第62話 Fランク冒険者シュンVS道場破りエレファント!後編

 わし(エレファント)は夢でも見ているのか?

シュンとかいう小僧、なんてとんでもねぇ威力の魔法をぶっ放しやがんだ。


「おい上見ろみんな!」


 観客の誰かの言葉につられ、空を仰ぐ。

すると、またしても仰天の光景が目に飛び込んできやがる。

青空にうっすらと、流れ星が見えるような。

あれはまさか……。


「俺は見たぞ! あのシュンて奴が、ほ……星を木っ端微塵にしたんだ!」


 1人がそういうと、嘘だろと周りは騒ぎ出した。

わしもあの威力には一瞬肝を冷やしたが、星を破壊するなんて流石に妄想だ。

空と観客に気を取られていたわしは、カチャカチャという音に意識を向ける。

いかん、対戦相手から注意をそらすのは格闘家としては恥ずべきことだ。


____ズバーン!!!!!


 対戦相手に顔を戻したその時だ。

何かが左肩を掠めた。

気づいた時にはガキは拳を撃ち終わった後の姿。

そして、突風によって白髪混じりのわしの髪が少し靡く。


「振り出しとまではいかないけど、これで風船の数は一緒だ!」


 ガキは、ようやく切り落とされた腕の痛みが出始めたのか、左肩を気にしながらそう言い放つ。


「こ、これはまたすごい威力だぁぁ! シュンの飛ばした石が、なんと会場の壁に風穴を空けたぁぁ!」


 なんだと?

マナフェスめ、芸人ゆえの誇張じゃないだろうな?

石ころを飛ばしただけでそんな破壊力になるはずない……。

やばい、振り向きたい。

どの程度の破壊力かで、こいつの次の攻撃への対処法が変わる。

避けるべきか、受け止められるものか。


 わし以外のこの場にいる全ての人間は、奴の力を認知した。

わしだけが、こいつの力を知らない。

仕方ない、ここは避け……。


斧を打ち砕かれ、ようやく何をしていたか理解する。

あいつは、石を拳の魔闘器にぶつけて攻撃してやがったんだ。


「てめぇ! その魔闘器はMPしか使わねぇはずだ! 何故そんな火力が出るんだ!」


「それは、俺のMPが異常なくらいただ多いから」


「は!? それだけかよ」


「あぁ!」


 わしは間一髪で、3発目の石の弾丸を辛うじて回避する。

まぁいい、落ち着けわし。

凄まじい威力とスピードだが、モジュレーションで避けられるじゃねぇかよ。


今度は間髪入れず2発の石弾が投擲される。

若干ビビったが、やはり緩急をつけた動きによってそれは回避できる。


それを回避したわしは、少し余裕が生まれて背後を見る。

すげぇ全部本当に……会場の外の景色が見えらぁ。

いや、1発だけ貫通せずビビだけのがあるぞ?

これは一体……!?


 わしは何か不安を感じてすぐに体勢を戻した。

なんだこれは!?

さっき放った石の弾の1発がまだ残ってやがる。

そうか、あいつ威力を調整して攻撃を。

2発とも同時に撃ったが、片方は強火力で残りは弱火力。


「だが、アホかお前は! 威力の弱めた石っころならこの鋼の肉体にダメージすら残らんぞ!」


 わしは腹筋に力を込め、回避できない距離に到達していた石を待ち構えた。


んぐぅ!


 弱めたとはいえ、ズシンと効いてきやがる。

胃液が少し込み上げてきたが、耐えたぞ!

フッ、もう後手に回るのは得策ではないな。

やはり戦いは先手必勝!

今度はこちらから行く!


……いない?

しまった、スローの石弾も囮か!

ということは後ろに……もいない。


「どこだクソガキ!」


 ありえない。

達人たちを葬ってきたこのわしが、あんな弱そうなガキに負けるなんて。

あってはならない!

周囲を見渡すが、どこにもいない。

ていうか、みんな上を見ているってことは……。


「上だよ、エレファントさん」


 クソガキは俺の頭に手を置き、逆さまに空中に浮遊していた。

こいつ、脚の魔闘器でわしが見失うほどのスピードで死角をとったというのか。


「こ、殺せクソガキ! 格闘家として、負けたら死ぬことこそ本懐じゃ!」


 腹立たしい、こんなガキがまさかわしの最後の相手となるとは。

だが、負けたのは事実。

悔いはない。


「殺さないよ。エレファントさんのおかげで勝てたんだもん」


 わしのおかげ?

そうか、緩急を付けたわしの戦法を戦いながら真似したということか。

いい、いいぞ小僧。

……気に入ったわ。


 シュンに感心した直後、奴から流れ込む大量の魔力によってわしは意識を朦朧とされた。

かすかに耳に入る、マナフェスの声はわしの敗北を告げた。

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