第76話 クロノスVSシュエリー 前編

 破片を再生させるのに、かなり時間食ってしまったな。

いやぁ、技の威力だけは流石カリブといったところか?

俺(クロノス)はゴーレムの身体から元の人間の姿へ戻った。


◆◇◆◇◆


 俺は報告のため闘技場の最上階から一段下の階層の間にある階段で、イヴァンと合流した。

シュンたちに協力する動きを見せたエレファントの処分、失敗したことでまた文句言われるだろうな。

と、予想しながらカリナの生存もついでに報告した。


「何!? カリナが生きていただと!? 詳しく話せ!」


 あれ? エレファントに関してはお咎めなしか。


「馬鹿野郎! なんで、カリナを逃しやがった! 奴が生きていたら、あの場所がバレるやもしれんのだぞ!」


 でもやっぱり怒鳴られた。

俺は鼻くそと耳くそを同時にほじりながら適当に反応した。

こいつがうるさくなると何いっても無駄だからな。


「仕方ないな、屋敷にはあいつを手配しよう。お前はとっとと試合に行け! 今度はヘマするなよ!」


 独り言を言ったかと思えば、イヴァンはせかして俺から離れた。

ぶつぶつと文句を垂れてるのが聞こえたが、許してやろう。

俺は頭をかき、小樽に入った酒を口に入れた。

はぁあ、俺が協力してあいつの兄弟を抹殺してやったのにな。

イヴァンの野郎、計画のためとはいえ俺への扱いが年々酷くなるな。

まぁ、後少しであの魔法が完成する。

そうなりゃあ、あいつも俺の強さにびびって偉そうな口は叩けなくなるだろう。


「さぁ、ここまで酒樽を片手に勝ち上がってきた不思議な男の登場だ! 酔っ払いゆえの予測できない攻撃は、ここまでの全ての試合で幸運にも相手をダウンさせてきた!

ツンツン美少女シュエリーは、彼の攻撃を回避して勝利を掴み取れるかぁ?」


 

 マナフェスの野郎、トイレで鉢合わせた時はヘコヘコしてたくせに。

フードを被って、酔っ払いの真似事までしているのは俺が天才魔法使いクロノスだとバレないためだ。

本当はこんな馬鹿みたいなことしたくねえが、イヴァンに言われてやむを得ずやっている。

にもかかわらずてめぇ、変な口上しやがってからに。

俺の試合では邪魔するなって言ったこと、忘れてねぇだろうな。

睨みつけると奴は椅子から転げ落ち、会場を少し沸かせた。


「シュエリーちゃ〜ん! 一回戦の時は悪かったね! 今回は応援するよ!」


「そうだ! 酔っ払いなんてシュエリーちゃんの転移魔法で覚ましてやって!」


 会場中からシュエリーへエールが送られる。


「ありがとう! でも試合に集中したいから、始まったらボリューム下げてくださるかしら!」


 シュエリーがそう会場中に声を張ると、観客は口々に「ツンツン最高!」と盛り上がる。

どうやらこの女が突き離すような態度が癖になっているようだ。


 くそ、なんで少し強いだけのこんなガキが応援されるんだ。

俺がクロノスだとわかれば、こいつらの声援を黙らせられるのに。

あぁ、まどろっこしいことせずに今すぐにでもこの女を殺してやりたいぜ。


だが!


 それをすれば失格となって、シュンの方を始末できない。

堪えろ、こいつはあの技でやらねばならん。


「いくわよ!」


 ゴ〜ンと試合開始の合図が鳴り響くと、シュエリーはシャボン玉をフィールド上に撒き散らす。

あ〜あ、仕方ねぇな。

せめて戦いをそこそこ楽しんでからにするか。

俺はモンスターの血を入れた瓶と、自身の血を、足元に展開した魔法陣に垂らした。


「人魔一体魔法! タイプ、グリフォン!」


 あ、そういえばこれを使うのはこの大会でこの試合がお初だったなぁ。

やべ、観客たちが引いたらぁ。


「おい、あの酔っ払いなんで超高等の闇魔法を使えるだ? ひょっとして、酔いから覚めてガチになったとか?」


 へっ、都合のいい解釈してくれて助かるぜ。

俺はシュエリーの魔法陣から散布されるシャボン玉を、鷲のような巨翼で吹き飛ばした。

それらはそのまま奴の元へ戻り、無数の閃光を共なって女の近くで弾ける。

その隙を狙い、俺は鉤爪で奴の左肩を攻撃した。

悪いが、てめぇの魔法は報告で既に把握済みだ。


「な、なるほどね。

随一の魔法使いというのは伊達じゃないみたいね」


 ちっ、間一髪で転移魔法を発動させて逃げたか。

だが、左肩にもうあれは取り付けた。


「あー! シュエリーちゃん早くも左肩の風船を破損!」


 いいねぇ、会場もシュエリーもさっきまでの威勢はどうしたんだぁ?

ハハハ、この大会で腹立つことが多かった。

が、やっとこの試合ではテンション上がりそうだぜ。

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