第104話 シュン、トルネードシャークに遭遇する

 飛行してミリアさんの元へ向かっているけど、追いつけない!

俺は浮かんでいた木の破片を蹴り飛ばした。

トルネードシャークの大口にそれは見事挟まり、僅かな隙が生まれる。


「ミリアさん! 早く逃げて!」


 大声で呼びかけると、「ハッ!」と踵を返してこちらへ泳ぎ始めた。

これなら間に合う、そう少し安堵した直後だ。

その獰猛な海洋生物は木の破片を粉砕し、真下に潜りだした。

何だ? もしかして諦めたのか?

俺が彼女の手を何とか組み、空中へ持ち上げようとするがそれはできなかった。

まるで彼女の足と錨が結ばれているような感覚だ。

水上を見ると、激しい渦潮が足元に発生していた。

これが、トルネードと呼ばれる所以なのかも知れない。


「ミリアさん、自分でも足持ち上げられない?」


 渦潮の下から黒い陰が徐々に拡大していく。

近づいてきていると直感するが、慌てても意味はない。

焦りつつも俺は彼女にそう声をかけた。


「ダメです! 渦の勢いが強くて」


 迫る陰はついに実体を露わにして、こちらに食ってかかろうとした。

ええい、仕方ない!


「バスター!」


 左腕の魔闘器に魔力量を分散させ、俺は威力を最小化して発動した。

シャークの口の中へそれが放たれると、胴をぶち破った。

白目を剥いた獰猛な海洋生物は、赤い血を漂わせる。

そして、小さな魚がその身をつつく。


「シュンさん、ごめんなさい迷惑かけてしまって」


 ミリアさんは暗い顔でそう震えながら声を漏らした。

空中で身体にしがみつく彼女の力が、少し弱まる。

それに伴い、俺は彼女の身をがっしりと抱いた。


「ミリアさんのせいじゃないよ。こんな危険な生物がいる海域って知らなかったんだから」


 でも、これでバハムートと万全の状態で挑むことができなくなった。

3人でまた、戦える方法を考え直さないとな。

戻る途中、その考えに耽っていると沈黙を続けた彼女が声を発した。


「シュンさん! またあれが来てます!」


 指差す方へ顔を向けると、渦潮が発生していた。


「本当だ、少し離れるね」


 空中にいるから安全だろうけど、一様距離を置く。

俺は少し放物線を描き、浅瀬を目指そうとした。

その瞬間、目を疑った。

シャークは渦潮の回転の勢いを活かし、こちらに向かって水面から飛び跳ねたのだ。

そんなのありかよ!

俺は咄嗟に高度を上げて回避する。

もしあの低さのまま飛行していたら、身体の一部を持ってかれていた。


「シュ、シュンさん。なんかめちゃくちゃやばいんですけどこれ」


 辺り一体の海面を見ると、そこら中に渦潮が発生していた。


「ミリアさん、もしかしてこれ全部」


「はい、多分」


 この高さなら流石に渦潮の力を使っても来れないだろうけど。

なんて所なんだ……ここは。


__数分後__


 ようやく浅瀬に着き、一安心だ。


「おーいお前ら! なーにしとるんだ馬鹿もん!」


 そう荒げた声が下から聞こえた。

見ると、漁師が眉をしかめてこちらに延々と声を張ってきた。

俺はここらで漁をしているのだろうと判断し、彼らの船へ降りた。


「すいません。シャークを呼び寄せてしまって、漁の邪魔になりましたよね」


 俺はそう言いながら頭を下げた。

すると、漁師たちは面を合わせ爆笑する。


「ガハハ! 本当に馬鹿もんだなお前さん」


「え?」


 こちらに歩み寄る1人のおじさんは、下げた頭をわしゃわしゃと掻いてきた。


「わしらは君らの心配をしとったんさ。なのに、お前さんわしらに迷惑かけたこと考えるか」


 あ、そうか。

つい怒っていたから勘違いしてしまったな。


「でもま、そういう性格なんだな坊主。ガハハ! 気に入った!」


 と、とりあえず事なきを得た。

あ、ミリアさんのこと忘れてた!

降ろした彼女を見ると、またしても暗い顔をしていた。

まだ自分のせいだと思っているのだろうか?

俺は彼女に近づき、腰を下ろした。


「ミリアさん、さっきも言ったけどそんなに悪く思わないで」


 彼女はこちらを見つめ、目を潤わせた。

え? 泣くほどのことなの!?

さらに慰めようと、口を開きかけたその時。


「シュンさん、私……悪いです」


「大丈夫だよ。ミリアさんは悪くない!」


「いや気持ち、悪いです」


 へ?


「ふ、船酔いです。ちょっとどいてください! オロロロロロ」


「え!? えー、そっち?」


 まぁ落ち込んでたわけじゃないならいいか。


「ぷはぁ! お二人とも! ご無事ですか!」


 海面から勢いよく登場したのはカリナさんだ。

俺はまたしてもあのモンスターが来たと錯覚して少しビクッと肩を震わせた。

船の上に着地した彼女はクールな表情だが、格好はあまり。

海藻がぺったりまとわりつき、服の隙間から小魚が飛び出していた。

カリナさん、もしかしてミリアさんと引けを取らないくらい実は天然?

オロロするミリアさんと変な格好のカリナさん。

そして魔闘器を失った俺。

なんだか、この3人大丈夫な気がしなくなってきた。

バハムートと戦えるのかなこんなんで。

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