第100話 シュン、意表を突かれる

 俺たちは、何とか和解してテッタさんの研究所へ招かれた。


「さ、ここだ。入ってくれ」


 ブワンと振動音が鳴った直後だ。

奥までびっしりと点々とあった木々が突如消えた。

そして、自然の中ではとてつもなく異物感が印象的なミラー状の建物が出現した。

このまま歩いていたらぶつかってたと確信するほど綺麗に隠れたものだなぁ。

空からじゃ見つからないわけだ。

て、そんな感心している場合じゃない!


「テッタさん、急かして悪いんですが彼女を治せますか?」


 俺(シュン)は建物の中に入っていく彼の後を追った。


「まぁ落ち着け。3人とも、そこにかけろ」


 しばらく歩くと、椅子とテーブルしかない質素な部屋へ着いた。

俺はシュエリーさんの顔色が酷くなったのを見て、腰をかけて待っていたものの冷や汗が止まらなくなった。


「遅いですね、聞いてきましょうか?」


 同じく煮え切らないのか、ミリアさんたちはさらに奥の部屋へ消えていったテッタさんを探そうとした。


「待って! せっかく落ち着いたのに、また不機嫌にさせたらダメだって」


「そうだぞお前ら、せっかく俺が協力してやるって言ってんのによ」


 そう会話に割って入ったのはテッタさんだ。

やっと戻ってきたかと思えば、注射針を携えていた。


「それを刺すんですか?」


 俺は正直、不安しかない。

物理的な医療行為が治癒魔法でも効かない毒に効果があるのか?


「お前ら、疑ってんなその目」


 ぶつぶつ言いながらも、テッタは慣れた手つきで注射を終える。


「よし、これで半日後にまた同じ薬を投薬すれば治る」


「ここって魔法の研究所ですよね? てっきり、すごい治癒魔法を発動すると思いました」


 ミリアさんが不思議に思ってことをぽろっと吐くと、テッタさんはため息をついた。


「はぁ、まったくこの国の知識レベルというのは何年経っても変わらないな」


 テッタの言葉にムッとほおを膨らませた彼女は、俺に助けを求めてきた。


「テッタさん、本当に彼女は大丈夫なんですか?」


 彼は頭をぼりぼりと掻いた後、気だるそうに口を開いた。


「いいかお前ら、そもそもこいつに付けられた毒はどんな物か理解してるのか?」


「遅行性の毒です」


 カリナが即答するが、それに間髪入れずにテッタは次の問いを投げた。


「遅行性の毒だなたしかに。で、どうして遅く毒が回るか理解しているのか?」


 そう言われると言葉が詰まり、カリナさんは視線を逸らした。

その様子を見て、俺とミリアさんもどうしてかは考えが至らず黙り込んだ。


「お前ら、魔法というのは科学の上に成り立って初めて意味があると理解するといい。

その毒がどのような身体に作用するものなのか、さらにはそれを物理的にどう解毒できるのか。

科学を深く理解すれば、並みの治癒魔法を凌駕するのは造作もない」


 ……科学。

感覚的に発動でき、生活や戦闘に役に立つ魔法と比べて膨大な知識を要する。

それゆえに人々は自然と科学よりも魔法に意識を向けてきた。


「では、テッタさんは魔法研究ではなく科学研究をしているということですか?」


「いや、両方だな。科学を理解しなくても魔法は使える。が、科学を理解していれば更に威力を増したり、便利な魔法を生み出すことができる」


 だんだんと喋りに熱が入ってるのを見ると、やはり彼も研究者なんだと実感させられる。

そう感じ取った瞬間、さっきまでの疑いの思いは晴れた。

多分、いや確実にもうシュエリーさんは大丈夫だろう。


「テッタさん、数々の無礼本当にごめんなさい!」


 完全に彼女の身が安全になったと確信を持った直後、やっと自分の発言を顧みる俺って身勝手だなほんと。


「「私もすいませんでした」」


 俺たち3人は、不機嫌になった彼へひたすらに頭を下げた。


「ま、俺も人のこと言えんからお互い様だ」


「でも、恩も迷惑もいろいろありましたしお礼しないとなんかなぁ」


 俺がそういうとテッタさんは詰め寄ってきた。


「ふふん、そんなに感謝しているのか。いいだろう、じゃあお前を研究させてくれ!」


 テッタは目を輝かせながら、懐から取り出した毒々しい注射を見せつけてきた。


「ちょ、待って! 何でそうなるの!?」


 狂気的な笑みを浮かべる彼に、俺は壁際まで追い詰められる。


「テッタさん! 他のでお願いします!」


 カリナさんとミリアさんが彼を何とか引き剥がして説得すると、露骨に落ち込んだ顔を浮かべた。

すごい人なんだろうけど、こういう狂気的な部分がなんとも近寄りがたい。

まぁ、それでも助けてくれた恩人だから無下にはできない。


「テッタさん、例えば研究に必要な素材集めとかはダメなんですかね?」


「まぁ、それならいいけど。でもなー調べたいんだよな、君の魔法」


「テッタさん、俺の魔法ってバスターだけですよ? しかも6属性に分かれる前の古いものみたいで使い勝手も悪いし、調べたところで大したことないですって」


「いや、それめっちゃ凄くね? 半神てことだろ?」


 テッタさんはポロッとそう発すると、一瞬場の時間が停止した。


「半神……て、神と人の間に生まれた存在ってことですか?」


「まぁ、厳密には違うけど概ねそんな感じ」


 俺が半神って、何言ってんだこの人。

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