第115話 ミリア、危機連発!視点、ミリア

「早く遠くへ逃げてください!」


 私は両腕を振り、避難経路を確保している貴族たちの方へ民衆を促した。


「ミリア、あなたも逃げるのよ」


 途中、ママとパパが心配そうに声を掛けてきました。

内政が優秀な貴族はギルドに加入しなくてもいいので、2人のような戦闘能力を持たない層もあるんです。

だから2人は、私も一緒に逃げようと言っているのでしょう。


「ダメだよママ、パパ」


 ですが、私はここから去る訳にはいきません。


「さぁいって! 私が守るから!」


「ミリア~お前。おゔぁえぇ」


 パパは涙と鼻水をほぼ同時に吹き出し、ママに連行されるように避難民の中へと溶け込んでいきました。

ママ、パパ私頑張るから見てて。


「グガガガギギィ」


 振り返ると、頭上を翼竜が滑空していた。

させない......私が彼らの逃げる時間を作ります!

私は近くにあった大木に縄を巻き付けた。

......当たって!

縄を結び、魔力で飛距離と貫通力を高めた矢を放射する。

鏃(やじり)は臀部に刺さるが、翼竜は気にもせず飛行を続けようとした。

しかし、少し先で飛行はそれ以上進まなくなる。

よし、時間稼ぎ成功です!


「エレファントさん、私たちもそろそろシュエリーさんに加勢しましょう!」


 私は民衆がほぼこの場から退避したのを確認して、少し遠くにいたエレファントさんにそう声を張って伝えた。


「おう!」


 おぉ、すごい重低音ボイスぅ。

エレファントさん、大声を出すとさらに渋い声になるんですね。

じゃ、なかった。


「テレポーション! テレポーション! テレ、ポーション!」


「おらおらおら! 大会の時みたいに、またMP切れさせてやるよ!」


「シュエリーさん、加勢します!」


 到着すると、彼女はこめかみをピクピクさせて口を開いた。


「あ゛ぁも゛う! あのクソじじいうざいわね!」


 地団駄をして怒っていて、とても二言目を言い出せそうな雰囲気じゃない。

でも、戦闘だし意見しないと。

どうすれば......。


「嬢ちゃん! わしは黒いフードの奴らを叩いてくるわ!」


 エレファントさんは快活にそう言い放ち、気合を入れたうなり声と共に突っ込んでいった。

す、すごい。

わ、私も何か彼女の負担を少しでも減らさないと。


「シュ、シュエリーさん! わ、わたしは!」


「ミリアさん、あなたは上にいる翼竜全部撃ち落としなさい!」


「は、はいぃ!」


 あぁ、考えている間に指示してくれた。

情けないけど、とりあえず役割を全うすべし!

私は自分にそう言い聞かせ、矢を引いて構えた。


 とはいったものの、ど~撃ち落とすんだぁこれぇ?

さっきのは低空飛行していたから届いたけど、これじゃぁ届いても避けられる。

おまけに爆弾を落下させるような爆炎を纏った魔弾を縦横無尽に放っているんだもんなぁ。

ほーら、避けたけど隣は一瞬で穴ぼこと火柱が立っています。

単体で見れば、矢が貫通するところを見るとバハムートよりは勝てなくはない。

けど、この爆炎弾の雨をかいくぐってダメージの通る距離まで近づくのはまさに至難の業!


 しかし、ここで何もしないでいるわけにはいきません!

あ、あのドラゴン届く距離にいます。

でも、届いてもダメージにはならない。

それなら爆炎を放つ瞬間を......狙う!

大口を開けて魔弾を放とうとした瞬間、私は直撃したら閃光を出す矢を射る。

矢が形成途中の魔弾に突き刺さると、バコンという爆音が空中に響いた。

魔弾が口元で爆発したため、放とうとした翼竜は絶命して墜落していった。

黒煙を吐きながら落下する光景は、こちらの勢力に少し活気を付ける。


「うぉお、やるなぁ紅髪の嬢ちゃん!」


「俺らも負けてらんねぇ!」


「あぁ、わしもこいつらをぶち倒してやらぁ!」


 え? ちょ、ちょっとなんですかこの展開!?

もしかして私、今すごいことした?

嬉しい!

でも、ダメです!

こんな状況なのに、ニヤけてたら戦闘に集中できます。

ここは冷静に、クールな感じで戦闘続行です。

カリナさんのように......。


「ミリアさん! お願い早く撃ち落として!」


「ひゃい! すみません!」


 浮かれて数秒、私はシュエリーさんに一喝された。

忘れていました、彼女がMP切れする前に翼竜をすべて倒さないといけないこと。

......とはいったものの、今撃ち落とせたのは本当に幸運でした。

それからは翼竜も学習したのか、完全にこちらの矢が届かない距離から攻撃をしてきます。

今度こそ本当に、逃げるのが精一杯です。

あぁ、さっきみたいな奇跡もう二度と来ない。

なんとかこっちから距離を近づける方法ないのかなぁ。


 私は全速力で爆撃を回避しながら、残った少ないキャパシティーで考える。

しかし、まったくアイデアが浮かばない。

ダメだ、せめてエレファントさんと協力できればなぁ。

ふいに私は黒いフードの集団と戦闘している彼を見た。

でかい斧でなりふり構わず振り回している?

ように一瞬見えたが違う。

巨木のような腕を振り上げてわざと隙を作り、モジュレーションというスピード変化の格闘術で敵を攻撃していた。

エレファントもシュエリーさんと同様、案外頭脳派なのかもしれない。

私は再び声を張って彼に話を振った。


「エレファントさん! 翼竜を倒す策、何かありませんか!」


「・・・・・・ねぇな」


 え?

嘘でしょ即答ですか!?

ていうか、そろそろ体力の限界。

全速力で爆炎を回避してきたけど、このままじゃ......。


「あ、思いついたわ作戦」


 体力も気力も沈んていた所、救いの光のような一言が耳に入った。


「ほ、本当ですかエレファントさん!」


 私は思わずそう叫んだ。

彼は背を向けながらも「あぁ」と返事をしてくれた。


「それで、どんな作戦なんです?」


「あぁそれは名付けて......吹っ飛びバズーカ作戦だ!」


 え?

作戦名じゃなくて、内容を聞いたんですけど。

でも......なんかすごそう!

いける! これなら多分いけます!

うぉぉ!

私は色々と限界が来てたのもあり、少しテンションがおかしくなっている。

自分でも自覚してはいますが、もう止められないんです!


「その作戦で行きましょう!」


 彼は私が乗る事を知ると、すぐさま駆け寄ってきた。

そして、彼はその巨大な両腕で私の脚をガッシリと掴んだ。

え?

これは一体なんなんでしょうか?


「じゃあいくぞ! おらおらおらおら」


「うわぁぁ! なんでぶん回すんですか私のこと!」


 私は彼に両足を掴まれ、彼を起点に円を描くようにぶんぶんと振り回された。

えーっと、これ作戦なんですかね?

なんかすごい冷や汗が止まらない。


「おりゃぁ! いけぇ紅髪の嬢ちゃん!」


 あぁ、私今ボールが投げられる気持ちを体感している。

勢いよく投擲され、私は翼竜たちのいる上空まで来ていた。

あはは、こっからどうしろっていうですかね。


「お嬢ちゃん! 今なら届くぞ!」


 あぁ、なるほどです。

わかりましたよもう!

翼竜たちの視線を一点に集めた私は呼吸を整えた。

私を取り囲んだ竜は一斉に魔弾を放とうと、マナを口元に集める。

もうここまで来たら引き返せない。

撃たなきゃ確実に殺られる。


「ウォーターオフシュート!」


 私はガムシャラに無数の矢を全方位に向けて放射した。

水の矢が彼らの口元に届くと、瞬時に爆発を引き起こす。

周囲は黒い煙に包まれ、すべてを倒しきったのか判断はできない。

やれたのでしょう......か?

そう思った直後、正面の黒煙の中から赤く燃えたぎった魔弾がこちらに接近してきた。

私はどこにも逃げられない絶望的な状況で、思わず目を閉じた。


「テレポーション!」


 その直後、地上からその詠唱が耳に入る。

まさか......私はゆっくりと再び瞼を上げた。

翼竜の放った魔弾が、魔法陣によって跳ね返されている。


「シュエリーさん!」


 私は思わず地上にいる彼女に視線を送った。

すると、彼女は親指を立てて叫ぶ。


「ありがとうミリアさん! 一緒にクロノスも倒すわよ!」


「はい!」


 私は窮地を乗り越えて落下している状況でありながらも、思わずほっとため息をついた。

ん? 落下?

あれ、そういえば私このまま落ちたら死ぬのではないでしょうか?

そう脳内に考えが浮かぶと同時、再び彼女に視線を送った。

しかし、またしても私は気づく。

そうだ、彼女は貴重なMPを私のために消費したばっか。

ここでまた助けてもらっていいものか。

いやでも、このままじゃ死にますよ私!


「安心しろ! 俺が受け止める!」


 焦っていると、エレファントさんは周りの敵をなぎ倒しながら私が落下するポイントに到着していた。


「エレファントさん」


 すいません、さっきは酷い人と思ってしまいました。

ですが今はあなたのその大きな身体がとてつもなく安心感を与えてくれます。

あぁ、これでやっと助かる。


「狙いやすい的がいるねぇ!」


 と思った矢先、今度はクロノスがこちらに攻撃を仕掛けてきました。

何で私だけ次から次へとこう、危機が訪れるんですかね。

もう無理ですって、助けてくださいお願いします!

私はひたすら助けて助けてと両手を組み、そう復唱した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る