第30話 エドモンを重用する
「司教様にお伺いしても、私、とは答えてもらえないでしょう」
「そうだろうな」
俺はさも分かりきったことのように答え、次のように続けた。
「お前は何もやってないからな。評価しようがないだろう。いや、次期領主なのに何もやっていない、という評価ができるか」
それを聞いたエドモンは唇をかみしめた。
「お前は先程、まるで民を助けたいから助けてくれ、と言っていたが。私の耳には、追い出されるから助けてくれ、という意味に聞こえた。違うか?」
「っ!ち、違います。領主代理はロデルナを別荘くらいの気持ちで使っており、ロデルナに訪れるのは彼が養女として引き取った者のみ。管理は、雇った管理人に任せきりです。それでは、ロデルナは痩せ細っていくだけです」
「では、お前が領主になったら何をする?」
「ぐっ。そ、それは………」
「埒が明かないな。民を導く術を持ち合わせていない者が領主になるのは、余計民に迷惑では?」
俺は冷たい視線でエドモンに追い討ちをかけた。
「本当のことを言ったらどうだ?領主になりたいのは自分を助けたいからだ、と。そして、ついでに民も良くしようかな、くらいの気持ちだと」
「………」
回答が得られなかった。
"まぁ、このくらいにしておくか"
「私はそれで良いと思うぞ。まず、領主と言えど、自分を守らねば他人なぞ助けられない。人を助けるという行為は、余裕があってこそだ。自分に自信を持ち、知恵を持ち、金があってこそ出来るものだ。民を助ける、なんて大層なことを始めから考えていたら、お前のようなものは足も手もでないだろう。自分を助けるついでくらいでちょうど良い」
俺は優しく語りかけるようにそう言った。
"こいつは、乙女ゲームでは領主の座を追い出されている。モブなんだよなぁ。俺が助ければまぁまぁ役に立つようになるか……"
「お前は力がない。だから、追い出されることばかりに気をとられるのだろう」
そこで一呼吸開けた後、俺は言い放った。
「お前を私の側近候補に任命しよう」
周囲で息を飲む声がした後、ザワザワとしだした。
サンジュリアンも動揺しながら声をかけてきた。
「で、殿下。その者は殿下に助けを求めただけで、殿下のお役に立つかどうか………」
「私が側近に求めることはただ一つ。私を裏切らないこと。そして、私のために一生懸命努力し、尽くすこと。お前を助けてやるから、その人生、私のために尽くせ」
サンジュリアンは、裏切らないこと、という辺りで目を見開いた。
側近になるくらいだから、裏切らないことなど当たり前のことなのだ。それをあえて言ったということは、裏切られた経験がある、ということを意味する。
「っ。殿下」
サンジュリアンは、まだなにか言おうとしていたが、エドモンが片膝をつき君主に対する忠誠の誓いのポーズをとったため、口をつぐんだ。
「誠心誠意お仕えさせていただきます」
「側近候補となったお前を、次期領主から引きずり下ろす輩は早々いないだろう。さて、お前の民を助ける算段を私の執務室で考えるか」
俺は、エドモンを立たせ、ディアも呼びロデルナグループの部屋を立ち去った。
サンジュリアンは呆然と立ち尽くしていた。
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