第20話  ディオルゲルの回想 ~前編~(ディオルゲル視点)

レイモンド殿下と俺が出会ったのは7歳の時。ディアナが婚約者として選ばれた後、俺も殿下達の遊び相手として王宮に呼ばれるようになった。その頃は、まだ側近候補ではなく殿下達との相性を見られている感じだった。


俺は弟が出来たみたいにレイモンド殿下やレオンハルト殿下を可愛がり、また、俺と同様遊び相手として呼ばれた貴族の子息達とも一緒にふざけて遊んだ。


ただ、俺はよくレイモンド殿下から質問を受けた。質問の内容が政治寄りだったため、俺はどうせ帝王学とかで出てきた宿題をそのまま質問しているんだなと思い、めんどくさいな、と思いながらも答えたりしていた。

だが、俺が10歳になろうとしていたとき、そろそろそれに答えるのがめんどくさくなってきた。


「聞くんじゃなくて、ご自分で考えたらどうですか?殿下も9歳になるのですから」


俺は少し突き放す言い方をした。


「なに言ってるんだ?別にお前の言葉を鵜呑みにしている訳じゃない」


"ん?宿題にそのまま書いているわけじゃないってことか?"


「なら、ご自分で考えたことを紙に書いて提出すればいいじゃないですか。どうせ宿題なのでしょう?」


「??宿題?なんの話だ?俺はより良い答えがあれば採用しようと思って聞いていただけだ」


"ん?話が噛み合わなくなったぞ?"


「回答によっては何かに採用してるんですか?」


「そりゃあな。質問は何かを解決するためにするものだろう」


"え。単なる宿題の答えを聞いてたんじゃねーの?だって、なんで街で病気が流行る?とか、なんで人が増えても国が潤わない?とか、子供が解決するような問題じゃないよな?"


「??あぁ、そうか。あれを見せてなければ意味がわからないか。まぁお前なら見せてやってもいいかな」と謎なことを言い、他の子息達を帰らせ俺だけ残された。


「ついてこい」


言われるままついていくと、そこはレイモンド殿下の寝室の隣にある部屋だった。秘密部屋になっており、一見そこに部屋があるようには見えなかった。


「これは側近になるやつにしか見せちゃいけないんだが、まぁ、お前を指名しようと思ってるしいいよな」

これを聞くということは、なる気がないなら今すぐ立ち去れ、ということだろう。


俺は頷き、前へ進み出た。


殿下が退くと、その後ろには3メートル四方の大きな机に地図みたいなものが浮かび上がっていた。だがそこには数値も浮かび上がっていたり、時には人影や早馬などが街道みたいなところにいたりした。


「これは小さなアガパンサス帝国だ。もちろん本物じゃない。我が帝国の設定を入れているゲームだ」


「ゲームですか?」

俺は今まで見たこともないゲームに戸惑いつつも、問いかけた。


「そうだ。これはアルストロメリア帝国の王族が帝王学を学ぶ際に使う魔道具だ。母上から貰った。自国の民の設定を入れ、繁栄させたり、時には上手くいかず滅亡したり、貧しくなったり、色々だな。ただ、リセットするには母上の許可がいるから今のところ出来ない。さきほどお前に問いかけたのは、このロデルナで問題があったからだ」

殿下は地図で王都に近い場所を指差しながら言った。


「ここは以前、人口増加のために市場を増やしたんだ。働き口が増えたため人口は増加したが、暫くしたら疫病が流行り出した」


「だから、先程は疫病が流行る原因は?と聞いてきたんですか」


「あぁ。衛生面だと思ったが、孤児の改善には莫大な費用がかかるから身綺麗にする習慣がつくように大衆浴場をとりあえず設置した。だが、客の入りが良くない」


「そもそも、貴族は大衆浴場なんて入らないですし、孤児は入浴料が払えないですからね」


「そうだな……他に施策を打とうにも金がない……」

どうやらお金は、税収の何割かを予算として年度始めに与えられるらしい。


俺は少し考えた後、口を開いた。

「………市場では何を売り始めたのですか?」


「そこまで設定していない。実際に何を売るかはオートになる。何が売られているか確認することも出来るが……実際に魔法を使ってこのロデルナへ視察に行く必要がある……」

なんと、魔法で実際のゲームの中に入ることが出来るらしい。


「時間も体力も本当の視察のように使うから、あまりやらないんだ」


「でも、おそらく市場で何か疫病が流行るものが売られたんだと思いますよ」


「やはりそっちか………」

検討はついていたのだろう。だが、本当の視察のように時間を使うということは、第一王子のスケジュール的に深夜に行うしかない。王子教育は過密なスケジュールだし躊躇ったのだろう。


「やはり現状把握しないで金ばかり使ってもダメか」

9歳でその思考に至れるのか……。

このゲームによるところか、はたまた王子教育の賜物か。


このゲームは本当の領主になったように采配を振れる。アルストロメリア帝国の王族が作り上げた叡智の結晶なのかもしれない。それを使いこなしているレイモンド殿下にも目を見張った。

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