第28話 ロデルナ視察を命じに来たら

次の日、早速ディアに会うためロデルナグループの執務室を訪れた。ディアは最近この部屋で過ごすことが多いらしい。


ハンプソン侯爵家のソフィア嬢と楽しそうに窓辺にいるディアをすぐ見つけることが出来た。それを見ていた俺のところにサンジュリアンが急いでやってきた。


「殿下、ありがとうございます」

小さい声でサンジュリアンが礼を言ってきたがそれに返事をせず、

「ディアナ嬢とロデルナグループのリーダーに話がある」

とだけ伝えた。


「呼んで参りますので、そこの椅子でお待ち下さい」

サンジュリアンは俺が返事しないことに気分を害した素振りもなく、窓際にいるディアに声をかけながら、奥の部屋へと消えて行った。


ディアは俺が来ていることを知らされ急いでこちらに来てくれた。

「レイ様、どうしてこちらにいらっしゃったのですか?」


″人前でも愛称で呼んでくれるようになったな″


俺は頬が緩みそうになるのを堪えながら、

「ディア、先日教会の件で話したことを実行してもらう良い機会がきたので伝えに来た」

と応じた。


ディアは何故か若干顔が強張ったが、すぐに笑顔に戻り、


「教会にはサンジュリアン様が親しい者もいるようなのですが、なかなか接触できておりませんでした。本日はどのような機会を頂けるのでしょうか?」


「それはロデルナプロジェクトのリーダーが揃ってから話そう」


俺は近くまで戻ってきていたサンジュアンの方を見ながらそう言った。


「殿下、ロデルナプロジェクトのリーダーを連れてきました」

サンジュリアンがそう言うと、1人の男が前に進み出て挨拶した。


「殿下、お会いできて光栄です。クリスト伯爵家嫡男エドモンと申します」


「君がエドモンか。ロデルナのことは詳しいと思うが………」

俺は次期領主であることを知っていると暗にほのめかしながら次の言葉を伝えた。


「今日は学生として来たわけではなく第一王子として来た。ロデルナの孤児院に不治の病を患っている者がいると陳情書があがってきてね。治癒魔法師はこちらで用意するから、それをこのプロジェクトで対応してほしい」


エドモンは意味がわからない、という顔をして質問してきた。

「孤児院の子供が不治の病に侵されている、ということでしょうか?」


「そうだ」


「なぜそのような些末なことで貴重な治癒魔法師を派遣なさるのでしょうか?」


俺はエドモンが言わんとしていることがわからずイライラした。


「何が言いたい?」


エドモンはというと、俺がイライラしていることには気付いていないようで、


「孤児に貴重な治癒魔法師への対価は支払えないと思います。それを無償で実施しては陳情書を送れば皆助かると思われてしまいます」


「私に口答えするのか?」

俺は怒気を強めて言った。


「救える命を救わずに無視しろと言っているのか?」


「い、いえ。ですから、そんな個人の相談のようなことで国の貴重な治癒魔法師の資源を使うことは職権濫用にあたると思うのですが」


「治癒魔法師の目処は立っている。枯渇もしていない」


雰囲気が最悪になったところにディアが間に入ってきた。


「殿下は孤児を救うことに重きをおかれている訳ではありません。教会とお近づきになることに利益を見い出されているのです」


俺は孤児を救うことに対して批判されるとは思ってもいなかったし、ディアが良かれと思って間に入ってくれた言葉に見かけだけでも同意するという配慮が出来なかった。


前世の記憶を思い出してから身分制度について認識が弱まっていたが、我が国アガパンサス帝国はインドのカースト制度のように特権階級以外ほぼ人権がないことを思い出し胸が苦しくなっていた。


「違う。そうじゃない。孤児であろうが、領主であろうが願った事が理不尽でない限り、叶わないと絶望するような国じゃいけない。私が気付けなかったことを陳情書は提示してくれる。先に気付いて対処しなければいけないことを、国民が最後の望みとして託す陳情書が教えてくれるのだ。何故これを軽く扱える」


俺は帝国の人間が、日本的考えをすぐ理解しろという方が無理がある、と頭ではわかっていながらも言わずにはいられなかった。

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