第103話 シュンたち一行、浜辺で休む。視点、シュン

 何と表せばいいのだろうか?

雲一つない澄んだ青空、それに負けないぐらい鮮やかな浜辺。

俺ら3人は今、そんな現実とはかけ離れているような場所に立っていた。


「見てくださいシュンさん! ピンク色の綺麗な貝殻です!」


「う、うん。そうだね」


 俺のここに来た目的は、遠くにうっすら見えるあの島にいるバハムートと呼ばれるドラゴンから鱗を持って帰ること。

なのだが、夜を徹して動き回ったこともあり、ここで一旦休憩をとった。

暗くてあまり景色が見えなかった昨日は、ビクビク震えて怖がってたミリアさん。

そんな彼女の気持ちを反転させるほど、ここの景色は見応えがある。


「ミリアさん、これから島に行くのですからそんな浮ついたこと……。あ、シュンさん?」


 俺は彼女を諌めようとするカリナさんに声をかける。

たしかにこれからどんな過酷な戦いになるかわからない。

しかし、シュエリーさんの安全は確保できた訳だ。

ならば、そう慌てずともいいだろう。

俺もここ最近はずっと気を溜め込んでたのか、真に休まる感覚がなかった。


「カリナさん、街に戻ったらまたイヴァンの目があると思う。

だから、ここぐらいしか今俺たちが気を落ち着かせられる場所ない。

目的を忘れたわけじゃないけど、ここで英気を養うのも悪くないんじゃないかな?」


 そう宥めるような声で話すと、カリナさんは少し黙り込んだ。

そして目を見開くと、深く頷きながら応える。


「わかりました。シュンさんがそうおっしゃるのなら」


 カリナさんは木陰の下に行くと、腰を下ろす。

はしゃぐミリアさんをじーっと見つめ、ただそこに居座った。

う、うーん。

遊んで気分を晴らそう的な感じで俺は言ったんだけどな……ま、いいか。

よし、俺も初めての海を満喫するぞ。

後で話聞いたら、シュエリーさんぐちぐちと不満漏らすかもしれないけど。


「ミリアさ〜ん! 何してるの……のって」


 俺は近づくまで、彼女の衣服が薄くなっているのに気づかなかった。

彼女の腰回りと胸部以外は全て、肌色となっている。

目のやり場に困るし、胸も腰も防御が薄い気がする。

特に胸、彼女の大きな2つのそれは下着でも少し収まりが悪い。

あぁ、俺も木陰にいれば良かったや。

初めての海で舞い上がってしまった自分が憎い!


「どうしたんですか? おーい、シュンさーん!」


「ミリアさん、俺やっぱ戻るよ。服濡れたら乾かすの面倒だし」


 適当な理由をつけ、水面に沈めた足を引き上げる。


「えー、せっかくシュンさんと2人なのに」


「え? 今なんて……うわっ!?」


 振り返ると同時、俺は両手で”ドン!”と彼女に身を飛ばされた。

こんなことするタイプの人間じゃないと勝手に想像していた俺は、呆然と彼女を眺めた。

ミリアさんはとてつもなく目を泳がせ、指をもじもじと動かす。


「あ、えっとこれは……そう! トルネードシャークがいたんですよ! シュンさんの足元に」


 あぁ、すっごい嘘下手くそだミリアさん。


「い、いないけど。あはは」


「え!? そ、そうですね見間違いでした。ご、ごめんなさい!」


 想像できなかった状態になったけど、濡れてしまった以上もう言い訳は聞かない。

仕方ない、なるべく視線を合わせず遊ぶか。

強引に引き止めてまで一緒に海を楽しみたかった彼女の心を、無碍にはできない。


「気を取り直して、遊ぼうよミリアさん!」


「そ、そうですね! じゃあ、沖まで競争しましょう! とりゃあ!」


 彼女はテンパリすぎたのか、この場にじっとしているのが落ち着かないのか。

とりあえず、めちゃくちゃ素早く泳いだ。

俺も徐々に身体を水の中へと入れていく。

泳いで身体を疲れさせれば、少しは邪な心も減るだろう。


 俺は彼女の後を追って、水を掻いた。

……あれ、沈んでね?

簡単に進む彼女を見て、泳ぐことなんて簡単なんだろうと錯覚した。

両腕を何度掻いても、だんだんと沈んでいく。

足場のつかないところにすでに来ており、少し命の危機を感じた。


「遅いですよーシュンさん! 私もうここまで来ちゃいました! いえーい!」


 嬉しそうにこちらを振り向く彼女とは反対に、俺は魔闘器の反動を使ってなんとか余裕そうに作り笑いをした。


「あ、イルガが来ましたシュンさん!」


 イルガ、たしかとても知能が高い海洋生物だった気がする。

人間のように喋ることはできないが、音波を出して仲間とコミュニケーションをとることができるというが。

でも、見たところ一匹しかいない。

ん?

そういえばイルガは尾ビレが水平だと、本に書いてあったような。

尾ビレが縦の、イルガと似た海洋生物。

……もしかして!?


「ミリアさん、そいつイルガじゃないよ! 早く逃げて!」


「え、何言ってるんですか! 可愛いと噂のイルガちゃ……ん? あれ、これってもしかしてトルネードシャーク?」


 大口を開けるモンスターの前で、ミリアさんは思考が完全に停止したのか動かずいた。

やばい、早く助けないと。

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