第17話 お忍びデート(2)

他にも焼き鳥やスープなど色々試していたが、ふと露店の店先に氷のかけらをそのままペンダントトップにしたようなペンダントがあった。

それはコバルトブルーで海のような優しい色合いなため、流氷がある海の港ナティアの土産物としても使えるな、と考えて見ていたら


「ガラスの破片で作ってるからそんなに高くないよ。彼女にどうだい?」

と話しかけられた。


俺はディアナ嬢が安価なペンダントを普段つけることは出来ないだろうから、ナティアの土産物サンプルとして買っていくことにした。


「じいさん、貰おう」


「まいどー」


じいさんはディアナ嬢に渡すと思ったらしく、簡素だけれども包んでくれた。


俺はそのままポケットに入れた。


ディアナ嬢が何か言いたげな様子だったため、


「どうした?」


と聞いてみた。


「い、いえ。あの……そのペンダント、どうなさるのですか?」


「ああ、まぁ、ナティアの土産に出来たらと思ってな」


「そ、そうですか」


ディアナ嬢は微かな声で「ナティアさん……」と呟いていたが俺には聞こえなかった。




そろそろ薄暗くなってきたため帰ろうかと思っていたところ、


「やめてください!」


と女性の声が聞こえた。


振り返ると、ペンダント屋の横の路地で揉めている人影があった。どうやら柄の悪いナンパのようだ。


騎士候補生の剣を腰に差しているし、助けないわけにはいかないか…と少し考え、


「ディア、側を離れないように」と伝え、声がした方へ向かった。


「なー、お茶でもしない?ここで会ったのも運命だよね」


「私は家に帰るところなので離してください」


「じゃ、もう暗くなるし送ってくよ、家どこー?」


女性の方は腕を掴まれ動けないでおり、かなり怯えていた。


俺は

「おい。強引なナンパは実を結ばないぞ」

と声をかけながら近づき、女性の腕を掴んでいた男の腕を掴んだ。


「あぁ?なんだ?じゃますんじゃねぇ!」


と反論してきたため、俺はそのまま掴んだ腕を捻りあげた。


「ぎゃあ!」

男が悲鳴を上げると、路地裏から別の男が数名出てきた。


「おい、兄貴に何してくれてんだよ!」


女性二人いて男が数名のこの状態は分が悪い。俺は剣を抜き、ディアナ嬢ともう一人の女性を先に大通りへ逃がそうとしたとき、騎士団長の伯爵家嫡男サンジュリアン・ドッケンバードが現れた。


「俺も力を貸そう」


そう言いながら、彼は男たちに剣を構えていた。


流石に抜き身の剣を見て臆したのか、はじめの男が


「また今度遊んでやるよ」と言いながら男たちを引き連れ逃げていった。




俺はサンジュリアンが現れたことで嫌な予感がした。


"やばい。これ、サンジュリアンとヒロインの出逢いシーンでは……"


俺は助けた女性を恐る恐る確認した。

よくよく見ると、平民服を着ているがフワフワのピンク色の髪の毛でだれ恋でよく見たヒロインの顔をしていた。


"やっちまったー………"



剣を鞘に収めていた俺に、ヒロインと思われる女性が話しかけてきた。


「助けて頂きありがとうございます!」


「今度から気を付けろ。脇道は昼間でも危ない」


「は、はい!」


「じゃあな」


俺は早々に立ち去ろうとディアナ嬢の方へと歩き出したが、


「お待ち下さい。私はドレスデン男爵が娘、サファイア・ドレスデンと申します。助けて頂いたお礼をさせてください。お名前を教えて頂けないでしょうか」

と、再び話しだした。


だれ恋ではサンジュリアンに身分を明かさず名前を名乗っただけだったはずが、突如身分を明かしたヒロインに俺は内心焦った。


「俺に構うな。声がしたから仕方なく助けたに過ぎない」


俺はそう答えながら、ディアナ嬢の手をとろうとしたが、今度はサンジュリアンが話しかけてきた。


「お待ちください。あなたはもしかして…」


俺は静かにサンジュリアンの方を振り返り、


「支援感謝する。だが、あんたも俺に構うな」


俺は語気を強めこれ以上話すことは許さないといった口調で言った。


「っ!」


サンジュリアンは俺だと確信した目をしたが、それ以上は話しかけてこなかった。


俺は再度ディアナ嬢の方を向き彼女の手を優しくとって、


「怖い思いをさせたな、行こう」と歩き出した。


だが、ヒロインが今度はディアナ嬢に話しかけてきた。


「あなたにもとばっちりでごめんなさい。でも、守ってくださる素敵な男性を連れていて羨ましいわ。あなたの名前も教えて貰えないかしら?」


ディアナ嬢は俺の顔を少し見た後、


「大丈夫。少し驚いただけだから」とだけ答えた。


俺はディアナ嬢を引っ張るように連れていき、市場から少し離れたところに待たせていた馬車に乗り込んだ。

一息ついていると、ディアナ嬢が口を開いた。


「ドッケンバード伯爵子息がいらっしゃいましたね」


「そうだな。あいつにはバレた」


「私も彼とは知り合いですし、バレてもしょうがないですね。でも彼なら平気では?」

そんなに口の軽い男でもないですし、そんなに警戒なさらなくとも、と言ってきたが、俺が交流を拒んだ理由はヒロインがいたからだ。ディアナ嬢に説明出来ない。


「………どうせ話すこともないし、問題ない」


それだけ言うと俺は馬車の外を眺めた。


"ヒロインとサンジュリアンは一応出逢ったし、この後話しているだろうから問題ないだろう"


俺は外を見ながらサンジュリアンルートを思い出していた。


サンジュリアンルートは、学園前からのエピソードがあった。サンジュリアンは、出身である孤児院によく手土産を持って行くため、市場に来ていた。その際、よく街に行っていたヒロインと出逢い交流を深めていった。ただ、学園に入学するまでお互い貴族だと知らなかったため、友人の域を出ない付き合いだったが、学園入学後は同じ貴族と知り、サンジュリアンルートを選択すれば恋に発展させることは一番簡単なルートだった。


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