第99話 シュン、テッタを救う

「あの、実験とか嘘ですよね? あと自分シュンって言うんですけど、お名前は……」


 俺(シュン)はそう半信半疑で聞いてみると、案外気さくに返答してきた。


「俺はテッタ、しがない研究家さ」


 そう軽く言い終えると、懐から注射を持ち出した。


「あの、それはもしかして……」


 テッタと名乗る老人は、ニコっと口角を上げた。


「あぁ、お前を気絶させるのさ! さ、お手を出してごらん」


「む、無理ですよ! お、お願いしますテッタさん! この子を助けたくて、あなたを探してたんですよ! だからどうか」


「俺はな、この丸いガラスを通して見ると魔法の属性が判別できるんだよ。

火なら赤、水なら青といった具合にな。

でもお前のは、初めて見た。

あぁ、早く研究したい!」


 ダメだ、興奮しているのか聞く耳を持ってくれない。

かといって、彼を倒せばシュエリーさんが。

それは、彼の注射針が網の隙間を通った瞬間に起きた。

矢が足元近くの地面に刺さり、彼はよろめいて針を落とす。


「誰だ、俺の研究の邪魔をする奴は!」


 テッタは鉄の長細い棒状の何かを取り出し、空中へ向けた。

そしてその棒の先端から火の粉が散ったと同時、破裂音が響いた。

これが、ベヒーモスの身体に穴を空けた正体。


「こちらです! あなた、シュンさんから離れなさい!」


 その聞き覚えのある声の方へ向くと、ミリアさんとカリナさんがいた。

俺の後を追ってきたのか。


「お前らか。安心しろ、殺しはしない。ただ、こやつの身体を調べたいだけだ」


「それのどこが安心できるというんですか! いいから離れてください!」


 まずい、このままじゃ両者が戦闘してしまう。


「ヴビィ!」


 これは、ベヒーモスの鳴き声!?

どこからだ?

そう瞬時に不安がよぎると、すぐにその原因である怪物は姿を現した。

木々を押し倒し、現れたベヒーモスは先ほどの個体と比べ物にならない大きさだ。

もしかして、さっきのは幼体だったのか?

これが成体のベヒーモスの姿。

あの小さな個体の爆発でも、威力はデカかった。

この個体の角に触れたら、どれほどの規模になるか想像がつかない。


「みんな、言い争うのは一時中断しよう! 早くここから逃げないと」


「そうだな、じゃ達者で!」


 そう親指を立てたテッタは、網を解くこともせず1人でどこかへ去ろうとした。


「ちょ、俺ら放置!?」


 迫りくるベヒーモスを前に、俺はジタバタともがくことしかできない。


「シュンさん、今助けます」


 焦る俺とは対照的に、彼女らは至って冷静に網目を切り裂いた。


「あ、ありがとう」


「はい、あちらへ逃げましょう」


 立ち上がった俺は、シュエリーさんを背負い彼女らの後を追うように一歩踏み出す。

しかし、それと同時にベヒーモスの顔の向きが変わった。

流石知能が回るというか、逃げる1人に対象を変更した。

つまり、テッタさんの方へモンスターは迫ったのだ。


「シュンさん、立ち止まっては危険です」


「二人とも、シュエリーさんを頼むよ」


 俺は2人に彼女の身を預け、魔闘器の力で低空飛行した。


「ハハハ、崖に追いやられるとはな。だが、まだ終わらんよ!」


 テッタは先程の鉄の棒をもう一つ取り出し、けたたましい攻撃を繰り出した。

しかし、今回はどれほどそれを与えても跡が少し残るだけだ。

物ともせずベヒーモスは彼は歩み寄った。

大口を開け、捕食の態勢をとる。


「テッタさん、どいて!」


 俺は彼の前へ割り込み、ベヒーモスの口に包まれた。

一瞬終わったと覚悟したが、歯に身体を引き裂かれることは回避したようだ。

今なら打てるかも知れない。

俺は上顎へ手を置き、バスターを発動した。

光の柱が上顎を貫通し、ベヒーモスの頭蓋を消滅させる。

口から上の部分を完全に消し去ると、ベヒーモスの下顎は地面へ接地した。

下顎から下り、俺はテッタさんを探した。

ファンキーな容姿をしている彼だが、意外にも腰を抜かして動揺していた。


「大丈夫ですか? テッタさん?」


「あぁ。すまんな迷惑かけたのに」


「いえいえ、それで助けたついでにお願いがあるですが」

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