第117話 カリブ、剣を授かる。視点、カリブ

「おらぁ!」


 俺は再び弱腰になったシュンへ向かって切りかかった。

奴は魔闘器の力でそれを回避し、距離をとる。

わかってる、もうこの勝負は決着がついているんだ。

俺がどんな攻撃をしたところで、あの光の壁に無効化されてしまう。

おまけにこいつは、俺が壁に触れないために時折シールドを解除して避ける。

それぐらい力量差があるんだ。

だが勝てる見込みはないとわかっても、引くことはできない。

カタリナを呪いから救うためにはシュン......お前を倒さねぇとダメなんだよ!


「カリブお前、カウントが30に。さらに10年、消費したのか」


「これで勝てなきゃ、俺は何度だってこのカウントを増やしてやる」


 とはいったものの、身体への負担が大きいのか目から血が垂れる。

痛みはないし、老化しているわけではない。

しかし、確実に死が近くなっていることを示唆しているのだろうか。

まぁ、そんなことはどうでもいい。

これであの壁にヒビの1つでも入るか......試す!


「しねやシュン!」


 俺は飛びかかると同時に巨大なオーラを纏った剣を振り下ろす。

シュンは即座に光の壁を展開し、対抗した。

表面に剣が接触するが、消滅はしなかった。

そして、少し切り込みが入るという感触がはずかにある。

このままフルパワーを維持すれば破壊できる!

そう少し可能性を見出した直後、壁にさらに光の粒が集約した。

まさか、今のはまだ完成していなかったのか!

そう気づいた時にはすでに遅く、剣は壁によって消滅させられた。


「そんな、こんな差がついていたのか」


 魔力量がいくら膨大だからって、30年だぞ!

剣が残っていたとしても、あとどれだけの寿命を消費すれば勝てたのかわからない。


「これでもう戦えないだろ。安心しろ、クロノスを倒したらカタリナさんだってきっと助かる」


 膝を地面に落とし、唖然としているとシュンは背を向ける。

力で負け、器でも負けた。

女ですら殺そうとした相手に助けられる。

これ以上の屈辱、もう耐えられねえ。


「うわぁ! お前、まだ戦う気か!」


 素手で殴りかかるが、またしても避けられる。


「殺してくれシュン。これ以上、生き恥を晒すのは御免だ」


 俺は何度も何度も、飛ぼうとするこいつに襲い掛かった。

それでもシュンは壁を展開せず、避けて飛翔しようとする。


「馬鹿にするのかてめぇ! 戦えや!」


 そう叫びかけると、シュンは殴り掛かる俺へカウンターをぶち込んできた。

自身の全体重がそのまま顔面に反作用して伝わる。

鼻血が出ると共に、一瞬意識が飛んだ。

地面に倒れた衝撃が意識を立て直すが、同時に背にも痛みが走った。


「馬鹿にしてたのはどっちだよカリブ。俺はやっぱりお前のことは好きになれない。

どっちに転ぼうがお前は自分勝手すぎる。

そこで事が終わるまで、大人しくしててくれよ」


 シュンはそう言い残し、立ち去った。

瓦礫の山に残された俺は、全身に走る痛みだけを感じ取っていた。



 あぁ、たしかに自分勝手だよ。

だけど、俺は本当に勇者になりたかっただけなんだ。

誰からも賞賛され、慕われる。

そんな勇者になりたかった。

だけどいつしか、自分の力が他より圧倒的に優れてると知って変わってしまったんだ。

世界は俺のためにある、そう考えるようになった。

だけど今は少し違う。

今はただ、カタリナを救いたいだけなんだ。

自分のやってきた事の代償だって言うのはわかる。

けどカタリナだけは、俺が助けたい。

そう思った。

だけどもう、それすれ叶わないらしい。

カタリナ、お前は1人でもやっていけるだろ?

いや、シュンがいれば安心だな。

こんな弱い男にいつまでも付き添わされたくねぇよな。

俺は這いつくばりながら、少し下にある尖った瓦礫を発見した。

あそこに落下すりゃ、一瞬であの世逝きだ。

呼吸を落ち着かせて、最後の力を振り絞る。

その瞬間、誰かの脚が眼前に現れた。

誰だ、最後の覚悟を決めたというのに。


「若造、どこまで生き急いでるんだまったく」


「この声……カエサルか!」


 くそ、老いぼれが弱った俺を仕留めにきたってわけか。

ふざけんなよ、こんな事ありかよ。

自分の最後すら、こんな惨めに終わらなきゃならねぇのか。


「どっ……!?」


 脚から上へ、顔を上げた直後。

青白い剣が耳元でスレスレを通り、地面に突き刺さる。

満身創痍だから外した?

いや違う、今度こそ顔を上げた。

するとそこには、白衣を着たモヒカンのじじいがいた。

な、なんだこいつ。

その男の後ろで壁にもたれかかったカエサルがいた。

訳がわからない組み合わせに混乱しているが、カエサルは構わず口を開いた。


「お前はわしによく似てる。許すわけにはいかないが、チャンスをやる。その剣でもう一度、勇者になれ」


「カエサル……意味がわからねぇ。お前に似てのか知らねぇし、俺は敵だぞ!」


「わからねぇガキだな。王様はクロノスを倒すのに、1人でも多く加勢するべきだと判断したんだ。お前の事情は知らんが、さっきの戦闘でシュンが躊躇っているのを見れば加担したくてしているわけではないのは把握できる」


「だがそれでも、俺なんかが助けに入ったところで……」


「カリブよ、お前は大切な人はいないのか? イヴァンたちは腹黒い、クロノスが勝てばお前は用済みされるだろう。その時、お前の守りたい者はどうなるんだ?」


 ふざけんなよ、マジで。

ここまで惨めに転落して、最後の最後に勇者になれだ?

神様は俺をどこまでも弄びやがる。

ちくしょう、立ち上がったら余計に痛覚が刺激される。


「よく立ち上がったぞ、カリブ。テッタ、ポーションをやれ」


 カエサルはゲホゲホと咳をしながら、自分の分のポーションを渡した。

恐らく、俺が病院を破壊したから残っていたのがこれだけ。

まったく、馬鹿なじじいだ。


「うるせぇぞ戦犯脳筋じじぃ。てめぇの尻拭いに加勢してやるんだ。少しは感謝しろや」


 俺はテッタから強引にポーションを奪い、一気に飲み干した。


「ガハハ! 全くその通りじゃ。頼むぞ、悪ガキ勇者」

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