第96話 シュン、大会後の祝勝会へ招かれるPart.3

「さぁさぁ、みなさん舞台の方をご覧あれ!」


 長細いテーブルに置かれた料理も半分ほど消えた頃、そうマナフェスさんは発した。


「シュンさん、始まりますよ!」


 俺は普段食べることができないご馳走に名残惜しさを感じながら、舞台の方へ顔を向けた。

パチンと彼が指を鳴らすと、広い部屋のカーテンが全て閉じられて暗闇が視界を支配する。

突然のことで、一瞬静まり返る場内を彼の声だけが鳴り響いた。


「シュンさんとシュエリーさん、今回はご迷惑かけてしまって反省しています!

今日はこのマナフェス、全力で皆様に楽しんでもらいたいと思います! ハッ!」


 掛け声と共に辺りに無数の光の粒が灯った。

それはまるで星空のようだ。

ただ、星空と違うのは壁や床にまでそれが広がっていること。

空には宇宙があると聞くが、そこへ身を置いているような感覚だ。


「わー、何これエミリー!」


「わかんないけど、綺麗だねミエリー!」


 双子ちゃんたちがそう言葉を漏らす。

そこまではしゃいだ感想を口に出すのは少し恥ずかしい。

けど、彼女らの言葉通りすごい光景だ。


「まだまだ終わりませんよう! ほい!」


「あ、流れ星!」


 煌めく星の一部が美しい軌跡を描いて辺りに広がっていく。

大道芸って言うから、なんか笑わせにくるかと思った。

だが、何も人が面白いと感じる種類も一つではない。

ミリアさんがマナフェスさんのファンになった理由、なんとかなく分かった気がするよ。


「皆さんにも、流れ星をプレゼントしますよ! ハッ」


 そう言うと、マナフェスさんの杖から放たれた光は観覧していた俺たちのところへ来た。

光と共に小包が手元に落ちた。

なんだこれ?

開くとビヨーンと人形が飛び出た。

少し驚きつつも、中に入っていた紙を読んだみた。


「さぁさぁ、今度は皆さんも何か披露してみませんか?」


 紙にはさまざまな宴会芸のお題目が書かれており、恐らくどれか一緒にやってみない?

という意図だろう。

……しまった!

完全に忘れていた!

ぼっち生活が長かったから祝い事の慣習をすっかり覚えていなかった。

やばいぞこれは、俺何もできないぞ?

焦っていると、ノリノリで親父たちが舞台に向かっていった。


「はいはーい! この腹的っていうのやりたーい!」


 親父がそう言うと、マナフェスは喜んで応えた。

親父の腹に筆で的を描くと、母に矢先に吸盤のついた矢と弓を渡した。


「ママ! さぁ俺の腹を射抜けるかなぁ! うへへ、うへへ!」


 腹的、どうやらそれは腹芸をする人を射抜けるかと言う宴会芸らしい。

……て、なんてもん選んでんだ親父!

俺恥ずかしいよほんと。

あまりの共感生羞恥により俺は両手に顔を埋めた。


「何してんのよ、情けないわねほんと」


 シュエリーは、お酒を飲んで若干微笑んだ表情で隣に来た。


「いやだって、ほらあれ」


「ふふ、いいじゃない。落ち着いたんだから、パーっとしないと」


「まぁそうだけどさ、まだイヴァンが何かしてくるかもしれないし。喜ぼうという反面、少し不安があるんだよね」


「そうね、聞いた話なんだけど。あの後人質の証言を全てこじつけて、全部クロノスに責任を押し付けたらしいわよ」


「ええ、そんなこともできるのあの人!? 明日まで大丈夫かな?」


 不安になりながら彼女を見ると、小包に入っていた紙を眺めていた。


「さて、私は何披露しようかしら?」


「シュエリーさん?」


「まぁ、悩んでももうしょうがないでしょ。なるようになれよもう」


「そんなぁ」


 彼女は肩を叩き、そう言い残して舞台の方へ向かった。

まぁ、でも心配しすぎもよくないよな。

彼女のおかげでここまで来れたんだし、その言葉を信頼しなきゃ。


「待ってよシュエリーさん! 俺と一緒にやらない……か」


 そう背後から彼女に触れようとした瞬間のことだ。

彼女にタッチすると、まるで薄い板を押したように簡単に倒れた。

なんだ?

これはもしかして、街の一つなのか?

死んだふりとかそんなところ?


「もうシュエリーさん、流石にショボすぎるって」


 そうセリフを吐きながら彼女の肩に触れようと手を伸ばす。

その時なぜか、底知れぬ不安が沸々と湧いて来ていた。

その不安の正体は彼女の肩をさするたび、膨らんでいく。


「シュエリーさん? ……シュエリーさん!」


 顔を見ると、呼吸はしているが目を開いたまま動かなかった。


「だ、誰か! シュエリーさんが!」

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