第5話:バイオン戦の決着

 おもいっきりの顔面への一撃、俺の強化されたパンチがバイオンの顔面をへこませる。


「うぎゃゃぁぁぁぁぁぁあ!!!!」


バイオンが叫び声をあげて殴った場所を押さえているので案の定効いているらしい。

まさか、そんなに効いたのか?

正直に言うと、俺は内心驚いていた。

だが、驚いているのは俺だけではなかったらしい。

謎のパンチにダメージを与えられたが、バイオンの殺意はまだまだ止まらない。


「あり得ません。進化した私が………。こうなったら、喰らいなさい。

『デットオブブレイカー』」


バイオンは、反撃としてまるで円盤形状の物体をこちらに投げてくる。

回転しながら宙に浮いているエネルギー弾。

円盤形状のエネルギー弾は駒のように回転しながら、こちらに向かってきている。


「なんだこれ?」


この怪しい物体は明らかに避けた方がいいと、俺の中の本能が囁いてくる。これは避けなければならない………。

俺はひゅっと飛んできたエネルギー弾を交わすしかなかった。

こうして、俺が避けた円盤形状の物はそのまま飛び続け、ビルを破壊し、そして遠くの山を切断し消えていった。


「あんな中二病みたいな名前の技がこれほどの威力って…………よかったー。避けてて………」


確かにバイオンは強くなっているようだ。

しかし、バイオンにとってはまだ足りないらしい。


「ならば、今度は避けられない程の技をお見舞いしてあげましょう」


バイオンは両手を空にあげながら、自身の羽を使って宙に上がり始める。


「明山さーん、あいつ何かしてきますよ。早くここから離れないと……」


英彦の言うことも分かってはいる。そうだよなー。早くしないとヤバイよなー。見るからにヤバイ事をする気満々だ。逃げなきゃ殺られるだろう。


でも、実は俺の能力には弱点が二つある。

一つ目は、あのかけるのも恥ずかしい眼鏡をかけないと戦えないこと…。

そして、二つ目は、技を放つ度に自分のお金が無くなることだ。


現在、財布の中には五十円一枚のみ。

先日、買い物をしていてけっこう予算オーバーしてしまったからだ。

仕方がないんだ………。昨日は全商品が3割引きの日だったから色々と買ってしまったんだ………。

だが、この五十円を使ってあいつを倒さないと、殺されてしまう。

もうあの技に賭けるしかない。

バイオンが技を放とうとしてから度々地面が揺れている。

もう残された時間は少ないのだ。





 こうなったら……と俺は振り返り、最後の手段を取る。


「英彦とか言ったな? 五十円玉貸してくれね?」


「嫌ですよ。知らない人には貸しません。」


きっぱりと断られてしまった。育ちはいい奴のようだ。

しかし、もう頼りはこいつの財布しかない。悔しいがこうなったら、あれをやるしかない。


「頼むお願い。勝つからお願いだからァァァ!!!」


俺は英彦に向かってDOGEZAを繰り出す。

頭を地に下げて、膝をついている姿は、なんとも主人公には見えないが、彼こそが主人公である。

そんな哀れな主人公を見て、さすがに英彦も心が折れたようで………。


「しょうがないですね~。五十円で本当に勝てるなら安いもんですけど」


彼は目の前で頭を下げている男に財布から五十円を取り出して与える。




 さぁーて、これで俺の技の準備は既に整った。

あとはこの技をバイオンとか言う奴にぶつけるだけである。

最高の必殺技その名は…………。


「『必殺、五十円波動光線』」


俺がそう叫ぶと、俺の手から強烈な光線が放たれる。

そして、同時に空気が揺れ、風が吹き荒れる。

その光線はまるで空を擦り切る様に、勢いをつけて真っ直ぐバイオンの元へと進んでいく。

宙に浮いてエネルギーを溜めていたバイオンもいきなり、そんな技が地上から飛んでくるとは思いもよらないことだったのだろう。


「ちょっ、それ光線の勢い越えてませんか?

チッ、喰らえ

『天地爆創(てんちばくそう)』」


バイオンは慌てて溜め込んでいたエネルギー弾を地上に向かって落としだす。

あの大きさだと、完璧に国市を滅ぼせちゃうくらいのエネルギー。

そんな禍々しくねじれ動いている球体のエネルギー弾が地上に向かって落ちていく。

地上ごと俺たちを消し去るつもりなのだろうか。



そして、俺の必殺技とバイオンの必殺技がぶつかる。

押しつつ押されつつ、互いにどちらに進むか分からない。

だが、このままでは負けてしまうのは明らかだ。

そこで俺は先程、英彦から借りた五十円玉を手に取ると………。


「突き進めェェェェェェ…!!!!!!!」


俺は更に五十円を使用し、波動光線の威力を倍増させる。

体が吹き飛ばされそうだ。必死に足を踏ん張っても光線の勢いで後ろへと下がってしまう。

更に激しくなった波動光線は、バイオンの放ったエネルギー弾を押し返し、まっすぐにバイオンのいる方へと向かっている。

バイオンは慌て逃げようとするが、押し返された瞬間が悪く、逃げる時間はない。

このままでは自分の放った技で自滅してしまうのだ。

それはバイオンにとっては死ぬ以上の屈辱だったのだが……。


「そんな、私は進化を繰り返す者。バイオ団のリーダーバイオンだぞ。こんな…………こんな所で終わるはずがないんだァァァァァァ。」


まだ諦めていないバイオンの体は、エネルギー弾の中で次第に崩れていく。自身の放った技の中で体が崩壊していく。

ついに彼の体が半分ほどエネルギー弾によって消えていった頃。


「おのれぇぇ。明山ァァァァァァ!!!!!」


遂にバイオンの体は耐えきれずに消滅してしまった。







 町を破壊し尽くした元凶であるバイオンは倒され、町に更なる被害が訪れることはなくなった。町に再び平和が戻ったのだ。


「いやー終わった終わった。ハッピーエンドだ。今日はいい仕事したなー。」


町の崩壊は激しかったが、町を守ったんだ。

俺は心の中で嬉しさを押さえられる事が出来なかった。

魔王と名乗る者を倒したのだ。

世界を救った勇者レベルで崇められて伝説になれるかもしれない。

それは俺の憧れている主人公としての役目の一つなので、俺の考える主人公像に近づいたという事でもある。

その事に俺は誇りをもってこの異世界ライフを楽しめるのだ。

だが、魔王と名乗る者との戦いは激しかった。

まだあの中二病みたいな名前の技によってバランスをくずしたビルが崩れていく音が聞こえてくる。


「まっ、魔王?を倒したんだ。被害に関しては仕方がない犠牲だということでいいよな。うん!!」


もっと被害を最小限に抑えられなかったのか…なんて言われても無理な話である。

正義のヒーローが何も壊すことなく怪獣を倒すなんて聞いたことがない。

しかし、こんなにも早く魔王と名乗る者が退場してもよかったのだろうか?

そう思いながら、俺は地面に捨てられた持ち主のない片腕を見つめる。


「いや、気のせいか?」


何か違和感を感じ取った気がしたのだが、俺は気にすることなく、先程の少年の元へと駆け寄ることにした。

もう流石に動き出すことはないだろう……そう思いながら……………。




 まぁ、あれほどの被害を起こす敵を倒したのだ。

勇者として皆からチヤホヤされる生活も悪くはないと思うが、あのバイトをやめてのんびり暮らすとするかなー。

……という風な欲望が、俺の頭の中ではうごめいていた。

そして、彼の目の前にたどり着き、今回手伝ってくれたお礼を言おうとすると、


「あの明山さん!!」


なんと、逆に英彦の方から俺の方へと近寄ってきてくれたのだ。


「そうだな。悪い悪い。お前もいい仕事してたから、少し位は分けてやらねぇとな。うーん。取り分の三割はどうだ?

あと、お金も返さなきゃな~」


「いや取り分なんて入りませんし、返してもらわなくていいです。それよりもその…………」


金返さなくていいの!? なんていい奴なんだ。

俺はこんな人間がいるなんて知らなかった。

人間(自分も含める)はもっと欲深な生き物と思っていたが、目の前に自分の得になる条件があるのに手を伸ばさないとは………。

この世界の人々も捨てたもんじゃないらしい。


「分かった。今回はそのありが………」


「──僕を明山さんの所でバイトさせてください!!」


予想外の返事に俺は驚いている。

はぁ? バイトさせてください……???

バイト………?


「お願いです。行く宛がないんです。今まで二十四もの店にバイトさせてくれと頼んでも断られてしまい。このままだとお金が、お金が底をついてしまうんです。お゛願゛い゛し゛ま゛す゛~!!!」


「いや、そんな涙目で言う事じゃないだろ?」


俺の返事を聞いた英彦は、涙を拭って目を丸くする。


「…………えっ?」


「もちろんいいぞ。てか、こっちとしても来てほしいんだが……。」


すると、英彦はその返事がよっぽど嬉しかったのか。


「ありがとうございます。明山さんに一生ついて行きます!!」


……とまた泣きながら少し大袈裟な事を繰り出してくる。


「いや、一生ってそこまでの事か!?」


何でそんなにも断られたのだろうか?

俺には彼が面接で落ちる理由が全く理解できない。

真面目だし、素直なこいつが何故面接で落ちてしまうのだろう。

まぁ、うちのバイトに来てくれるから良いのだが……。


「じゃあ英彦、これからよろしくな!!」


「はい。ですが明山さん一つ聞いてもいいですか?」


おお、早速バイトの質問だろうか?


「なんだ? バイトリーダーとして何でも答えて……」


すると、英彦は被害がでた町の方を指差して、俺に問う。


「明山さんがバイトリーダーとして活躍している付喪カフェは国市にあるんですよね?」


「ああ、それがどうした?」


「どの辺りにあるんですか?」


そっか、こいつ今バイトするって決めたから知らないよな。

ここは先輩として活躍できる初めてのチャンスか。

俺の先輩としての初仕事である。


「あのビルの辺りだぞ……!!」


……と指差して場所を教える。


「あのバイオンがデットオブブレイカーとか言う中二病みたいな名前の技で巻き添えを喰らった。あの辺りですか?」


「そうバイオンがデットオブブレイカーとか言う中二病みたいな名前の……」


俺の顔色が次第に青くなっていく。

嫌な予感がする。ものすごく嫌な予感がしている。

次の瞬間、嫌な想像を振り払いながら、俺は走り出した。

まるで陸上の代表選手が走るような走りを保ちながら英彦を置き去りにして走っている。

交通道路を無視し、馬車を無視し、通行人をなぎ倒し……。横断歩道はちゃんと止まり………。

やっとの想いで付喪カフェにたどり着くと、一言………。


「アハハ、ちょうど店長がリホームしたいと言っていたんだ~」


涙目でそう言った俺であったが、一ヶ月前にリホームはすでに行われていた。  

そんな涙目になった俺の肩を、追い付いてきた英彦は宥めるかのように叩いてくれる。


「店長がぁぁぁ腰を抜かして気絶してしまうゥゥゥゥ!!!」


俺は明日からの店長達の様子に悪気を覚えながら、どのように説明をすればよいか悩んでいた……………。



────────────────────────


 人は誰しも鍵のかかったドアの先を想像する。

鍵は一つしかなく、入れるのは一人。

そのためには誰が入るかを決めなければならない。

鍵を持つ者はその先に何があるのかを想像し、その鍵を開ける。

その想像は想像した本人にしか分からない………。

これで何度目か、それすらも残されてはいない。

ただ、鍵を手に入れる…………それが獲得候補者の勤めである。


これは、自身の未来と世界の未来を知り、自身の信じる道を進んでいく1人の男の物語。

そして、これは“付喪神の能力を操る者”達の戦いの記録である。

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