第116話 シュン、新たな魔法を発動する。視点、シュン

 カリブ、闘技場で再開した時は少しは感じがよくなったと思ったけど。


「なんでお前、イヴァンの手下になってんだよ! カタリナさんはどうした!」


「うるせぇ! 人の心配している暇なんて、てめぇにはねぇぞ!」


 ブオンという振動音がすると、黒い剣はより一層オーラを増した。

そして俺が臨戦態勢に入る隙も与えず、カリブは懐近くまで踏み込んでくる。

このスピード、もしかしてモジュレーションか!

ダメだ、避けたら病院が危ない!

咄嗟にバスターを撃つ構えをとる。

脅しが効く相手ではないことはわかっている。

手のひらの先に光の粒が集約すると、閃光ほどの眩しさを放った。


「くそ! 見えねぇ」


 カリブの斬撃は目を瞑ったことによって、狙いを定めた場所から大きく外れる。

俺はその瞬間、彼との距離を離した。

よし、とりあえず病院からは離れた場所に着いた。

追いかけて来たカリブは、こちらと会話する姿勢は一向に示さなかった。

どうやら本当に、俺のことを殺しに来ているようだ。

正直俺はお前が嫌いだ。

だけど、貴族としてのお前は一貫して悪に加担するようなタイプではなかったはず。

なのに何故、こんなことに。

いや、そんなこと考えている場合じゃない。

どうあってもこっから戦闘は避けられないんだ。

シュエリーさんたちの所へ早く戻らないといけないし。

悪いがカリブ、邪魔をするならこっちも本気でいく!


「ふっ、やっと殺る気になったかシュン。いくぞ!」


 あれは、ドラゴンキラーか!

でも斬撃波ではない。

剣の周囲に紫色のオーラが肥大化して形成されていっている。

カリナさんが使っていた湖が埋まるほどの鉄槌、あれよりも大きい。

こんなの喰らったら一たまりもないぞ。


 俺は直上を猛スピードで飛翔した。

迫る巨大な斬撃、足先すれすれでそれは何とか回避した。

だけど、並んでいた建物全部がまるでケーキを切るようにスパッと一階と二階の間を分断している。

この光景が避けなかった自分の末路だと思うと、ゾっとしてしまう。

カリブはたしかに勇者族の中でも優秀と称されていた。

だけど、これほどのパワーはない。

恐らくあの黒い剣の効果によるものだろう。

あれをあいつから手放させない限り、こちらに勝ち目はなさそうだ。


「シュン、攻撃はまだ終わってねぇぞ!」


 .....!?

巨大な斬撃の上から、まるで矢のように無数の斬撃波は噴出した。

まさか、こっちが狙いだったのか!

俺はふくらはぎの横をなぞるように切り込まれた。

間一髪、ギリギリで致命傷は避けた。

けれど、今の感触で気づいた。

この斬撃波1つ1つがドラゴンキラーであることに。

巨大なあれには届かないけど、闘技場であいつが放っていたそれと同程度の威力。

息つく暇も与えないほどの数で撃ってきている。

俺は回避しつつも、身体中に切り傷が増えていった。

ようやく巨大な紫色のオーラから飛び出た無数の斬撃波は弾切れとなる。


「ちょこまか逃げ回りやがって。ほんとによぉ、なんでお前1人パーティーから外したぐらいでこんなどん底まで堕ちなきゃなんねんだよ!」


「し、知らねえよ!」


 俺は上空から小石を飛ばし、カリブの手元を狙った。

しかし、当たったと思えたそれは彼の残像。

カリブはモジュレーションでこちらの攻撃を回避しつつ、再び二段構えのドラゴンキラーを放とうとしている。

あの黒い剣、魔力量も増大させる効果があるようだ。

ダメだ、このままじゃ埒が明かない。

けど、攻撃しても回避されるんじゃどうしようもないじゃないか!


「バスターじゃ!」


 攻めあぐねていると、病院の方から声がした。

聞き間違えじゃない、たしかに"バスター"と言っていた。

誰だろう、俺のことを知っているなんて。

声の主の方へ目線を向けると、そこには王様がいた。

カ、カエサル王!?

満身創痍なのに、わざわざ声を掛けてくれたのか?

でも、バスターでどうしろっていうんだ。


「さっきのを思い出せ! 攻撃ではなく、守りだ!」


 さっきの?

攻撃ではなく守り......。

俺はその言葉を聞き、テッタさんや漁師のおじさんを思い出した。

魔法が発動する仕組みを理解する。

守ることのほうが難しい。

それらを頭で把握した気になっても、ずっとどうすればいいかわからなかった。

今も思い出せと言われても......俺はカリブとの戦闘を集中して振り返った。

時間は後わずか、焦る気持ちで記憶から映像をうまく引き出せない。

そう、俺はたしかバスターを撃とうとして目くらましに使ったんだ。

あれ?

そういえば、バスターは制御できないはずなのに何故それが出来た?

......そうか、これならもしかしていけるかもしれない。

でも、殺されそうなタイミングでこんなギャンブル本当にするのか?

いや、迷っている暇はない!


「くらえ!」


 繰り出された尋常ではない斬撃、まともに直撃すれば終わる。

だけど、俺は回避せず両腕を突き出した。

バスターを発動させたら制御はできない。

けど、バスターを発動させるための光の集約。

これはコントロールできる。

手の先に光を集めるのではなく、全方位に展開するイメージ。

俺の周囲に球体上の光の壁が形成される。

その直後、カリブの放った攻撃が壁へ直撃した。


「な!? 斬撃が消えていくだと!」


 触れた瞬間、ボワンと蒸発するように斬撃波は消滅する。

や、やったぞ。

星を破壊する威力のバスター、それを防御に転換できた。

つまり、絶対に破壊できない最強のシールドが誕生したんだ。


「ふ、ふざけんな! なんでこんな土壇場で成長すんだよ! ふざけんな!」


 カリブは巨大な剣を何度も振り降ろし、攻撃をしてくる。

俺は彼目がけて突進し、それを正面から受け止めた。

紫色のオーラは何度もシールドに弾かれて消滅していく。

それでもカリブは攻撃を繰り返した。


「カリブ!」


 今度は俺が彼の懐に接近し、黒い剣を奪い取った。

よし、これでもうあのパワーは使えないはず。

俺は少し距離を離し、奪取した剣を観察した。

ん、鍔(つば)の部分に20とカウントが刻まれている。

......これは一体。


「返せてめぇ!」


「うわぁ!」


 やばい、シールドにカリブの腕が振れてしまう。

俺は咄嗟に壁を消滅させた。

しかしその瞬間、すでに間合いに入っていたカリブの拳が俺の頬へ直撃する。

為す術もなく、吹っ飛ばされた。

起き上がると、口元から血が垂れたのに気づく。

いてぇ、打撃だけでもこんな強いなんて。

剣を拾い上げたカリブは、突き刺すような鋭い目つきでこちらに向かってきた。


「カリブ、もういいだろ! そんな危なそうな剣まで使って、なんで俺を殺したいんだ!」


「ふん、この剣か? これは寿命を引き換えに無尽蔵に近い力をくれるものだ」


「寿命を!? お前、もしかしてもう20年も消費したってことか! 本当に、なんでそこまでして......」


「教えてやるよ。それは、俺が女一人自分の力で守ることもできない弱い男だからさ」


「もしかしてカタリナさんの身に」


「殺す相手に無駄話しちまったな。御託はもういい。戦えシュン、俺はもう後には引けねえんだよ」


 カリブ......お前。

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