第98話 シュン、ベヒーモスに遭遇する
かれこれ10数分経つか。
かっ飛ばして北西に進んできたものの、見えるのは建物ではなく森林ばかり。
はぁ、一体いつその仙人とやらが発見できるのだろうか。
早く探さないと、シュエリーさんも本当に危なくなる。
もしかしたら、地下とか大木の中にいるのかな。
俺は、着地してしばらく森を歩いた。
ていうか、勢いでこんな所来たけど思いだしてしまった。
この国でなぜ北西に森林が多く、開拓が進んでないか。
それは、ベヒーモスと呼ばれるイノシシのような巨大なモンスターが棲息しているためだ。
今更だが、ちゃんと周囲に用心しなければ。
......生唾をごくりと飲んだその時だ。
奥から何かが物音を立てて接近してくる。
ドスドスと四つ足で進む音が響いてるのを見るに、明らかに人間ではない。
ベヒーモスがどのような攻撃をしてくるか知らない以上、迂闊に攻撃するのは危険だ。
一先ず空へ逃げなければ。
「ヴビィ!!!」
突如として目の前に現れたそれは、モンスターというより怪物だった。
筋骨隆々な腕や脚。
その先端に生える鋭利な爪、そして曲線を描く特徴的な角。
全てが他のモンスターと比べて桁が違う。
ただ唯一安心できる点を言えば、聞きかじった情報と比べて体格が劣ることだ。
噂では、木々をなぎ倒すほど大きいという。
しかし、目の前のそれは大きいとはいえゴブリンキングと大差ないレベルだ。
いや、観察している場合じゃない。
俺は静止してこちらをじーっと目で追ってくるベヒーモスに刺激を与えないよう、ゆっくりと足を地面から離していった。
よし、このまま遠くへ......。
「ヴビィ!!!」
俺は、モンスターだからと相手の知能を見誤った。
そして、ベヒーモスの角による攻撃の威力に目を見開かずにはいられない。
その先端が木に接触するや否や、爆発した。
恐らく、火属性の魔法が使える。
根本が爆破されると、木はこちらが飛翔している方向へなぎ倒れる。
撃ち落としに来ているのだろうが、モンスターとは思えない計算力だ。
俺は急いでバスターを放ち、向かってくる木を破壊した。
だが、片腕で人を支えるのは結構きついことだ。
思わぬハプニングで体勢を崩し、支えていたはずの彼女の身体を落としてしまった。
間一髪で彼女の腕を掴み、怪我を負わせず済んだ。
しかし、まさにそのタイミングを狙っていたのか。
ベヒーモスは直前まで接近しており、角がまさに鼻先に触れようとした。
「ヒイィハァ!!!」
その直前、異様な掛け声と共に間髪を入れない破裂音が響いた。
けたたましい音が続くほど、ベヒーモスの身体は徐々に力を失っていく。
そして、ついにうつ伏せとなり倒れた。
少し後ずさり、ベヒーモスの背の全体を見て絶命したことを悟る。
臀部から腰にかけて、ハチの巣のように穴を空けられている。
「生きた人間がここにいるとは、珍しいなぁ。実験体にでもなりに来たかぁ?」
俺はベヒーモスの死体に気をとられ、誰かが接近するのに遅れて反応した。
顔を上げると、モヒカンで不気味な笑みをする爺さんがいた。
白衣の袖をギザギザにし、目の周りには丸いガラスを金属の縁で囲ったものを装備している。
この人、本当に何なんだ一体。
いや、もしかしてこの人が親父がいってた仙人?
「あの、あなたがもしかして噂の仙.....て、何ですかこの網」
俺は為すすべもなく網に囚われ、身動きを制限された。
「お前さんから、珍しい魔力を感じる。生きた人間を研究するのはしたことないが、興味があったんだよなぁ。なぁに、殺しはしないから安心しな」
どうやら、まだ危機的状況は続きそうだ。
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