第22話 変ってなんだ?
「ただいま~」
「お帰りなさい彩花」
家に帰ると、麦茶を飲んでいたお姉ちゃんが出迎えてくれた。
「あ、お姉ちゃん。今日は部活早かったんだね!」
「うん。大会も近いから本当はもっと練習したんだけれど、オーバーワークもだめだからね」
「オーバーワーク?」
「練習のし過ぎは身体の毒ってことだよ。お休みも大事ってね」
「へー、そうなんだー」
私は特に運動しないからよくわかんないや。けれどお姉ちゃんが部活を毎日がんばっているのは知っているし、確かにお休みは必要だと思う。
「ねえお姉ちゃん、変ってなんだと思う?」
「何よ、急に」
「いや、なんだか気になっちゃって……」
みんなとオルヴォワ~して別れた帰り道、私は夕暮れの道を家へと向かいながら、変なモノ博物館の“変”っていうのはなんだろうって考えていた。
最初は変だなと思っていたけれど、あの情熱的に夢を語る信長さんに赤いアロハシャツはすごく似合っていたし、雨を予測する卑弥呼ちゃんにも魔法少女ステッキがよく似合っていた。だから思った。変ってなんだろうって。
「ねえ彩花、私が何の部活をしているか知っている?」
「当然知っているよ。野球部でしょ」
お姉ちゃんは小さなころから野球が上手だ。小学生のチームの時はショートを守っていて、六年生の時はキャプテンだった。中学生になっても野球を続けている。
「そう。けれど女の子が野球をするのって、変って言われる時もある」
「そんな……! でも女子野球の代表とかあるじゃん!」
「彩花はちゃんと知っているからね。でも世の中にはそういうことを知らない人だってたくさんいるの。そういう人は女の子なら野球なんて辞めて、テニス部や吹奏楽部に入ればなんて言う人もいる」
「そんなの酷いよ! そういう人こそ変だよ!」
「ふふ、怒ってくれてありがと。私はもちろん野球を辞める気なんてないよ。だって野球が大好きだから」
お姉ちゃんの言葉で、私は唯ちゃんの事を思い出した。
唯ちゃんも言っていた。マギルカが好き。好きな物はずっと好きだって。
「だからお父さんとお母さんにお願いして、高校は少し遠いけれど女子野球部のある高校を目指すことにしたんだ。そして将来は、女子野球の日本代表になる。それが私の夢!」
そう語るお姉ちゃんの瞳は、信長さんと同じで星の様にキラキラと輝いていた。
「お姉ちゃんならきっとなれるよ! 私は応援する!」
「ありがと。でね、お姉ちゃんが何を言いたいかというと、変とか普通ってのはひとそれぞれなの」
「変とか普通はひとそれぞれ?」
「そう。彩花は『隣の芝は青い』ってことわざを知ってる?」
「うーんと……、わかんないや」
なんだか最近、『百聞は一見に如かず』とかことわざをよく聞くなあ。
「意味はね、他人のものは自分のものより良く見えるってことだよ。この場合の“もの”は、コップとかイスみたいなそういう物もだけど、才能とか見た目みたいなことも入るかな」
「人間はすぐうらやましがるってこと?」
「そうだね。そしてそれを判断するものさしは、いつも自分の中にしかないってこと。意味わかるかな?」
「えーっと、たぶん」
今度は陽菜ちゃんの事を思い出す。陽菜ちゃんは普段話すことが嫌味と思われることがあるけれど、ご両親とあまり会えない陽菜ちゃんにとっては、お母さんとの普通の事を話すのが嫌味に聞こえるって。それってこういう事かな?
「だから変だ普通だ特別だっていうのは、あくまでそう考える自分次第ってことだよ。料理人さんにとっては美味しい料理を作るのが普通だし、登山家さんにとっては高い山に登るのが普通。でもある人から見れば、それは特別だったり、変だったりするかもしれない」
料理人さんが美味しい料理をたくさん作れるのは、あまり料理が得意じゃない人からしたら特別だ。登山家さんが誰も登れないような山に挑戦するのは、ある人から見れば危険で変な事かもしれない。つまり見る人
「これでいいかな、彩花?」
「うん、ありがとうお姉ちゃん! 少し考えていたことが、頭の中で上手く整理できたよ!」
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