第4話 セイレキ1544ネン
「へえ~、それでここら辺を調査をし~て。最近の小学生は大変で~すね」
「そうなんです! もう本当に大変で!」
散々警戒していた私たちだけど、マダムさんは話すと面白くてすごく良い人だった。飾ってある絵やお皿にどんな由来があるかを、小学生の私たちにも分かりやすく説明してくれた。
「さ、着きまし~た。この中がメインの変なモノ展示室で~す」
「え? 今までのが変なモノじゃなかったんですか?」
「違いま~す。絵や食器は、言うなれば私の趣味。ここが変なモノ博物館たる理由は、この中の展示物にあるので~す」
確かに、絵もお皿も全然変じゃなかった。むしろきれいで可愛いらしかった。
「あの、今更なんですけど博物館の料金なんかって」
「気にしないでいいので~す。私は子どもからお金をいただ~かない主義です。……それに、導かれ~たのならなおさら」
……導かれた?
「ま、と~にかく。三名様、変なモノ博物館メイン展示室へご案内!」
「うわー!」
「えー、すごーい!」
「なるほど……」
ガバンと扉が開け放たれ、展示室へと足を踏み入れる。
私たちは入った瞬間、三者三様の声をあげた。
私はびっくり。松田さんはたぶん感心。そして長谷川さんは何か納得している。
なんで驚いたかというと、その部屋が今まで見てきたこの洋館の悪く言えば古っぽく地味な感じとは打って変わって、とても豪華できらびやかな部屋だったからだ。
私たちはさっそく、一番近い展示品へ駆け寄った。
ガラスで覆われた展示台の中には、真っ赤で派手なアロハシャツだ。
「えーっと、『
その名前には何となく聞き覚えがある。確か戦国時代のお侍さんだ。ふんわりとしか知らないけれど、確かすごく怖い人なんだっけ?
はっきり言って、私は歴史に詳しくない。学校でもまだ習ってないしね。
そんな私でも知っている有名人の着たアロハシャツがここにあるんだ!
「へえ、アロハシャツってそんなに昔からあったんだ……」
「いや、ないと思う」
「え、そうなの長谷川さん?」
「たぶん。アロハシャツがいつ誕生したか知らないけれど、さすがに戦国時代には――」
「――アロハができたのは、すごく最近の話よ」
と、松田さんが話をさえぎった。
「アロハはハワイに移住した日本人が考えたって、ハワイに行った時パパが教えてくれたわ」
そうか。松田さんのパパは服飾デザイナーさん。そういうのは詳しいんだ。え、でもそうすると?
「なるほど。だとしたら19世紀になってからの話。信長が生きたのは16世紀だから、300年も時代が合わない」
えっとつまり……偽物?
もしかしてジョークグッズを集めた場所なのかな?
「見て見て彩花! 『
「本当だ。あはは、変なの」
怪しい怪しい、他にも怪しいモノがいっぱいだ。
あ、マダムさん風に言うと変なモノか。
ジョークグッズと考えればわりと面白いかな。歴史はまだ学校で習っていないからピンとこないけれど、展示品の横にちゃんともっともらしい説明もあるし。
前に家族で温泉へ行った時、自称人魚のミイラみたいな怪しい物を展示するお店が、昔の温泉街には沢山あったとお父さんが言っていた。まさかここにあると知らなかったけれど、発表する場所はここでいいや。
「マダムさん、これはお客さんを笑わせるために集めたんですか?」
「ノン。ジョークではありま~せん。あるはずのな~いのに存在している。だから変なモノ。この博物館に展示されている品は、そんな実在した変なモノで~す」
ジョークじゃなくて実在した?
あるはずのないのに存在している?
「それはオーパーツという事でしょうか?」
「おーぱーつ? なんなの長谷川さん?」
「それが発見された場所や年代とはまったく当てはまらない物の事。例えば古代遺跡で発見された精密な機械や、大昔に造られたロケットに見える装飾品のこと」
へえ、そんなのがあるんだ。じゃあそうなのかな?
けれどマダムさんは、唯ちゃんの言葉に首を振る。
「ノン。少し違いま~す。歴史上の人物たちに関係していた……かもしれないと伝わる奇妙な物達。存在していたけれども、語り継がれなかった歴史。それが変なモノで~す」
「まさか~。アロハはともかく、スマホなんて絶対昔にないでしょ。いくら私たちが小学生だからって、ダマされませんよ?」
「彩花さんは大昔にスマホがあったらおかしいと思いま~すか?」
「え、普通におかしいと思うけど」
マダムさんは良い人だけれど、こんなの低学年の子でもダマされないと思う。それくらいおかしな話だ。
「そう普通! 皆さんは普通という概念に縛られ過ぎてま~す!」
マダムさんはまるでオペラの様に、大袈裟に手を振って訴える。
「お二人もそうです~か? ここに並んでいるものが歴史の舞台に存在するとおかしい、普通ではないと考えま~すか?」
「え、うん」
「当然です」
「なるほ~ど、でしたら実際に見てもらいましょう。日本には、『
「見てもらう? 何をですか?」
「わかるはずで~すよ。ここに導かれたあなた達な~ら」
「どういうこと――」
その瞬間、建物の中だというのに風が吹いた気がした。
私の視線は、自然とこの部屋に入って最初に見た展示物に向かう。
私だけじゃない。松田さんも長谷川さんも、引き寄せられるように歩く。
「織田信長のアロハシャツ……」
さっきは何の変哲もなく感じたそれが、今は輝いて見える。
ぼーっとアロハを見つめる私たち。
「さあ、これを渡しておきま~す」
差し出されたのは、いくつかのボタンがついた手のひらサイズの機械。銀色で薄く、細長い画面がついている。なんだろう、電卓かゲーム機かな?
「カタカナも表示できる、最新式のポケベルで~す!」
「え、最新式? それって確か、お婆ちゃんの世代がスマホの代わりに使ってたやつじゃん」
へえ、ポケベル。つまりこれはスマホのご先祖様なんだ。
松田さんの言うことが本当なら、最新式とはいったい?
「ささ、『善は急げ』。行ってみ~ましょう!」
「マダムさん、行くってどこへ!?」
「それはもちろ~ん――」
マダムさんが何か言っている。でもなぜか聞き取れない。
「ちょっと彩花! 私たち光ってる!」
「え……? うわっ、ほんとだ!?」
どんどん、私たち三人の身体が光に包まれていく。そして周囲の景色が、まるでメリーゴーランドみたいにギュンギュンと回転していく。
「長谷川さん!」
「わからない。でも何かが……!」
「ちょっと、マダムさん!」
「それではみなさん、オルヴォワ~」
混乱する私の耳に、マダムさんの底抜けに明るい声が聞こえた気がした――。
☆☆☆☆☆
波の音が聞こえる。
あ、そうだ。突然光り出して、グルグル回転して、それで――。
「うーん……」
「あ、起きたのね彩花!」
「松田さん! 長谷川さんも!」
起きると目の前には二人がいた。よかった、一人じゃなくて。
「ここは?」
「どこかの砂浜。私たちもいま起きたところ」
「そそ。スマホは圏外だし、どこかわからないの」
見渡せば、長谷川さんの言う通り砂浜だ。
波の音が聞こえたから、もしかしてとは思ったけれど……。
「あ、あっちの方に人がいるみたい! 助かったわ。おーい! おー……」
「どうしたの、松田さん?」
元気に呼びかけて駆けだそうとした松田さんが、ピタリと止まる。
どうしたんだろう。早く呼びかけて、ここがどこか聞いた方がいいのに。
「ちょっと二人とも、あの人たちを見て」
「え?」
砂浜の向こうに人が大勢いる。
彼らの格好をよく観察した時、私は心の底からびっくりした。
「き、着物にちょんまげ!?」
「そう、そうなのよ! なんなのあれ、ドラマの撮影!?」
そう、まるで時代劇から飛び出したみたいな格好をしていたからだ。それも一人残らず。松田さんの言う通りドラマの撮影ならいいけど、どうにもそんな感じじゃない。私の頭に浮かぶのは、あるひとつの普通じゃない事態。
「どうする? 声かける?」
「え、でも……」
明らかに怪しいし、状況がわからない。もしいま私の中にある普通じゃない予感が当たっていたら、きっと面倒なことになる。
「上林さん、マダムさんから預かったポケベルは?」
「あ! あるよ、ほら!」
私はポケットをごそごそと漁って、ポケベルを取り出した。
「何か文字が表示されてるね。えーっと、『セイレキ1544ネン オワリノクニ』。どういう意味かわかる?」
オワリノクニってどこの国?
松田さんも私と同じく意味が分からないみたい。
長谷川さんは少し考えたあと、決心したように口を開いた。
「『オワリノクニ』というのは、現代で言う愛知県の西部。そして西暦1544年は、日本だと戦国時代。この事から考えられる状況は一つ。私たちは……タイムトラベルした」
へー、愛知県。どこにあるかは知らないけれど。
へー、戦国時代。そりゃみんな着物にちょんまげだよね。
へー、タイムトラベル……。
「へ? タイムトラベル?」
「うん。大がかりなドッキリじゃなければ、その可能性は高い」
「「ええええええっ!?!?」」
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