第27話 サンジュリアンの頼み
部屋で休んでいると
「ドッケンバード伯爵子息がいらっしゃいました。如何なさいますか」
とエヴァンの声が聞こえてきた。侍従ではなくエヴァンが声をかけてきたということは、正式訪問ではなく、エヴァンと連れだって王宮にやってきたのだろう。
時折、人目を避けて訪問したい者がいる場合、エヴァンを通してやってくる者がいる。今日はサンジュリアンか。
「お前が連れてきたのだろう………通せ」
しばらくすると、サンジュリアンだけが扉から入ってきた。
「殿下、ご無沙汰しております」
「何を言っている?この間会ったではないか」
「はい………ですが、殿下とお話しできる機会を頂けたのは久しぶりですので」
「私が呼んだ訳じゃないがな……で、何用だ?」
俺が無愛想に答えると、サンジュリアンが急に笑いだした。
「ブフッ………はぁー。やっぱり畏まってお前と話すの無理だわ」
急に昔よく見ていた太陽のような笑顔になり口調も砕けた。
「………」
俺は急な展開についていけず押し黙った。サンジュリアンとは側近候補を辞退されたときからギクシャクしていたし、だれ恋でもギクシャクした描写が多かった。そのため、どう振る舞うのが正解か判断がつかなかった。
サンジュリアンは俺の様子を気にすることなく話し始めた。
「以前ディアナ嬢と一緒にロデルナにいた騎士風の男が、俺の義弟を助けてくれた」
おそらく、孤児院のあの少年のことを言っているのだろうが、サンジュリアンが孤児院出身ということは伏せられているためなぜそんなことを言うのか解らず戸惑った。
「サンジュリアンに義弟がいたとは初耳だな」
とりあえず、当たり障りのないよう返事をした。
「ああ。幼い頃司教に一緒に拾われて、伯爵に引き取られるまで一緒に育った」
俺は目を見開いた。
"な!?なぜここで暴露する?"
「ハハッ。やっと表情変えたな」
サンジュリアンは面白そうに笑った。
「お前、秘密にしていたことじゃなかったのか?」
俺は驚きから以前サンジュリアンと話していたときの口調に戻っていた。
「なんだ。俺の秘密に驚いてくれたのかと期待したのに………やっぱり知っていたか」
俺はどう対応したものか迷った。知っていたといっても、ゲーム内の知識で知っていただけで調べたわけではない。
「俺が第二王子の側近候補になるときも、理由を聞かれなかったから知っているのかもとは思っていたけど」
俺はサンジュリアンが側近候補辞退を申し入れてきたときのことを思い返してみた。その時は母上のことやディオルゲルのこと等で憔悴していたためサンジュリアンのことにまで気を回せなかった、というだけだった気がするが………。
「実は、その男を探しているんだ」
「回りくどいな」
「なら、単刀直入に頼もう。司教に会ってくれないか」
「………ロデルナの司教が人探ししているということは知っている。会ってどうする?」
「実は………義妹がいるんだ」
「お前は何人兄弟がいるんだ………」
俺が呆れたように言うと
「一緒に拾われたのは二人だ」
「そうか」
「義妹は不治の病を患っている。最近はどんどん衰弱してきてるんだ」
「俺が会ってどうする?俺は何も出来ないぞ」
「義弟を助けた男は………魔法が使えたみたいなんだ」
「まぁ、少なからず皆魔法は使えるだろ」
「治癒魔法で義弟の怪我を治してくれた」
「ほぅ?では、風魔法使いの俺ではないようだな」
「レイモンド」
サンジュリアンが真剣な眼差しで俺に向かって懇願してきた。
「お願いだ。力を貸してくれ」
「………」
まぁこの話の流れでは俺が治癒魔法を使えると知っているだろうとは思ったが、ここで肯定するわけにはいかない。俺が光魔法である治癒魔法や高度魔法が使えることを公言すると今後やりたいことに支障が出る。
"魔法師団の目を欺いてやりたいこともあるし、王妃の耳に入ってまた毒殺とか企てられても面倒だしな……"
だが、サンジュリアンが義妹を助けたいと懇願し、秘密まで暴露してきたことを考えるとただ拒否するのも躊躇われ、代案を提示することにした。
"ここで断っても、ヒロインが1年後に助けてくれるんだけどな。まぁ、妹さんが苦しい期間が長いのも可哀想だし"
俺はしばらく考えた後こう言った。
「確かに、ディアナ嬢にロデルナを案内させた騎士候補生は私の知り合いだ。………。そういうことであれば会ってやってもいい」
「ああ。それでいい」
ありがとう。サンジュリアンは涙を滲ませながら小さい声でそう言い、頭を垂れた。
「この話はお互い秘密にすること」
俺は釘を指し、その後労るような口調で次の言葉を伝えた。
「お忍びで来たのだろう。王妃の目もある。早く帰れ。近いうちにディアナ嬢が教会を視察するだろう。そのとき、その騎士候補生を同行させよう」
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