだよ」

俺は、そうだよね?とディアに同意を求めた。


「ええ。そうですわ。孤児のことは先程初めて知りました」


エドモンはなんか納得いかない顔をしていたが、

「まぁ、とりあえず、家庭教師はレイモンド殿下にお願いしようと思います。紹介だけお願いしますね、ディアナ嬢」


「わかりましたわ」

ディアは落胆したように頷いた。



「さて、おしゃべりばかりではなく、本題に入ろうか」

真剣な顔をして、二人に話しかけた。


「まず、ロデルナの孤児の陳情書の件だが、私は握りつぶそうと思う」


「はい!?」

「レイ様!?」

二人は驚愕の表情を浮かべた。


「先程、あんなにロデルナグループで力説されていたのになんだったのですか!」

エドモンがまた怒りだした。


「だから。作戦だ。私が握りつぶした陳情書を側近候補のお前が気付きロデルナの孤児を救う。そうすることで、司教はエドモンに恩を感じるだろうからエドモンを領主に推してもらう、というストーリーだ」


俺は先程思い付いた案を提案してみた。


「レイモンド殿下は、私を試しているのですか?」

エドモンは怒りとも怪訝な表情ともとれる器用な表情でそう俺を睨み付けながら問いかけてきた。


「君を試そうとは思ってない」

なぜ怒っているのかわからなかったため、俺は即座に否定した。


「レイモンド殿下の側近になろうという者が殿下を踏み台にするわけないでしょう。試していないのなら何故そのようなことをおっしゃるのか」


「いや、だから、これは作戦だ。手っ取り早く教会を味方につけられるし。それに、王子が孤児を助けるなんて夢物語だと言っていたのだから、握りつぶしても問題ないだろう」


「何の陳情書を握りつぶしたかなんて世間は関係ありません。王子が握りつぶした、という行為が問題なのです。こんな作戦、絶対にやりません」


完全に怒りながら否定してくるエドモンに

「お前は世間の目が気になるか?」と問いかけた。


「もちろんです。それに王子が王太子になるためには民意を失う行動は避けるべきです。噂は真偽に関わらず厄介です」


「まぁ、お前の言い分にも一理ある。噂で人を殺せるからな。では、お前ならどんな作戦にする?私に助けを求めてきたから、助けてやろうと思ったが、私の作戦だとお気に召さないらしい」


俺はわざと目をスーっと細目、怒っているそぶりをみせた。そうすれば弱気なエドモンは退くと思ったのだ。


「そ、そういうわけでは………案は思い付きません……ですが、私の意見は変わりません」


「お前、意外に頑固だな」


「レイモンド殿下は、私を助けてくれる人ですから、悪く言われたくありません」


「はぁ。案もない。やりたくもない。それじゃあどうにもならないだろう」


俺は大袈裟にため息をついた。

そこで、今まで黙って聞いていたディアが意を決したように話し出した。


「私もレイ様が悪く言われるのは反対です。時間がかかっても正攻法でいくのはどうでしょう」


「正攻法とは?」


「正しいことをするのです。そして正しく教会に恩を売り、本当の気持ちで領主へと推してもらう、ということです」


「正攻法が一番難しく時間がかかるが……まぁ確実だな」


「はい。ロデルナは貧しい街なのでその改善と、病人を少なくする政策を打ち立てられれば良いと思うのですが………」


正攻法が確実なのはわかっている。乙女ゲームでも病気の人を治癒魔法で助けることで信頼を勝ち取っていた。

だが、俺が治癒魔法を使えると公にはしたくないし……


「本当に時間がかかるが、正攻法でいくか?」


俺はエドモンを探るように見た。

「正攻法をやっている間に、領主代理人がお前を次期領主に相応しくないと申請するかもしれないし、正攻法が成功するとは限らない。それでもいいのか」


「はい。殿下を貶めるより元通り私が追いやられる方がましです」


真摯な眼差しで見られ、俺は正攻法の案を口にした。


「それなら、まずは衛生管理と名物作りだな」

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