第97話 シュン、大会後の祝勝会へ招かれるPart.final

「シュンさん、私が診ます」


 駆け付けたカリナさんは、シュエリーの顔の隅々に手を置き観察する。

そして慣れた手つきでそのまま彼女の身体も探り始めた。

肩のところに手を回すと、ピタっと止まる。

そして服を切り裂き、その部分を露にした。


「これは、超遅効性の毒です! なぜ気づかなかった......」


「ど、どうしたのカリナさん?」


「毒の上に、カモフラージュと回復阻害の呪文がかけられています」


「「お姉ちゃん、死んじゃやだよ!」」


 双子ちゃんたちも俺らの深刻な雰囲気を察したのか、彼女が危険な状態なことに気づいた。

さっきまでの賑やかで楽しい空間が嘘のようだ。


「いったいいつ、そんな毒を仕掛けられたんでしょう?」


 ミリアさんは焦りながらもそう話す。


「たぶん、クロノスとの試合でだと思う。見てたけど、一度だけ違和感のある攻撃をした気がする。クソ、なんで彼女だけこんなめに合わなきゃいけないんだ」


「これは推察ですが、同時に2人へ不可解な攻撃をすれば警戒されると判断したのでしょう。

いくら回復阻害の呪文といえど、早期に発見されれば対処する策が生まれるかもしれませんし」


 あぁ、本当にどこまでも手の込んだ攻撃をしてくる。

疑いの目すらかけられないために、わざわざ超遅効性の毒を使ってこんな。

そこまで他人に罰せられたくないくせに、悪事を止めないなんて。

馬鹿げてるよ......本当に。

こんな馬鹿な奴らに、シュエリーさんの命が失われなきゃいけないのか?

そんなの、絶対に嫌だ!

でも、様子を見るに今日が山場になるだろう。

もう手の施しようが、俺には皆目見当がつかない。


「シュン、そんな女々しい顔するな。男なら、堂々としろ」


「そうよシュンちゃん、彼女が泣いてるわ」


「親父! お袋! こんな......こんな時でもそうやってふざけるのやめてくれよ!」


「ふざけているのはお前だ! 助けたくないのか、その子を」


 親父たちの方へ振り向くと、顔つきが普段とまったく異なっていた。

いつもは子ども扱いして、真剣な表情1つ見せないあの二人がこんな感じになるなんて。


「何か治す方法を知っているのか親父?」


「いや、俺は知らん。だが、心当たりがある」


「心当たり?」


「あぁ、この国の北西に1人で魔法研究をしている仙人がいると噂で聞いたことがある。首都であるここよりも、進んだ技術を持っていると記憶している」


「あなた、それは本当に根も葉もない噂だろ」


 ミリアさんの父親は、そう言い放つ。

確かに、噂程度の話を信用しきることはできない。

だけど!

俺は魔闘器で壁一面の窓ガラスを割り、夜空に浮遊した。


「親父! 本当にその仙人がいたら、今度うまい酒送るよ! 急ぐから、じゃあな!」


 シュエリーを背負い、俺は魔闘器に魔力を充填させた。


「シュン! お前本当に、立派になったな。頑張れよ!」


 その言葉がかすかに飛行する俺の耳に残った。

親父、今までごめん。

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