第26話 少年を助ける
ディアと別れて急いで向かった先は、ロデルナ広場に面した大通りだ。
"確か、司教が引き取って大事に育てていた子供二人のうち一人が馬車に轢かれる日は今日だったな"
だれ恋のサンジュリアンルートでは、ヒロインが司教の子供を不治の病から救った際、司教がもう一人の子供がいたこと、そして、二人目もいなくなったら生きていけなかったことなどを涙ながらに語っていたシーンがあった。
俺は、不治の病を患っていた娘が救われるシーンを何度もやりこんでいた。なぜなら癌を患っていた妹とその娘を重ね合わせていたため、その娘が助かるシーンには心打たれるものがあったからだ。
ヒロインが弟の墓地にお墓参りに行くシーンも何度も見ていたためそこに彫られていた没年月日まで覚えている。
"せっかくだから、弟、助けたいよな"
俺は、ディアとのお忍びデートの時のように平民服を身に纏い、髪型はボサボサに、肌色は魔法で良く日焼けした小麦色に変え、広場に向かった。
カラフルなボールを手に持ち、大通りの隅っこで座っている小さな少年がいた。
「何してるんだ?」
俺はさっそく声をかけた。
「別になにも」
少年は警戒するそぶりを見せつつも返事を返してくれた。
「俺が遊んでやろうか?」
「いいの?にぃちゃん暇なん?」
相当退屈だったのだろう。警戒心よりも遊んで欲しい心が勝ったようで目をキラキラ輝かせていた。
「ああ。だが、この通りは危ないから、広場の噴水のひらけた所に行かないか?」
そう話しているとき、急に少年がいじっていたボールが手から離れ、通りの中央へと転がっていった。それを止める間もなく少年が取りに行ったとき、ちょうど勢いよく馬車が迫ってきていた。
"なっ!?さっきまで馬車なんて見えなかったのに、なんで急に。運命は変えられないのか??"
俺は必死に魔法で突風を起こし、少年が馬車に轢かれないよう弾き飛ばした。
"間一髪で間に合ったか?"
馬車はすごい勢いで通りすぎていった。
"あれはどこの貴族の馬車だ?"
気になったが、それよりも弾き飛ばされたことにより反対側の壁に激突し倒れている少年の所へと急いだ。
「おい!大丈夫か??」
市場の人たちも出てきて、顔見知りがいたようで
「おい。ロイが倒れてるぞ!」
「大丈夫か!ロイ!」
とガヤガヤ人がやって来てしまった。
"やばい。俺のことを覚えてしまう人がいるかもしれない……困ったな……とりあえず、治癒魔法をさりげなく施したから帰るか"
俺は少年のことを心配気に見ていた女将さん風の女性に、気を失っているだけで外傷はなさそうだと伝え、足早に立ち去ることにした。
とりあえず治癒魔法で治したし、意識が戻れば問題ないだろう。
"任務完了だな"
俺はホクホクしながら帰宅したが、数日後、司教が人探ししているという噂が流れてきた。
何やら魔法使いを探していると………。理由は明らかにされていないが、明らかに俺を探し始めたようだ………。
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