4話

 小さい頃から、夢を自在に操れたらどんなに楽しいだろうと思っていた。

 そんな中、高校生のある日にとある動画投稿サイトを彷徨っていた際、夢に関する動画を見つけた。

 某ネット掲示板のスレッドをまとめた動画で、その内容は、夢を日記に書くという「夢日記」なるものをつけていくと夢を思い通りにできるようになるというものだった。

 これは面白そうだと思い、翌日からスマホのメモ帳に夢日記をつけ始めた。


 初めのうちは、ゲームの世界で剣を振りながら走り回っていると思ったらいきなり現実世界の自分の家の中で見知らぬ人とテレビを見ているといったようなめちゃくちゃな夢ばかりだった。

 その後、日記をつけて約3カ月が過ぎたころから、夢の内容が段々と現実的になっていった。

 様々な世界や場所を瞬時に移動し、なんの脈絡もない行動をとるような夢を見なくなっていたのである。

 例えば、学校の体育館でクラスごとに並び、校長先生の話を聞いて校歌を合唱するというような夢だ。しかし、一向に夢を操れるようにはならなかった。


 そもそも、夢の中でこれは夢だと気づけなければ操ることができないのだが、これが難しい。というか、1度もできなかった。現実世界に近い夢を見ているから中々気づけないのだ。

 まあ、もっと日記をつけなければ操れるようにはなれないということだろうと思い日記をつけ続けて半年、すっかり朝起きて夢日記を書くことが習慣になっていた。同時に、夢を見る頻度も高くなっていた。当時書き込んでいたメモ帳のページを見る限り、2日に1回は見ていたようだ。この時の夢はかなりリアルなものになっていた。先ほどの例でいうと、バスに乗って登校し、授業を受けて昼食を食べ、友人たちと駄弁りながら体育館に移動するところまでも描写されていた程である。

 僕は少し怖くなっていた。というのも、夢に関する動画の中で、夢日記をつけ続けていると徐々に内容が現実と近いものになってゆき、遂には、今自分は夢の世界にいるのか現実世界にいるのか分からなくなるという投稿が紹介されていたからだ。

 しかし、この時はまだやめるつもりはなかった。

 夢がリアルになってきているとはいえ、学校の夢を見たときは国語の授業のはずなのに数学の先生が教壇に立っていたり、クラスメイトが違っていたりとまだ現実と異なる点がいくつもあったからだ。なにより、まだ僕は夢を操れるようになっていない。


 せめて1回くらいは夢の中で好き放題したい。そう思っていた。



 そんなある日、欧米のホラー映画の夢を見た。

 幽霊屋敷から家族が引っ越していくラストシーンで、門を出る際に少女が屋敷を振り返ると窓に白い何かが映っており、慌てた彼女が家族を追いかけて門の先の石畳の階段を降りていく描写で物語は終了する。

 すると、急に映画の中の世界からその映画を撮影していた現実世界に移動し、いつの間にか周りに撮影スタッフが大勢いた。

 訳も分からずにうろうろしていると、監督と思しき人から声を掛けられ、自分が撮影には関係ない部外者であることがばれてしまう。

 そして焦った僕がひたすら様々な世界を転々としながらもいまだに追ってくる監督から逃げるというところで目が覚めた。今日は久しぶりに夢らしい夢を見たなと思いながらスマホを開いて今日の日付を記し、その下に日記を書いた。書き終わったところでふっと意識が遠のく。


 次の瞬間僕は布団の中で目を覚ました。


 まさかと思った。震える手でスマホをひっつかみメモ帳の夢日記のページを開く。


 嫌な予感通り、日記は昨日以降更新されていなかった。一気に全身を悪寒が駆け抜けてゆく。

 僕はその日以来、一切夢日記をつけていない。 

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