第5話 お茶会(俺視点/ディアナ視点)
~~お茶会(俺視点)~~
「公爵令嬢がいらっしゃいました。ご案内致しましたので、庭園にお越し下さい。」
と侍従が述べた。
向かうと、庭園の一画に用意されたガーデンチェアに腰かけていた婚約者が、こちらに気づいて立ち上がり、優雅にカーテシーをして「ご機嫌よう、殿下」と微笑みながら挨拶した。
「ご機嫌よう、ディアナ嬢」
と微笑み返しながら席にかけるよう動作で促した。
また綺麗になったな、
心の中で思った。
「久しいな。」
「はい。二ヶ月ぶりでしょうか。いかがお過ごしでしたか?」
「学園入学前の準備といったところかな。学園に入学したら、なかなか遠出などは出来ないから、各方面へ視察に行ったりしていた。」
地方の特産品の土産を見せながら雑談していたところ、ディアナ嬢は、ふと思い出したように質問してきた。
「そういえば、学園入学前に側近候補はお決まりになられましたか?」
唐突だな、と思いながらも
「いいや。必要ないから決めていない。」
とだけ返した。
「そうですか。大変不躾なことを質問致しました。」
と慌てて謝罪してきたため、なんとなく気まずくなり
それからは黙ってしまった。
なんとはなしに、近くにある薔薇を見ていたが、そういえば、花吹雪は綺麗だろうな、と思い
ディアナ嬢のために魔法で突風を吹かせ薔薇の花びらが二人の回りを舞うようにしてみせた。
はっと息を飲んだ音が聞こえ、
まずったか?魔法でこんなキザなことしたのバレたか、と急に恥ずかしくなり俺はすかさず、
「きれいだな。学園に入学したら頻繁に会う機会もあるだろう。これから宜しく。」
と素早く言い、退席した。
「承知しました。」と恭しく頭を垂れているのが遠目で見えた。
いつものお茶会が終わった。
なんか、前世の記憶を取り戻してから、このお茶会を俯瞰して見てみたが、会話すくなっ!
これ、お茶会っていうかな。
俺は彼女を眺めてるだけで嬉しいからいいけど、彼女はどうなんだろう。
今まであまり深く考えてなかったけど、彼女ってもしかして俺のこと別に好きじゃない??
だれ恋でゲームしていたときは、ディアナ嬢は、第一王子が好きだから一緒に悪役でいたり、嫉妬してヒロインに嫌がらせしたりしている、と思っていた。
ヒロイン視点だったしな……
もしかしたら、あんまり仲良くなかったのかも…。
今までの過去の自分達の交流を思い出し、自信がなくなった…。
~~お茶会(ディアナ視点)~~
"殿下がいらっしゃったわ。失敗しないようにしなきゃ"
殿下に向かって、王子妃教育で培った優雅な動作でカーテシーをし、微笑みをうかべた。
殿下、今日も端正な顔立ち、均等についた筋肉、優雅な物腰。素敵だわ。
そんなことを思いつつ視察に行ったと言いながら見せてくれる土産品を楽しんでいた。
でも、やっぱり私には素の表情を見せてはくれないのよね。
ふと、久しぶりにお会いできたことを嬉しく思いながらも悲しさが込み上げてきた。
彼は、口調を崩して話せる人間が側にどれだけいるのだろうか、と常日頃思っていたため、つい、
「側近候補はお決まりになりましたか?」
と聞いてしまった。
失敗した。
彼があえて周囲を遠ざけていることを知っているのに、学園に入学するのだからもしかしたら、と思い聞いてしまったのだ。
氷のような微笑みをうかべながら
「必要ないから」と返されもう会話を続ける勇気がなくなった。
彼の纏う空気が変わり、薔薇が急に舞い上がった。
私はどうやったら彼に寄り添えるのだろう、
そんなことを思った日だった。
私は、彼の一人称が「俺」ということを知っている。昔から王太子になるべく厳しく育っているせいか表情はまったく表に現れない。
もちろん微笑みは浮かべているし、表情がないというわけではないが、意図した表情しか顔に出ていない。
昔は素直に、
王子様って優雅で素敵!
いつも微笑んでるし口調も丁寧だし、理想の王子様だわ!
と、思っていた。
けれども、あるとき本当に偶然、彼が護衛騎士と話しているのを聞いてしまった。
「俺はこの王宮にいてほしい存在か?」
前王妃様がお隠れになった次の日の夕方だったと思う。
あれは、護衛騎士に聞いていたというよりは独り言に近い感じだったが、いつも私が対面する彼の口調ではなくぶっきらぼうな感じだった。
あっ。そうよね、人間だし常に優雅で完璧な王子様なんていないよね。と幻滅するよりも、
彼が私に一度もそんな口調で話したことがないことにショックを受けていた。
六歳からの付き合いだというのに…。
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