5話 晴空の下で

 二人はいつまでも夕日を眺めていたいのだが、あまり遅くなると家主に怒鳴られてしまうから、いつもそこそこの時間で切り上げて帰っていた。


 二人は、ほんの幼い子供だった。

 肉親なく、故郷なく、夜が訪れるまでのほんの少しの時間だけ、自由な時間があった。


 畑は真っ赤に染まり、きつい影のコントラストが、人も木もみんなひとつの彫刻に変えた。二人は手をつないでぼんやりと山脈をながめていた。

 小さな家の大きな家主は、毎日二人を怒鳴りつけ、大きな音を立てて脅し、畑で長い時間働かせた。


「ドードラドラ。ドードラドラ。はのべみなれ。おおみなれ。ドードラドラ」

 三人で毎日、おまじないをしながら種をまいたり水やりをした。

「ドードラドラ。ドードラドラ。はのべみなれ。おおみなれ。ドードラドラ」


 いつも家主だけ少し早く家に戻る。

 夕陽を見る間だけ、二人は少年と少女で居られた。


 ある日、酷い雷雨の日があった。外は恐ろしい音に包まれて、二人はぶるぶる震えていた。家主は畑の野菜や果実の心配をしながら、雨漏りの修理をした。


 次の日、雷雨はまだやまなかった。三人は、小屋から芋やほした野菜を持ってきて食べた。家ががたがたとゆれ、棚に置いてあるものは今にも落ちてきそうな程だった。


 次の日も雷雨はやまなかった。ガラス窓から見える景色は、風雨で真っ白。畑の様子もわからなかった。紫色の雷が何度も落ちた。


 次の日も、その次の日も雨は止まなかった。とうとう食べるものが無くなり、三人は飢えに苦しみながらうずくまるしかなくなった。水だけはたくさんあったが、腹の足しにはならなかった。


 十日経った。雨はやみ、太陽が真っ青な空と濡れた大地を照らした。

 家主の畑はめちゃくちゃになり、野菜も果物もみんな流されてしまった。広い広い泥とぬかるみが一面に広がっていた。


 二人は家主がまた怒らないか、おびえながら顔を覗き込んだ。

 家主はにこりとも笑わず、三人とも生きていてよかったと言った。

 二人は顔を見合わせると、手を取り合ってくるくると回り出す。

 ひどくお腹は空いていたから、三人は食べ物を探しに山に向かった。


 三人は次の日から、また畑を耕し、種を撒き、豊穣を祈った。


「ドードラドラ。ドードラドラ。はのべみなれ。おおみなれ。ドードラドラ。

 ドードラドラ。ドードラドラ。はのべみなれ。おおみなれ。ドードラドラ」


 また雨が降り、また太陽が大地を照らした。

 三人はまた、種を撒いた。

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