第4話:主人公としての初戦
正直なところ、俺は戦いたくない。
俺が平和主義者とか、弱いからではない。
俺の能力の問題である。能力の発動条件が原因なんだ。
しかし、バイオンにいくら戦いたくないと言ったとしても信じては貰えないだろう。これはもうしょうがないのだろうか?
さて、迫りくるバイオンはどうやら俺に近づき、近距離からエネルギー弾を発射するつもりのようだ。彼は左手の左手にはエネルギーの塊のような物がうねっている。そして、そのエネルギー弾を持ったまま、俺に襲いかかってきたのだ。
対して俺はしょうがなく戦うことに決め、ズボンのポケットからレンズに金と書かれたつけるのも恥ずかしいような眼鏡をかける。正直に言えば、この謎のメガネをかけるという行為も嫌なのだが………。こればかりはしょうがない。
そして、今度は財布の中の数少ないお金の中から五十円を取り出し構えた。
チャンスは一度きり、失敗すれば俺は殺されてこの物語は終わってしまう。
「そんな何も準備せずに大丈夫ですか?
それとも、もう諦めたか?」
バイオンは俺の行動に意味がないことだと思ったのだろう。
まぁ……そりゃそうだ。向こうはエネルギー弾まで準備しているのに、俺は変なメガネと小銭を握っているだけ。
なんだか、戦う相手に失礼な戦闘準備に見えるが、俺だってこんな戦闘準備はしたくないのだ。でも、戦わなければいけないんだ。
バイオンはエネルギー弾を持ったまま、俺へと向かってくる。
きっとあのエネルギー弾に当たってしまえば一溜りもない。
エネルギー弾からはそんなオーラを感じる。
「ふっ、準備だって? そんなのもう完璧だぜ。お前をぶちのめす準備がなァァァァァ!!!」
俺がそんなことをほざいていると、バイオンがついに俺との間合いに入ってきた。
バカな奴だ。これから自分から敵の懐に入ってくるなんて、殺られにいくようなものじゃないか。
さぁ、ここから俺のデビュー戦が始ま……。
「さよならです」
「やべっ、ちょっと近すぎ。なぁ、すみませんけど、少し離れてくれな…………」
その瞬間、両者は互いに吹き飛ばされる。
遠くで舞い上がる土煙を見ながら、英彦は1人安全な位置に隠れていた。
「そんな殺されてしまった。せっかく、助けがきたと思ったのに……」
英彦は二人から少し離れた岩影に身を潜めている。
「このままじゃ死ぬ。誰かを助け……」
もう助けは来ない。
そんな事、彼だって分かっている。
「でも、あんな化け物。倒せるわけがないんだ。
どうせなら、最後くらいは彼女が欲しかったかも」
ならば、こんな所で隠れていても仕方ない。
あの明山という人の様に恐れちゃいけない。
もう後には退けないんだ。
僕は生きていつか、彼女をつくるんだ。
英彦の心の中で何かが変わっていった瞬間である。
「バイオン俺が相手だ。もう俺は逃げも隠れもしない!!」
彼は心の中の葛藤と勝利し、安全だった岩影から飛び出した。
一方、土煙の舞う中でバイオンは焦っている。
自分を呼ぶ声が聞こえたが、どうせさっき隠れていた奴だろう。気にすることもない。
──そんなことよりあいつは何だ。眼鏡をかけていたあいつは何者なのだろう。
あの瞬間、あいつは自らの命と引き換えにヤツは………あいつは……。
「おーいバイオンってヤツ。探し物はこれか?」
「なッ…………生きているだ!?」
どうやら、俺がエネルギー弾に当たって生きているのが不思議なようだ。
エネルギー弾を当てたのに生きている俺を見ながら、バイオンは目を丸くしていた。
そして、更にバイオンは驚くことになる。
土煙に姿が隠しながら、俺は手に持っていた物をバイオンに投げつけたのだ。
「お前の物だろ?」
そう言って投げ込まれたのは彼の大事な腕。
バイオンの目に写ったのは彼がエネルギー弾を持っていた左手。
エネルギー弾を放とうとした瞬間に、腕を切り落とされたのだ。
自分より格下に傷をつけられる。それはバイオンにとって屈辱を示していた。
「君…………そんなに私を怒らせて…………死にたいのか?」
バイオンは自分の頭の血管をピクピク奮わせながら、俺に尋ねてくる。
でも、俺は彼を怒らせようと思ったわけではない。
ただ、切り落としちゃった腕を返しただけである。いや、切り落としちゃったのはやっぱりまずかっただろうか?
「そっ、そんなこと言うなよ。俺は返しただけだぞ!!!」
しかし、バイオンにとっては、こんなカスに腕を切り取られたという結果が気にくわないのだろう。
「──貴方にバイオ研究で産み出されたシン付喪神の恐ろしさを思い知らせてあげましょうかねぇ~」
怒りを必死に抑えながら俺に話しかけてきているのがバレバレだ。やっぱり怒らせてしまったんだ。なんだろう………嫌な予感しかしない。バイオンは絶対なにかをやるつもりだ。
その証拠にバイオンの全身からとてつもないほどのオーラがあふれでてきている。
「ヤベェ、とてもない嫌な予感がプンプンするぜ。猫の尾を踏んだと思ったら虎の尾を踏んでいたっていう感じだ。」
その威圧感に圧倒されながらも、俺はバイオンがどうなってしまうのかは気になっていたので、不安ではあるが彼の変身を見届けることにした。
バイオンの体は金色に輝き始め、膨大なエネルギーの動きに反応して大地は震えている。
おそらく、きっと凄い事が起こるのだろう。やっぱり変身だろうか? 第2形態なんかに変身しちゃうのだろうか?
俺の心は好奇心でいっぱいだったのだが………。
ふと、思い出す。もしもここに一般人がいたら危険なのではないだろうか……ということだ。
そういえば、さっき少年が隠れていたような………。
ふと、横を見てみると、噂していた少年の姿が……。
「おいそこの少………青年? とにかくお前」
「えっと………僕は英彦です」
「そうか、なら英彦。ちょっと離れ……………」
ピカッ………。
一瞬まばゆい光が大地を照らす。
どうやら、いつの間にかバイオンの方は準備が終わったようだ。
「フフフ、貴方達は後悔することになる。
この私が更なる進化を遂げたのだから……………。これが私の新しい姿です。
さあ、かかってくるがいい。この私が返り討ちにしてやりますよ。」
その姿はさっき彼とはまったく別物だった。
まず、顔の額中央には新しく大きな目が一つできている。
たまにギョロギョロしてて気持ちが悪い。
また、さっきみたいな光背は無くなっていて、その代わりに左右色の色の違う羽が生えている。
まるで天使の出来損ないみたいな姿だ。もう一度言うが、気持ち悪い見た目だ。この変身の感想は言っちゃ悪いが触りたくない……と言ったところだろうか?
「はぁ~分かった。ほら、行くぞ!!!」
もうここで必殺技を撃つ!!
もちろん、俺は主人公らしからぬ行為とは分かってはいたが、見た目の恥と心の恥………どっちがいいかを選ぶなら、心の恥と真っ先に答えよう。
俺は再び財布から小銭(10円玉)を取り出すと、それを握りしめる。
すると、その握ったはずの10円玉は消滅。こうすることで俺の金の能力は発動する。
金の付喪人の能力は自己強化と超能力!!
普通の人間ではできない芸当を小銭を使うことで発動することができるのだ。
もちろん、普通のパンチも小銭の能力で威力は倍増!!
これよりバイオンは俺の放つ記念すべき一発目の餌食になるのだ。
「『必殺、十円パンチ~(棒読み)』」
こうして、俺は昨日、適当に名前をつけた出来立てホヤホヤの必殺技をバイオンの顔面に喰らわせた。
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