第6話 入学式前夜
明日は学園の入学式だ。
王族として入学式の挨拶をしなければならない。
まぁ、そんなことは慣れているので問題ないのだが、攻略対象との接し方を考えておかなければいけない。
俺の前世の記憶は、どうも落ち着いて考えないと思い出せない。
前世を思い出したのが15歳と遅いせいか、前世の記憶は体の奥底に眠っている感じだ。
攻略対象一人目。
第二王子のレオンハルト・ディ・アガパンサス。
我が国アガパンサスの現王妃の一人息子だ。今は14歳なため、学園で会うことはない。
が、王宮では会う機会もあるだろうから一応考えておく。
顔良し、武道よし、知性よしの3拍子揃った王子様だ。今思ったが、乙女ゲームによくあるヒーローの名前だな。
だれ恋では、ヒロインの打算にまみれていない天真爛漫で可憐なところ、素直に嫉妬してくる可愛らしいところを慕っていた。
弟は、だれ恋では俺の処刑ルートなわけで要注意だが、弟自体にあまり害はない。
問題は、現王妃マリアンネ様の言動にかなり影響される傾向があるところだ。俺の処刑も毒殺されかけた上、第一王子であったものを生かしておいたら後々争いの種になると、マリアンネ様に諭されたからだ。
とりあえず、毒殺を企てず弟とも距離をとれば大丈夫だろう。昔も今も仲は良く、母親たちの目を盗んで庭園でよく遊んでいた。
今も可愛い弟であることに変わりはない。
攻略対象二人目。
公爵家嫡男のディオルゲル・ランチェスター。
俺の婚約者ディアナ嬢の実兄であり、俺の元側近候補だった。
知性派で、少ない言葉でも意図を汲み取って動いてくれる兄的存在。俺はかなり信頼していたが、第二王子の側近候補へといつのまにかなっていた。地味にショックを受けたが、乙女ゲームだったから、と思えば慰められる。
だれ恋では、妹のことを溺愛しているため、ヒロインになかなか靡かないが、領主代理のグループで一緒になり健気に支えてくれるところ、暖かく包んでくれるところに惹かれていった。
彼は、第一王子の妨害により領主代理業務で大きな失策を行ったが、ヒロインらの手助けもありなんとか持ち直させた。そして、卒業パーティーで自身の利益のために領民をないがしろにした俺の罪を暴露し、断罪した。
よし、妨害しないでおこう。
次っ!
攻略対象三人目。
騎士団長の伯爵家嫡男、サンジュリアン・ドッケンバード。
なんと驚きの元平民だ。
騎士団長は結婚しておらず、支援していた孤児院で見込みがかなりあったため引き取った。孤児院から引き取ったことは公にはされておらず、遠縁の親戚から引き取ったことにされている。
ヒロインとは同類意識がありすぐに仲良くなっていった。
ぶっきらぼうで粗野だが、心根が優しく太陽のように笑う明るい男だ。
曲がったことが嫌いであり、孤児であったにも関わらず擦れていない。むしろ、俺の方が擦れている…。
第一王子の元側近候補で、第一王子とは光と影のような対の存在であったが、現王妃に孤児であったことを公にすると暗に脅されて第二王子の側近候補になった。
汚いことが大嫌いな男だったため葛藤はあったが、父となった騎士団長に迷惑を掛けたくなかったため従った。
第一王子にそのことを言えず立ち去ったため、だれ恋ではギクシャクした関係となっていた。
裏切ったことへの罪悪感に捕らわれながらも、第一王子が悪行を繰り返していることを目にし、離れて良かったんだと思うようになる。
ただ、自分が側にいればこのようなことにはならなかったのではという思いもあったようで、断罪エンドは、王位継承権剥奪くらいだったと思う。
これは、あれだな。
悪行をしなければいいかな…?
攻略対象四人目。
宰相の息子のアベール・モンテーニュ。
侯爵家の嫡男で、現王妃マリアンネ様の甥。悪どいことにも必要とあらば手を染める度胸があり、野心旺盛。レオンハルトが優しすぎるきらいがあるため、彼が悪の部分を担当するという役どころだ。
だれ恋では、ヒロインを利用できるのではないかと近づいたが、あまりにも純粋すぎる考えに浄化されるかのように惹かれていく。
俺との仲は良くない。
なぜなら、俺の母上は宰相に殺されたようなものだからだ。
俺の母上は、隣国アルストロメリア帝国の王女で友好関係継続のため、我が国アガパンサスに輿入れした。その当時、我が国の王太子には、婚約者だったマリアンネ様がいたが、魔法大国として繁栄していたアルストロメリア帝国との不均衡差が目立ち始めていたため、我が国の王妃として王女を迎えるから和平協定を継続してほしいと当時の我が国の王が願い出たのだ。
そのため、母上の立場は絶大だった。だが、出産後は体調を崩しがちになり公務も滞っていた。
そんなとき、リハビリにと宰相が勧めてきたのが孤児院への訪問だった。慈善事業の一貫のため、行くだけで領民は喜ぶ。母上も体調が良くなってきていたこともあり快諾したのだが、そこで伝染病にかかってしまったのだ。
マリアンネ様の兄である宰相の推薦、そして、タイミングが良すぎる王妃への伝染。裏があるとしか思えなかった俺は、調査を依頼した。
しかし、たまたま孤児院内に症状の出ていない孤児がいただけという調査結果しか出てこなかったのだ。
そのため、宰相は不問に付されることとなった。本来であれば王妃の命に関わることなので厳しく罰されなければならないが、死亡の起因が伝染病ではなく元々の病による衰弱が大きいと判断されてしまったこと。また、母上が死ぬことにより次期王妃となるマリアンネ様の兄ということも、大きく加味されただろう。
ゲームの知識で補完するならば、やはり宰相が伝染病の孤児をあえて孤児院に受け入れており、そのことをアベールも知っていた。第二王子を王にするためとはいえ、この悪事が必要であったか悔いている、そして、自分が宰相になったときはこんなことを起こさない宰相になりたいとヒロインに打ち明けていた。
攻略対象五人目。
魔法師団長の子爵家嫡男、ヒューリスティ・エマニュ・ドーゲン。
次期魔法師団長と黙されている男で、魔力量が多く力量もある。だが、我が国アガパンサスでの話だ。我が国で最高と言われる力量でも、俺の母上の母国アルストロメリア帝国においては実力にれっきとした差がある。
俺は、母上から受け継いだ魔力量、また、一子相伝による呪文があるため俺に敵う者はいない。そして、それを魔法師団に教授する予定も今のところはない。
だれ恋では、ヒロインが稀有な治癒魔法を使えたため魔法師団で指導していくこととなり、指導役にヒューリスティが選ばれた。指導していく内に、心を通わせていくというありがちな展開だ。
ゲーム内の俺は、魔法を駆使してヒューリスティに濡れ衣をきせていく。俺が稀有な魔法を使えることは秘密にしていたため、稀有な魔法を使えば皆魔法師団の仕業だと思い、勝手にヒューリスティへ濡れ衣を着せていけた。
現状、ゲーム内の俺と同じように俺も稀有な魔法が使えることは開示していないが、濡れ衣を着せるほどヒューリスティに思い入れがあるわけでもないため止めておこう。
最後に攻略対象ではないが、ヒロインについて考えてみる。
ドレスデン男爵の養女となり、サファイア・ドレスデンとなっているが、元平民である。
稀有な治癒魔法が使える者は、平民であってもどこかの貴族の養子となり、国で保護されることになっている。それほど、治癒魔法というのは特別なのだ。
風貌は、美人というよりも可憐で、ピンク色のフワフワの髪、天然の可愛さを備えている。
だれ恋では、誰か一人と恋に落ちるためハーレムエンドはないが、貴族にはあまりいない天然の可愛さなので誰もが恋に落ちそうだ。
第二王子に恋しないようにだけ注意して見張っていよう。
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