第2話:自称魔王レベルと付喪神狩り
ここはジャパルグ国。
大きな大陸の南側にある巨大国家。
そして、国内の都市には他とは違うさまざまな特色がある。
その中にある都市の国市、ここはたくさんの人の住む町だ。
都会と田舎の中間くらいの町だが、その町には時に付喪人たちに仕事を与える場として、また付喪人たちを管理する場所として人々の生活を守る『付喪連盟』がある。
そんな平和な場所が今まさに爆風により半壊してしまった。
突如起こった爆風により建物は風圧にさらされ、人々は付喪神の恐怖を改めて知ることになったのだ。
恐らく爆風を起こした原因であると思われる男が一人、地面を削り取る様にできたクレーターの中心に立っている。
紫色の髪に尖った鋭い目、黒い神父服を来た男性。
そして、彼は自らをこう名乗った。
「私の名は『バイオン』。魔王レベルの付喪神だ」
突然の出来事に町中はパニックになり避難警告が至るところで流され続けている。そして聞こえてくるのは人々の叫び声とバイオンの笑い声。
自分の手から発射されたエネルギー弾で、崩れていく建物を見ながらバイオンは笑っている。
そんな時、付喪連盟から派遣された騎士レベルの付喪人たち10人ほどが現場に駆けつけた。
ちなみに派遣された騎士レベルの付喪人達の実力は平均しても1人で熊を25頭倒せるレベルである。
「これ以上お前の好きにはさせない。いくぞみんな!!」
騎士レベルのうちの1人がそう宣戦布告し、バイオンの元へ向かっていく。
そんなセリフを吐いたのに、戦いは一瞬で終わってしまった。
今や戦士たちはボロボロの雑巾のように地面に倒れている。
確かに相手は魔王レベルの付喪神だ。勝てるなんて保証はどこにもない。
しかし、ここまであっさり結果が付くとはこの場の誰も思っていなかっただろう。
「実につまらないですね……」
バイオンの予想ではもっと粘ってくれると思っていたのだが、予想よりも早く戦いが終わってしまった。
彼はすっかり肩を落とし残念がっている様子。
すると、その時、背後からの火がバイオンの体を覆い尽くした。
火に包まれて燃えるバイオンを見ながらニヤついている男が一人。
彼の名は『白帝英彦(はくてい えいひこ)』。ライターの付喪人だ。
その顔には顔の半分を覆うようにして髪が伸びており、髪は白髪。それ以外は普通の人間に見える。歳は15か16くらいだろうか?
そんな少年が恐ろしい魔王レベルの付喪神に攻撃を与えたのだ。
付喪神は彼にとって、いつも通りの狩りの対象なのだが、彼は相手が魔王レベルであることに気づいていない。気づいていたら即座に逃げるか、捨て身の戦法を行って玉砕を覚悟していたことだろう。
「騎士レベルの付喪人でも勝てなかった相手だ。油断はできないな。
でも、さすがにあの攻撃には耐えてないだろう。さてさて、灰になっているかな~?」
彼は自分で言ったのに、先ほど自分に言い聞かせていたのに、油断してしまった。
だが、それは完璧なフラグ作り。それが彼の運命を分けたのだ。
ビュッン……。
突然、彼の腕を光線のようなものが貫く。
「エッ……!?」
その光線の速さに気づけなかった英彦は、避けることもできずに彼の腕を光線は貫いてしまった。
そのあまりの痛さに英彦は悶えている。
そして、燃え盛る火の中からバイオンは立ち上がった。
火に体を覆われても火傷一つなく無傷の状態で……。
「全く私もなめられたものです。ですが、この私に攻撃をしてきた勇気は称えてあげましょうね~」
自分についた土ぼこりを払っているバイオン。
英彦はさっきの光線が腕を貫いたときに理解してしまった。
こいつには勝てないと……。
「くそっ、このままでは殺されてしまう」
英彦が少し恐怖した表情で言うと、バイオンはまるで子供のように無邪気に笑いながら言った。
「アハハハハハハ。殺す?そんなの当たり前ではないですか。
この私に楯突く者は誰であろうと許さないつもりですから」
「くっそー!!!」
英彦は地面に足をつけ悔し涙を流す。
悔しい。ここで死にたくはない。と彼は心の中で必死に叫んでいる。だが、運命は残酷。
すでにバイオンの中指辺りには英彦の息の根を止めるためのエネルギーの塊が集められていたからだ。
「それではさようなら。
もう二度と会わないことを期待していますよ。死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
先程までのクールな雰囲気とは違い、今のバイオンはなんだか勢いに身を任せた激おこ状態。バイオンは自分の溜めたエネルギー弾を英彦にぶつけようと振りかぶっている。
かわいそうな英彦はバイオンの怒りに触れて今にも殺されそうになっていた。
そんな戦況の中、勇気ある命知らずな者が現れた。
遠くの方から男が一人、こちらに向かって来たのだ。
そのお陰で少し隙を見せたバイオン。
これはチャンスとばかりに一瞬で英彦は避難する。
その速さは、まるですばしっこい子鹿のよう……。
だが、そんな英彦の様子をバイオンは、まるで何事もなかったように気にしていない。
もう追ってこないという事は英彦に興味が無くなったのだろうか。
少し離れた場所に避難した英彦は安堵しながらも疑問に思う。
しかし、問題はその男の正体は誰かという事だ。
王レベルの付喪人が来るにしては速すぎるし、騎士レベル以下の付喪人が来るわけもない。
まして冒険者連盟など来るはずもない。
すると、近づいてきた男にバイオンは優しく声をかける。
「私と戦いに来たのですか?
ならばやめておいた方がいいと思いますが…………どうしますか?」
「いやー、オラこれから国市に行くとこだからあんたとは戦わねぇよ」
どうやらその正体は近所に用事があるおじさんだったようだ。
ならばスルーという事で、バイオン彼を通してあげる事にした。
すると、さっきの男が歩いていった方角からまた男が一人歩いてくる。
今度はさすがに私と戦いに来た者だろう。バイオンはそう確信していた……。
時は流れて数分後……。
「なんですか? なんですか?
みんな怖じ気づいて出てきませんか?
せっかく、遊びに来たのに…出迎えてくれたのがコレ!?」
結局、バイオンと戦おうという意思を持つ者は現れず、通行人が通りすぎるだけ。
せっかく、この町の強者と戦いをしに来たのに、これじゃあ来た意味が全くない。
もう帰って寝よう……とバイオンが思っていたその時!!!
再び、彼らの目の前に一人の男が現れた。
だが、もうバイオンは騙されない。どうせまた、近所に用事があるおじさんなのだろう。そう思って様子を見ていたのだが………。
今度は、まっすぐとバイオン達の方へと向かって来ている。
今度こそバイオンに用があるように向かってきているのだ。
こうして、バイオンに近づいてきた男はバイオンの目の前に立つと、彼を指差しながら不機嫌そうな顔と大声で言い放った。
「お前らか?
俺の朝の睡眠時間を台無しにしやがって……せっかくの休日が台無しだぜ。まだ布団の中でゴロゴロしてたい時間なんだよ。
あっ、お前だな。目覚ましより大きな音を出した野郎は……。ご近所迷惑を考えやがれ!!!」
その男は黒髪で若々しい青年。黒いパーカーを着こなして、サンダルを履いている。
彼は眠そうな表情でアクビを出しながら、クレームを言いに来たのだ。明らかに不審な男。不審ランキングで堂々の3位には入りそうだ。
「何者だ? 貴様ッ!!」
とりあえず名乗りは大事である。
バイオンもいきなり、何者かも分からないような奴に文句を言われたくないのだ。
バイオンは正体を不審に思い彼に問うと、その男は二人の前に立ち、自己紹介を始めた。
「俺の名は『明山平死郎(あきやま へいしろう)』。
お金の付喪人で、付喪カフェのバイトリーダーであり、正義と金の味方だ!!!」
やっと来てくれた正義の味方らしき者……。少し不安ではあるが、英彦とバイオンは心の中で嬉しがっているようだった。
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