第77話 クロノスVSシュエリー 中編

 左肩への攻撃、確実に深く傷が残せた。

けど、紙風船を破裂させるだけ?

あのクロノスが絶好のチャンスを逃すなんて、考えられないわね。

でも、身体はまだ動くしとりあえず次の攻撃に備えないとね。

私(シュエリー)は杖を構えて、飛翔するグリフォンに目線を切り替えた。


 その直後、鷲のような翼から鋭い羽根が無数に放たれる。

雨のように降り注ぐ攻撃に、私は転移魔法を使って回避した。

地面に深く突き刺さった羽根は、逃げ遅れればハチの巣のようにされていたことを物語っている。

あれを直撃すると流石にまずいわね。

でも、転移魔法をそんな連発したらすぐにMPが底をついてしまう。


「どうしたぁ! 俺を楽しませろよ!」


 あーもう、まだ考えているのに!

私は迷った結果、走ってそれを回避しようとした。

速いけど、全力で逃げれば当たらなかった。

よし、とりあえずこのまま逃げ続けて隙を......!?


「ハハハ! それを待っていたぜ!」


 突き刺さった羽根は魔法陣を展開し、土の弾丸が回避した私めがけて向かってくる。

しまった、私がMPを温存する癖を知られていた。

この距離じゃ転移魔法で逃げても、弾丸がゲートを消去する前に来てしまう。

仕方ない、ブラストで相殺する!


「ブラスト! ブラスト! ブラスト!」


 嘘でしょ?

土の塊は、岩を凹ませるほどの突風をぶつけても壊れなかった。

3連発したのに、相殺できていない。


「ぐっ......ぐはっ」


 弾丸が胴に当たると、一気に壁にめり込むほど吹っ飛ばされた。

お腹と背、どちらにも激痛が走って息をするだけで苦しい。

私はそれでも、なんとか足を地面につけ立ち上がった。


「ゔぅえっ」


 立ち上がった瞬間、腹部から胃液が込み上げる。

口から吐き出そうになるそれをなんとか手で防ぐが、指の隙間からポタポタと垂れて服にしみ込んだ。

服に水分が広がっていくが、腹部より上でそれは止まった。

見下ろすと、腹部だけ服が消えていた。

赤黒く染まったお腹を触ると、より一層激痛を感じて思わず膝を着く。

ブラストで威力を落としていなきゃ、今頃は......。


「ハハハ! ギブアップかぁシュエリー! まぁ、所詮村人冒険者だから仕方ないかぁ! 転移魔法を1日で覚えたところで、俺の足元にも及ばねえんだよ! わかったか!」


 うるさいわね、どいつもこいつも村人冒険者って。

クロノスの煽りにムカついたからではないけど、その言葉を聞くと力が湧いてくる。

こんなに身体が痛いのに、こうして再び杖を強く握れた。

ギブアップなんてありえない。

今、ここで勝ち上がらなきゃ私は何も変われない。


__ギルド入会当時__


 何故かわからないけど、最近は村人冒険者と馬鹿にされるとシュンに出会うまでの日々を思い出す。

そう、ギルド内で唯一の村人冒険者だった私はどれだけ頑張っても孤独だった。

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