第78話 クロノスVSシュエリー 後編1

 私(シュエリー)はギルド内でずっと孤独だった。

それでも、母の墓石に誓った思いを叶えるために1人でクエストをこなし続けた。

当然、貴族でもない私がクエストを達成しても評価はかなり辛いものになった。

後で聞いた話だが、他の冒険者は家柄により甘い評価をもらえたり、ギルドスタッフに賄賂を送ったりしているらしい。

私にはそんな余裕はなく、3人分の生活費もギルドの報酬では賄えなかった。

だから時折、山へ山菜や魚を自力で獲りにいっていた。


「えいっ! 水のマナよ集え!」


 だけど、私は諦めなかった。

食料を獲りに行くついでに木を相手に、魔法の練習を行った。

最初の頃は、モンスターの討伐へ向かう冒険者パーティーと遭遇して笑われることもあった。

それでも練習を怠らず、ある日やっと木を倒すことに成功する。

やった!

これで私もモンスター退治のクエスト、受けれるんじゃないかしら?

いや、それだけじゃなく......思いついたわ。


◆◇◆◇◆


 その日の私は、山菜を摘む所から少し離れた草原へ来ていた。

ここはモンスターがよく出没するので、冒険者パーティーと遭遇しやすい。


「うわぁ!? ヴァンパイアバットの群れだ!」


 私が岩陰に隠れていると、あるパーティーがモンスターの群れに襲われて逃げてくる。

あれは、闇魔法を使って血を吸うモンスターだ。

一匹なら蚊に刺された程度だけど、あの群れの数だと命に関わる。

3人組の一番後ろで、遅れている子。

あの子はたぶん、MP切れでもう魔法が使えないんだろう。

彼女が、ふところからMP回復のポーションを取り出そうとしたその時。


「きゃっ!」


 小石に躓いて、瓶を割ってしまった。

ふふふ、3人とも困り果ててるわね。

私は絶好の機会と思い、岩の上へ乗りだして魔法を唱えた。


「水のマナよ集え......」


◆◇◆◇◆


 次の日、私はギルドのカウンターバーに座っていた。


「ちぇっ、村人冒険者じゃん。酒がまずくなる、行こうぜ」


 ふん、なんとでもおっしゃい。

私は今日から変わるのよ?

そう、昨日あの後見事窮地から3人を救出してあげたからね。

今日はあの3人にパーティーに加わってほしいと言われたから、こうして申請手続きの間待っている。

パーティーに入れば、村人冒険者の私でもBランク以上の高報酬のクエストの分け前がもらえるわ。

これでようやく、夢への第一歩......。


「あ、終わったのかしら? 3人......とも」


 3人は昨日の歓迎ムードとは真逆で、私を無視して目の前を素通りした。

え、嘘でしょ?

まさか、私が村人冒険者だから?

でも、昨日はそれでもいいって言ってたのに。


「ねぇ、仲間にしてくれるって話は?」


 私は3人組のリーダーである男の腕を掴み、そう声をかけた。


「手を離せ、穢れる」


 その言葉に私は、掴む力を弱めた。

ふりほどいた彼は、ポケットからハンカチを取り出した。

そして触れた部分をそれで擦り、元に戻すことなく床へ放り投げる。

なんなのこれ?

なんでこんな態度されなきゃいけないの?

私、昨日あんたたち助けたのよ?


「せめて、理由教えてくれないかしら?」


「親に言われたんだよ。村人冒険者とパーティーを組んだら家柄に傷がつくってな。俺もそう言われてみればたしかにって納得したわ」


「でも! 昨日は!」


「あー、あれはただのノリっていうか助けられたからうっかりな。ま、そういうことだ。

所詮、村人冒険者がギルドでまともに活躍できるわけないんだからわかってくれよ」


 そういって3人組は何事もなかったように立ち去った。

私はただ、彼らの後ろ姿を茫然と眺めることしかできずにいた。

悔しいとかそんなレベルの話じゃない。

生まれた環境の時点で、私の夢は叶うはずのない幻想なんだと思わされる。

シュンと出会うまで、ずっと私はこのまま惨めな生活で終わるんだと落ち込んでいた。


__現在__


 だけど、今は違う。

貴族でも関係なく、まぁ強引に組んだんだけど。

それでも、シュンやミリアさんみたいな村人冒険者だろうと普通に接してくれる人がいるってわかった。


 貴族がいるから私の生活が変わらないんじゃない。

ギルドのランク制度が実力のみをきちんと評価するものじゃないから、こんなことになっているんだ。

だから、私がこの大会で優勝して証明したい。


 貴族じゃなくても、私は強い!


「おーっと、シュエリーちゃんが立ち上がった! そして、すごーく小さな魔法陣を展開しているぞ。これは一体なんだぁ!」


 私はここで......負けるわけにはいかない!

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