第18話 千八百年以上前の昨日
「皆さ~ん、お帰りな~さい!」
「――あ、マダムさん。ただいま!」
気がつくと、そこは変なモノ博物館にある『卑弥呼の魔法少女ステッキ』の前だった。隣には唯ちゃんと陽菜ちゃんもいる。
「唯さん、素晴らしい活躍だったみたいです~ね」
「好きなことが活きて良かったです」
あ、唯ちゃんったら照れてる。無表情にも見えるけれど、最近私は唯ちゃんの表情の変化がよくわかるようになった気がするな。
「あ! そうだマダムさん、私たちの家への連絡はどうなっていますか!?」
「そうよ。私たちがタイムトラベルしたのが土曜日だから、それから三日たってえっと……月曜日! 今日が月曜日だったら学校じゃん!」
そうだよ学校もあるんだよ。
それに行方不明になってたらどうしよう。あわあわ。
「ノン。その心配はありま~せん! 今日は、皆さんが過去に行ったのと同~じ土曜日。あれから三時間くらいたったところで~す」
「土曜日? 三時間くらいしかたっていない? どういうことですか、マダムさん?」
「そのまんまの意味で~す。皆さんは時間移動をしたんですよ~ね? ならば帰ってく~る時間を、ある程度調整することも可能というわけで~す」
「ああ、なるほど」
言われてみればそうだ。西暦1560年や西暦180年に行けるのに、ここに帰ってくるときの時間調整ができないわけがない。
「なによマダムさん。それなら行ってすぐの時間に帰ってきたら、沢山遊べるじゃないの。」
「ノン。それをしてしま~うと、時の流れが壊れま~す」
「それってどういうこと?」
「突然おばあちゃんにな~るとか、同じ日を何度も繰り返すことにな~るかもしれません」
うわー、絶対嫌だ。
やっぱりそんな危険と隣あわせなんだ、タイムトラベルって。
「まあ、そこ~は呼んでくれる変なモノが、上手いこと調整してくれるで~しょう。全てはお導きのままで~す」
「結局そうなるわけね」
「ウィ。私はこの変なモノ博物館の館長。集めて管理す~るだけで、それ以外の事は変なモノ次第な~のです」
そう言えばスルーしていたけれど、この変なモノ博物館の館長であるマダムさんも謎が多い。「なんで変なモノを集めているの?」とか、「なんでタイムトラベルさせたりできるの?」とかだ。正面きって聞くのが少し怖いけれど、本当に魔女なのかもしれない。
「ところでどうでし~たか、卑弥呼は。皆さんのイメージ通りでし~たか?」
「えっと、私は元々そこまで卑弥呼ちゃんの事知らなかったから、イメージがどうとかは……」
行く前に唯ちゃんから説明を受けたくらいだしね。
私と同じく卑弥呼を知らなかった陽菜ちゃんも、首をぶんぶんと縦に振る。
「では唯さんはどうでし~たか?」
「卑弥呼は
「な~るほど、唯さんは難しいことを考えま~すね。弥生時代、稲作文化が大陸か~ら伝わり、邪馬台国のような国がたくさんできま~した。そして互いに争ったので~す。そこで卑弥呼は、天気を読む力で国を豊かにし、その力を認めた国々によって倭国連合が誕生したわ~けですね」
えーっと、つまりお米がたくさんとれるっていう事がその国の力になるから、卑弥呼ちゃんの力をみんなが認めて女王になったってことだよね?
「まあお腹が減ると怒りっぽくなるからね。お腹いっぱいになると平和になるってことよ」
「ウィ。陽菜さんの言う通りで~す。みんなお腹いっぱい。それが幸せで~す」
「卑弥呼ちゃんはあの後どうなったんですか?」
「女王になったとは言いまし~たね? あの時代の記録はあまり残っていないの~で、古代中国の記録にわずかに名前が残る程度で~す。今後の研究次第というや~つですね」
邪馬台国の場所と同じでよくわかってないのか。気になるなあ。
「でも皆さんが出会った卑弥呼は、何かトラブルが起きた時に、困って動けなくなってしまうような子でし~たか?」
私は卑弥呼ちゃんの顔を思い出す。
戦いばかりのあの時代を、平和にしようとした彼女の強い意志。
ヤジを飛ばされても、あきらめずにやり遂げたくじけない心。
「ううん、卑弥呼ちゃんは絶対あきらめない。だよね、二人とも」
「そうね、卑弥呼は強い子よ。良いクイーンになると思うわ。ま、私ほどじゃないけどね」
「同意する。私が教えたマギルカ精神は、きっと彼女の心の支えになる」
「ウィ。そういうことで~す。皆さんは、皆さんが見たも~のを信じればいいので~す。これぞ――」
「「「「百聞は一見に如かず!」」」」
四人の声がきれいにハモった。
「一件落着で~す! さあ皆さん、お勉強は終わった~ので、お家に帰りましょ~う」
「あの、マダムさん。最後に一つ質問していいですか?」
私たちが立ち去ろうとした時、唯ちゃんがそう言った。
「なんで~すか、唯さん?」
「もしかしたらマダムさんは、邪馬台国が本当はどこにあったかご存じなんじゃないんですか?」
ああ、たしかに! タイムトラベルなんてことができるマダムさんなら、謎って言われている邪馬台国の場所も知っていそうだ。
唯ちゃんから質問をうけたマダムさんは答えない。ただ静かにじっと唯ちゃんを見つめている。その目線がどういう意味かは、私にはわからない。
「ゆーい、それはネタバレ厳禁ってやつよ」
「ちょ、ちょっと陽菜さん!?」
その静けさを打ち破るように、陽菜ちゃんが唯ちゃんに後ろから抱きついた。
「でも私は気になって……」
「人から聞いたんじゃ意味ないじゃない。ロマンなんでしょ、ロ、マ、ン!」
「そうだよ唯ちゃん。たしかにマダムさんは歴史の謎の答えでもなんでも知ってそうだけど、それを聞くことはネタバレっぽいよ」
「ううっ、まあたしかにそうだけど……」
わからないこそ古代史にはロマンがあると唯ちゃんは言っていた。気になることを自分で調べずに答えだけ聞くのは、本の最後の数ページだけ見るのと一緒な気がする。
「オホ~ホ~、どうしま~すか唯さん。まだ答えを知りたいで~すか?」
「うーん。いえ、大丈夫です」
「そうです~か。あなた達は良い友達に恵まれまし~たね。それではまた。オルヴォワ~」
☆☆☆☆☆
翌日、つまり日曜日の朝。
早く起きた私は、なんとなくテレビをつけていた。
「あ、マギルカだ」
始まったのは魔法少女マギルカの最新シリーズ。その名も魔法少女マギルカブエナビスタだそうだ。カラフルな衣装に身を包んだ女の子たちが、魔法を使ってばんばん活躍している。
「なんだか卑弥呼ちゃんを思い出すなあ」
つい昨日——正確には千八百年以上前に出会った元気な女の子の顔を思い出す。とんでもなく大昔の人なのに、「今ごろ元気にしているのかな」なんてことを思ってしまう。
「結構おもしろかったな」
つい最後まで見てしまった。改めて見ると話の内容もすごくこっていて、結構おもしろく感じた。
そうだ。明日学校へ行ったら、唯ちゃんに昨日のマギルカ見たよってこっそり言ってみよう。もしかしたらあのとき邪馬台国で見た、楽しそうにマギルカを語る唯ちゃんを見られるかもしれない。
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