第16話 お忍びデート(1)
俺は黒の平民服を身に纏い、髪型はボサボサに、肌色は魔法で良く日焼けした小麦色に変えた。腰には騎士候補生の剣を携えることで、騎士のような佇まいでも問題ないようにした。やはり、どんなに平民服を着ても、良く鍛練している姿形は目を引く。それに加え、自分で言うのもなんだが、顔が恐ろしく整っているから目を引いてしまう。あまり微笑まないようにしよう。
魔法で別人に変えることも出来るが、それは稀少魔法に当たるため今実行するわけにはいかない。
支度が整ったため、学園の正門に向かいその付近に停められている馬車に乗り込んだ。
馬車の中には既に着替え終わったディアナ嬢が待っていた。
「待たせてしまったな」
「まぁ!一瞬どなたか分かりませんでしたわ!」
ディアナ嬢は興奮気味に言い、より間近で見たいのか椅子から立ち上がりそうな勢いだった。
「落ち着いて、ディアナ嬢。バレるわけにはいかないので、普段とは正反対な装いにしてみたが、どうだろうか?」
「えぇ!とても素敵です!いつもが漆黒の王子様なら、今日は漆黒の騎士様って感じです!」
ディアナ嬢がいつもよりくだけた口調で返してきた。
どうやら、騎士の方が身近に感じるらしい。
「私はいかがでしょうか?」
彼女はハイウエストの小花模様のワンピースを着ており、髪型も三つ編みにして左側に垂らしている。とても可愛らしく品のある装いになっていた。
「とても可愛らしいよ」
「ありがとうございます!実は、平民服を着ても平民のように見えないと侍女に言われ、心配でした」
「それは否定しない……まぁ、仕方ないだろう。あと、呼び名だがレイと呼んでくれ。さきほどは呼んで貰えなくて寂しかったからな」
ディアナ嬢はふくれた顔をし、
「それは殿下が先にディアナ嬢と呼んだからですわ!」
と言ってきた。
俺は目を見張り、
「それでは同じ気持ちだったのかもな。どうも人目がある場所だとうまくいかなくてね」
と言い、声をあげて笑った。
それにはディアナ嬢もビックリしたようで固まっていた。
「今日は騎士候補生のレイだ。無愛想にし粗野に振る舞うのでビックリしないように」
「わ、わかりましたわ。私も砕けた口調にするよう心がけます」
「では、ロデルナの市場に行こう」
話していたらあっという間で、いつの間にか馬車は出発し、ロデルナの広場に到着していた。
馬車を降りたところで、俺はディアナ嬢に手を差し出した。
「どうされました?」
と聞き返されたが、スッと手を掴み、繋いだまま市場の方へ歩きだした。
ディアナ嬢を見ると、顔を真っ赤にし体はぎこちない動きをしていたが、そのうち意を決したように手を握り返してきて嬉しそうにしていた。
"騎士の格好だし、ちょっと強引なくらいでもいいよな"
ロデルナは貧しい街だから市場もひっそりしているかと思ったが、小さいお店でひしめいており、地元の人で賑わっていた。
「屋台で何か食うか?」
「え。でも……」
「どうした?」
「衛生面が気になりますわ」
「口調」
「っ!衛生面が……気になるわ」
「大丈夫だ。俺が浄化魔法で無害にしてやるから問題ない」
「え、あ、魔法?…おれ?…え、あ。あ。ありがと………ございます?」
ディアナ嬢はしどろもどろになりながらも返事した。
「どうした?変な声だして。俺に緊張してるのか?」
と顔を近づけて聞いてみた。
ディアナ嬢は、ボンッと音がなるのではないかと思うくらい真っ赤になり俯いてしまった。
「なんか食うぞ」
俺はそう言い、手をひっぱり美味しそうな匂いがしている串海老の屋台に行った。
「串海老2つくれ」
「お、兄ちゃん、デートかい?そんなきれーなねぇちゃんに串海老は食べにくいんじゃないか?いーのかい?」
「俺が食いたいんだ」
「そんなんじゃフラれるぞ」
「そりゃ困るな。ディア振るかい?」
俺は振り返り、まだ俯いているディアの顔を覗き込んだ。
ディアナ嬢はバッと顔をあげ、
「や、止めてくださいっ!」
と後ずさられた。
「兄ちゃん。無理強いはよくねぇぞ。いくら顔が良くても嫌われる」
と可笑しそうに冷やかしてきた。
俺は頭をガシガシかきながら、
「どうしたんだ?そんなに串海老が嫌か?」
「そういうことではありません!」
俺は目を細めながら声を出さず口だけ動かし、「口調」と言った。
「っ!」
プシューと音が出ているかのような顔でディアナ嬢は話さなくなってしまった。
「親父、俺が2本とも食うからくれよ」
「はいよー!仲良くやりなー!」と言いながら、おまけに1本入れてくれた。
俺は素早くお金を払い、食べれそうなスペースを見つけた。
「食うか?」
俺は一応差し出したが、ディアナ嬢はフルフルと顔をふるだけだった。
仕方がないのでディアナ嬢の耳の側に顔を寄せ、いつもの口調に戻し小声で話しかけた。
「ディアナ嬢、本当に嫌なのか?」
「い、いえ。そういうわけでは」
小声でディアナ嬢が返したきた。
また、小声で
「嫌でも少し付き合ってくれ。ロデルナの名物になりそうな屋台を見つけたいと思っていてね」
俺はそういうと、顔を離し、串海老を殻ごとバリバリ食べた。
「うん、うまい。これは手を出すまでが躊躇われるが、食べてしまえば10本はいけるな」
そう言いながら3本あっという間に食べてしまい、また歩こうとしたとき、
「い、嫌ではないわ!今度こそ私も食べるわよ!」
なんとなく怒った感じで、俺の手をむんずと掴みながら屋台の方向へ連れていかれた。
俺は苦笑しながらも抵抗せずついていった。
それから彼女は甘く焼かれたりんご飴を見つけ、頬張って食べた。
「美味しそうだな。一口くれ」
「ほぉえ?ま、待って。甘いの嫌いって言ったじゃない!だから1つしか買わなかったのにっ」
「ディアが食べてるの見たら食べたくなった」
「何よそれ!あげないんだから!」
焦った彼女はりんご飴の飴を頬につけてしまった。
「ついてるぞ」
俺は頬の飴を手で拭ってやり、それを舐めた。
「甘いな」
俺はそう言いながらも、ニヤッと笑った。
ボンッ!彼女は予想通りまた赤くなった。
"なんか癖になるな、このやりとり"
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