第21話 ディオルゲルの回想 ~後編~(ディオルゲル視点)

秘密部屋へ遊びに行った日を境に、王宮に呼ばれた日は必ずレイモンド殿下の部屋へ行くようになった。


部屋ではいつも秘密部屋にこもりゲーム内の帝国について議論した。いつも俺が見逃すような小さな数値の変化にも気付き対応する姿を見て、俺は君主として、次期王として尊敬するようになっていった。


殿下はゲーム内のロデルナも視察し市場で売られていた鳥が原因と特定出来たらしく、解決へと向かっていた。彼はひどく疲れていたが、ゲーム内のアガパンサス帝国を実際の帝国と重ねて見ているようで、繁栄していることが誇らしいようだった。


しばらくそんな日が続いたが、あるとき王宮に遊びに行った際、レオンハルト殿下しかおらずレイモンド殿下はいなかった。


俺はレオンハルト殿下に問いかけた。

「今日レイモンド殿下は?」


「兄様は部屋でやることがあると言って出てこないそうです」


「そうなのか。話したいことがあったのに残念だな」

俺は最近レイモンド殿下に会うことを楽しみにしていたため、本当に会えないのか粘って聞いてみた。


「うーん……。あっ。ディオルゲルのことを側近候補として指名すると聞きました。だからディオルゲルなら熱中している兄様のところへ会いに行っても大丈夫かもしれません。兄様は侍従も遠ざけて熱中しているそうです。でも、息抜きできる遊びの日も重要だから、こんなときくらい連れ出してあげないと!」


この時俺は、レオンハルト殿下にそう言われたのと、レイモンド殿下に側近候補として選んで貰った、という気持ちで気が大きくなっていたのかもしれない。俺は侍従も遠ざけていたレイモンド殿下の部屋へビックリさせようと向かった。けれども部屋の中にレイモンド殿下の姿はなかった。俺はきっと秘密部屋にいるんだな、と思い秘密部屋へ静かに近付き扉を開けた。


と、そのとき、地図の近くの壁に背中をもたれながら目をつぶっている殿下が見えた。俺は寝ているんだと思い静かに近付き驚かそうとしたとき、何か様子がおかしいことに気づいた。


殿下は汗ばんでおり、顔色は青ざめぐったりしていた。

俺はビックリして殿下の側に急いで行った。


「殿下!大丈夫ですか?気分でも悪いんですか?」


ビクッと肩を揺らし、ビックリした顔でこちらを見た殿下だったが焦点が合っていない。


かろうじてかすれた声で

「なんでお前がここに」と言っているのがわかった。

だが、

「医師を呼びます」

と言った瞬間、目を見開いて手を掴まれた。


「ダメだ。呼ぶな」


「なぜです?命に関わるかもしれないんですよ?」


「いつものことだ。問題ない」


「問題ないわけないだろっ!」

俺は敬語も忘れ殿下に怒った。


「本当に……問題ないからやめてくれ……」

額に汗が滲み、掴まれた手はもはや力なく俺の腕にもたれかかっていたが、涙ながらに訴えられたため俺は動けなくなってしまった。


"どうしたものか……。どうしてこうなった……"


「殿下、ベッドに行きましょう」

俺はとりあえず秘密部屋内にあるベッドに連れていくことにした。殿下は力尽きていたが、体格的に1歳しか違わないため抱き上げることは出来ない。だからといって床に寝かせるよりベッドの方が休める。殿下を支え、なんとかベッドにたどり着き寝かせることに成功した。


俺は殿下の衣服を緩めてやり、


「呼べない理由を教えてください。そうしないと今すぐ飛び出して行きますよ」

と脅した。


殿下はしばらく黙っていたが、俺が今すぐ出ていこうという素振りを見せると観念したように言った。


「ちょっと毒を飲んだだけだ」


「毒?」


「あぁ、毒に慣らすためにお前も飲むことがあるだろう」


「それにしたって量を間違えたんですよ、これは異常です。医師に見せましょう」

そう言っても、殿下は言うことを聞かなかった。これは何かある、と思い聞いてみた。


「誰かに盛られたのですか?」


殿下は少し体を強ばらせた。

おそらくそういうことなのだろう。


だが、なぜ秘密にしたいのか。誰を庇っているのか……。俺はその時はわからなかった。


俺は仕方がないので、落ち着くまで側で看病した。


殿下は数日もすると元気になったようで、また遊ぶ日に顔を見せたが、何回か似たようなことがあった。


それを見ているとどうもレオンハルト殿下やその周りの人が絡んだときになっている気がするのだ………。


"レオンハルト殿下が??いや、まさか。仲良いよな?……ということは、レオンハルト殿下のバックについている人物か………どちらにしても庇っているのは弟殿下のことか"


俺はこの事に気付いた時愕然とし青ざめた。この事はレイモンド殿下が口を閉ざしている限り、一生口に出してはいけないのだろう。


今も弟殿下を守るために動いている殿下。

ただ、前王妃様がお隠れになってからはどこか遠くを見つめるようになってしまった。あんなに帝国のことを想って疲れていても力強かった瞳が……。


アガパンサス帝国を見捨てられるおつもりか………。

そんな不謹慎なことをチラッと考えてしまうほどだった。


現在はレオンハルト殿下の側近候補となったため秘密部屋にも行けない。寂しく思いそれとなくレイモンド殿下にゲームのことを聞いても、「あれはもうやらなくなった」と返されるだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る